はじめに

私は3歳頃からどもり始めましたが、友達も多く、明るく元気な子どもでした。ところが、小学2年の秋、学芸会でセリフのある役を外されたことで強い劣等感をもち、悩み始めました。それから21歳まで友達もなく、遊びもスポーツも勉強もしない、不本意な生活を送りました。今、私は、幸せで充実した生活を送っていますが、子どもの頃に戻りたいとふと思うことがあります。どもらない子どもとしてではなく、吃音に向き合い、吃音について勉強し、吃音を肯定して生きている、「今の私」として戻りたいのです。

どもるから人は悩むのではありません。吃音について知らず、吃音を否定的にとらえることで、どもりたくなくて、人とあまり話さず、しなければならないこと、したいことから逃げたから悩んだのです。また、「吃音は治るはずだ」と「治る」ことばかりを考えていたから今の自分を認めることができませんでした。治らないものと考え、どもりながら、自分を大切にして生きれば、違った子ども時代を送れたであろうと思います。

「どもるのが僕だから、どもりを治したいとは思わない」とはっきり言い切る小学4年生。「怖かった、どもりの勉強するまでは」と『どもりカルタ』に書いた小学3年生。「これからも吃音に悩み、苦労もあるだろうが、これまでなんとかやってこれたのだから、これからもきっとやっていけると思います」と吃音親子サマーキャンプを卒業していった高校3年生。私の子どものころと大違いの、たくさんの子どもたちと出会ってきました。

この部屋は、私の体験を通して、子どもと対話をしながら、吃音について考えます。また、子どもたちが、吃音についてどのように考え、学校などで困ったとき、どのように対処しているか、子どもの体験を、生活の知恵を、声をできるだけ集めて紹介します。

子どもが直接読めるようにできるだけ漢字にふりがなを入れるなどして、やさしく書きますが、少し難しいときは、保護者や教師の皆さんが一緒に読んであげて下さい。

(伊藤伸二)

小学生のどもる君へ

十代の君へ

就職活動をしている君へ

成人のあなたへ