幻のネタ下ろし落語会
演芸作家である石山悦子さんとの出会いは、新作落語「卒業証書」でした。桂文福さんを取材し、文福さんの体験をもとに、石山さんが作った「卒業証書」。桂かい枝さんが演じるということを知らせていただき、天満天神繁昌亭に行ったのは、2023年のことでした。楽屋で、文福さんやかい枝さん、石山さんともお会いすることができました。
落語「卒業証書」は、卒業式前、不登校になっているのを「なんでやねん、なんで休むねん。学校に来てほしい、待ってるよ」となだめている場面から始まりました。不登校になっているのは、当然、子どもだと思ってしまいますが、実は逆で、不登校になっているのは、担任の先生でした。この担任の先生はどもります。普段の授業はなんとかこなしていますが、卒業式での呼名が不安で学校を休んでいます。なだめているのは、その担任のクラスの子ども、タモツです。タモツのお父さんはどもる人でした。
どもる人の心情をとらえ、でも、それは決して悲惨なものではなく、微笑ましいお話になっていました。
「卒業証書」は、その後、文福さんが演じるものも聞かせてもらいました。
「卒業証書」の作者である石山悦子さんとは、その後、お付き合いさせてもらっています。石山さんから、落語会のお誘いを受けました。その落語会は、1月27日、天満天神繁昌亭で開催された『幻のネタ下ろし』でした。中入りの時に、石山さんはじめ、作者の方が舞台に出てきて、この落語会ができた経過を話してくれました。
この落語会は、第3回・第4回上方落語台本大賞発表落語会で、2020年、2021年と、コロナのために2度取りやめになり、一旦は永久中止が決まったそうです。でも、あきらめきれなかった作者たちが立ち上げたお披露目会だったのです。いただいた、あいさつ文の中に、こう、書かれています。
「落語台本は、噺家さんにより高座で演じられて初めて命を得るものです。この無茶な会を「やりましょう」と引き受けてくださった噺家さん、そして「立ち会いましょう」とお運びくださったお客様のおかげで、ようやく今日、噺は息をし始めます。さあ、いよいよ幻のネタたちがお目見えの時間となりました。
演者も作者もこの瞬間はドキドキですが、おきゃくさまはどうぞリラックスしてアハハと笑っていただければと存じます」
6席、楽しみました。
石山さんの噺は、「AIシテル」。桂吉弥さんが演じました。この噺は、2019年、AIがまだ今ほど身近ではなかった頃に書かれました。その後、急激に世界は変化していますが、人の普遍的な感情は、多分いつの時代になっても変わらないだろうと、石山さんは言います。噺をつくったのは石山さん、演じたのは吉弥さん、そして聞かせていただいたのは僕たち。なんともいえない温かい時間でした。土中に眠っていたのが陽の目を見たと、後日、石山さんからメールをいただきました。その場に立ち会わせていただいたこと、幸せでした。
おまけ。10人にプレゼントが当たる抽選があり、まさかの当選。このようなことに当たったことなど一度もないのですが。額に入った、サイン入りの今回の落語会の案内チラシです。「こいつぁ、春から縁起がいいい」は、まだ続いているようです。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/01/30





