はじめに

小学2年秋から私の苦悩の吃音人生が始まり、21歳の夏、吃音を治すために、東京正生学院に行くまで続きました。東京正生学院では、1か月必死に治す努力をしたにも関わらず吃音は治りませんでした。しかし、同じような経験をしてきたどもる人たちと大勢出会い、吃音と向き合うことができるようになりました。その年の秋、どもる人のセルフヘルプグループ言友会を創立し、活動をする中で私は大きく変わっていきました。

その後、ことばの教室の教員を養成する大学、大阪教育大学言語障害児教育教員養成課程の教員になりました。自分自身の体験、セルフヘルプグループの活動の体験を整理し、「吃音はどう治すかではなく、どう生きるかの問題だ」と確信するようになりました。全国のことばの教室の教員とともに、子どもの教育についても深く考え、実践してきました。

その後、カレー専門店のオーナーシェフなるなど、仕事は変わりましたが、ライフワークとしての吃音についてはずっと取り組みを続けています。

世界で初めて、第一回吃音問題研究国際大会を大会会長として開催し、世界のどもる人、吃音研究者・臨床家と情報を交換し、議論を続けてきました。

また、臨床心理学、精神医学、社会心理学、竹内敏晴からだとことばのレッスンなどを、吃音の取り組みに生かそうと、たくさんのワークショップなどを開いてきました。それらの中で考え、話し、書いてきたことについて過去の研究論文やエッセーなど、私の考え、実践してきたことを紹介します。


(伊藤伸二)(いとう しんじ)

プロフィール

伊藤伸二(いとうしんじ)

1944年奈良県生まれ。明治大学文学部・政治経済学部卒業。大阪教育大学特殊教育特別専攻科修了。大阪教育大学専任講師(聴覚・言語障害児教育)、龍谷大学非常勤講師(ソーシャルワーク演習)、大阪教育大学非常勤講師(特殊教育特別専攻科)などを経て現在、伊藤伸二ことばの相談室主宰。日本吃音臨床研究会会長。京都医健などの言語聴覚士養成の専門学校10校で吃音の講義を担当していた。

小学2年生の秋から吃音に強い劣等感をもち、1965年にどもる人のセルフヘルプグループ言友会を設立するまで吃音に深く悩む。長年言友会の全国組織の会長として活動するが、1994年に言友会から離脱し、どもる子どもの親、臨床家、研究者などが幅広く参加する日本吃音臨床研究会を設立。NPO法人大阪スタタリングプロジェクトでセルフヘルプグループとしての活動も続けている。1986年に第一回吃音問題研究国際大会を大会会長として開催し、世界44カ国が参加する国際吃音連盟の設立にかかわる。3年に一度の世界大会の開催に関わり、第9回クロアチア大会、第10回オランダ大会では基調講演。国際吃音連盟の理事として長年活動する。

セルフヘルプグループ、論理療法、認知行動療法、交流分析、アサーション・トレーニング、森田療法、内観療法、笑いとユーモア、演劇教育、アドラー心理学、ゲシュタルト・セラピー、サイコドラマ、ナラティヴ・アプローチ、ポジティブ心理学、パーソンセンタード。アプローチ、竹内敏晴からだとことばのレッスンなどを活用し、吃音と上手につき合うことを探る。

近年、ナラティヴ・アプローチをベースに、当事者研究、健康生成論、レジリエンス、オープンダイアローグなどを生かした、「吃音哲学」を提唱している。吃音哲学をもとにした、「親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会」、「新・吃音ショートコース」、「吃音親子サマーキャンプ」、「吃音相談会や講演会」などを開催している。

著書に、『両親指導の手引き書41-吃音とともに豊かに生きる』(NPO法人全国ことばを育む会)、『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』(ナカニシヤ出版)、『知っていますか?セルフヘルプグループ一問一答』『知っていますか?どもりと向きあう一問一答』『どもる君へ いま伝えたいこと』『親、教師、言語聴覚士が使える 吃音ワークブック』(解放出版社)、『話すことが苦手な人のアサーション-どもる人とのワークショップの記録』『やわらかに生きる~論理療法と吃音に学ぶ』『ストレスや苦手とつきあうための認知療法・認知行動療法~吃音とのつきあいを通して』『吃音の当事者研究-どもる人たちが「べてるの家」と出会った』『どもる子どもとの対話~ナラティヴ・アプローチがひきだす物語る力』(金子書房)など。