はじめに

「アメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどに比べ、日本の吃音臨床は遅れている」

 こう指摘する日本の吃音研究者、臨床家は少なくありません。しかし、私からすれば、世界は100年ほど前から、ほとんど進歩せず、むしろ遅れていると私は思います。

100年以上失敗の歴史がありながら、相変わらず、「吃音を治す、改善する、コントロールする」を目指しているからです。

その効果がないことは、アメリカの言語聴覚士の9割以上が吃音臨床に苦手意識をもっていることや、アメリカやカナダなど大学の3週間の集中的な治療プログラムの報告でうかがい知ることができます。

 一方、私たちは50年も前から、「吃音を治す努力の否定」を提起し、吃音を治す、ではなく、吃音と共に生きる道を探っています。日本の公立学校のことばの教室では、「吃音と向き合い、吃音と共に生きる」子どもを育てる実践が広がっています。

アメリカなどでは、吃音の流暢性の形成と名付けた、「ゆっくり、そっと、柔らかく」など言語訓練が主な指導です。吃音に向き合い、吃音の問題とは何かを一緒に考える日本の実践は世界に誇るすばらしいものです。

「吃音否定」の立場からの吃音治療・改善の取り組みではなく、「吃音肯定」の立場から、吃音と共に生きる力を育てる日本の臨床を紹介します。