私は吃音児の内須川式臨床診断仮説を提唱しています。俗に〈U仮説〉といいます。その〈U仮説〉に基づいて、相当精密な研究をした結果が大変素晴らしい結果を出しています。ただ、検証が十分できていませんので、現在は理論なんておこがましいことは言いません。仮説というふうに申し上げておきます。

吃音幼児を対象に研究を始めましたが、小学校6年生くらいまでの学童期の吃音児までを対象にしても当てはまるだろうと考えています。

ただし成人には適用できません。適用できるといいんですけどね。将来の課題です。

何が問題なのか

吃音児の特徴は、友達と喧嘩をしない。しないのではなく、喧嘩が出来ないということです。

心理学的には、喧嘩が出来ないのは、友達の間で自己主張が出来ないということです。自己主張とは自分の感情を相手に表すことです。

生まれて2年目ぐらいに、みなさんは、第一反抗期を経験したと思いますが、まず母親に対して「いや、いや」と言う。つまり〈ノー〉と言う事が一番簡単な自己主張です。

ところが、最近の子供は半数近くが、この第一・反抗期を経験していません。吃音児の全てを調べた訳ではありませんが、吃音児も第一反抗期の経験がないというふうに私は見ています。

自己主張の学習には順序があって、最初は必ず否定的な感情から入る。うれしいなんて事を最初から言うものじゃないんです。

否定的感情を出せない人は、肯定的感情は出せません。吃音者の皆さんは、肯定的な感情を出すのが苦手じゃないですか?

例えば、愛する人が目の前に来たときに、「貴方を愛しています」と堂々と言えますか? なかなか言えない。

これは「お前が嫌いだ」とはっきり言えないからです。嫌いだと、はっきり否定的感情を言えると、最終的には、肯定的感情を素直に言えるようになります。

感情表出は言葉だけではありません。言葉で感情表出をするのは最高のレベルです。一番易しい感情表出は、小さい子がうれしい時に跳びはねるでしょ。つまり、身体を動かす行動レベルです。

行動が細分化すると表情に出る。幼児期、健康な子どもはいつもニコニコ笑うのは感情を表していることです。怒るのも感情表現です。

大人になると人間関係の中で感情表現を本来自由に表せなければなりませんが、なかなか表せない人がいます。

友達と人間関係が出来たとき「いや」と言えない子どもがいる。「くれよ」と言われて本当は嫌なのに、「いや」と言わないで「いいよ」と言ったり、にこっと笑ってみたり。

吃音の子どもにはこの傾向が多い。友人関係の中で自己主張ができないんです。

このことが問題なんです。だから反対に自己主張ができて、友達と喧嘩ができるようになれば治療をする必要がないということになります。

何を治療するか

吃音の治療というと、従来は吃音を治す、吃らなくする事でしたが、私はそうではない。最初は言葉の問題は扱いません。最初から言葉の指導をするとうまくいかないというのが私の考え方です。

治療は、小学校に入る前、理想的にはどもりの始まった幼児期に行うのがベストです。実際は小学校に入ってから治療する必要性が出る場合がありますが。

先程言いましたように、大半の吃音児が友達に自己主張が出来ません。そうすると、この子どもには治療の必要があると判断します。

治療目標は、吃音そのものを治すのではなく、人間関係の中で自己主張が出来るようにすることです。

積極的改善要因と積極的改善要因

積極的改善要因とは、例えば、吃らないで滑らかに話す指導の方法などをいいますが、吃音は消えても、持続しません。治ったと思っても、すぐに再発するところに問題があります。

積極的改善要因だけでは、吃音の改善も不可能であると私は見ています。

吃音を治すためには、消極的改善要因が鍵ではないかというのが私の私見、仮説です。

消極的改善要因とは、それ以上どもりが悪くならない要因です。どんどん良くはならないが、悪くはならないのだから、結局は良くなるだけです。

消極的改善要因を使うと、それだけでぱっとどもりがなくなるということはない。時間をかけて、経験を増やしていく。経験が増えると、子どもは発達をします。

吃症状はそれ以上悪くならないようにして、吃音児は成長をし、変わっていくわけですから、これは、良くなるということです。

こういう治し方でないと、吃というものは根本的には改善できないんです。一番大事な要因は内面因子と、こういうふうに考えます。

今日は、この消極的改善要因による治療についてお話しています。