吃音への恐れを減らすこと

 「スタタリング・ナウ」2015.8.20 NO.252 では、『人間とコミュニケーション―吃音者のために』(日本放送出版協会 内須川洸 大橋佳子 伊藤伸二 訳・編) の中から、2編を紹介しています。昨日のソル・アドラーに続き、今日は、ウィリアム・D・トロッターです。
 トロッターの、吃音への恐れを減らすためのメッセージのうち、「健康的なユーモア」には賛成ですが、その他の取り組みは、僕たちとは随分違いますが、これが現在も続く一般的なものでしょうが、問題点は多いいように思います。このような吃音に取り組むエネルギーを、僕は、より良く生きるために使いたいです。たとえば、こんなふうに。

1.話す量を増やそう
 吃音が変化していくには、話す量を増やすしかありません。日常生活で、必要な時に、話したいことで話すことです。練習のためにただ単に話す量を増やしても意味がありません。練習だと考えたら、もうそれだけで話す量を増やす効果はなくなるからです。
 僕は、上野の西郷隆盛の銅像前で、山手線の電車の中で、恐怖に直面して話しましたが、生活の中でのどもることへの恐怖を減らすことには役に立ちませんでした。
 話した量を記録することなど無意味ですし、鏡やテープレコーダーの利用など、アメリカではよくされるようですが、おすすめできません。

2.苦手なことばを避けない
 どもる人に、苦手なことばを避けないように、と厳密に言えば、おそらく話せなくなってしまうでしょう。苦手なことばであろうとなかろうと、ただ、どもりながら話すことです。苦手なことばを言いやすいことばに言い換えてもいい。苦手なことばの前に、言いやすいことばをもってくるのもありです。話す語順を変える、言いやすいことばに変換して言う。これらは、どもる人の、どもっても人と関わっていくための工夫であり、サバイバルです。工夫のしようがないときは、どもるしかありません。どもらなくてもいいし、どもってもいいのです。

3.わざとどもってみる
 意図的に、わざとどもることを提唱したのはブリンゲルソンで、チャールズ・ヴァン・ライパーは成功しましたが、先輩のウェンデル・ジョンソンが話せなくなったのは有名な話です。僕も、専門学校などで、随意吃音をしてみせることがありましたが、その後、とても話しづらくなりました。随意吃音が提案された当時、「どもることが嫌なのに、なぜ、わざとどもる必要があるのか」とどもる人の強い反発を受けました。そこで次に出されたのが、「軽く、楽にどもる」です。トロッターも、「楽などもり方を工夫する」とすすめています。
 竹内敏晴さんは「楽などもり方を意識的にできるなんて、あり得ない」と一笑に付しました。 この楽などもり方は、バリー・ギターの統合的アプローチでは、「ゆっくり、そっと、やわらかく」声を出すにことです。大昔の「どもらずに話す」を復活させたと言っていいだろうと思います。アメリカ言語病理学は、依然として「どもらないで話す」にこだわって、吃音をコントロールできると主張します。これらが成功したエビデンス(科学的、統計的根拠)はまったくないにもかかわらず、です。
 「吃音を軽くする補助器具」の聴覚フィードバック(DAF)は、現在でも使われていますが、どもらないようにさせることはできても、訓練法としては意味がありません。専門家がすすめるのは疑問です。
 このようにウィリアム・D・トロッターの考えは、疑問の多いものですが、アメリカ言語病理学の現状を知る意味では興味深いので紹介します。
 では、「スタタリング・ナウ」2015.8.20 NO.252 より、紹介します。 

  吃音への恐れを減らすこと
                    ウィリアム・D・トロッター
                    マーケット大学言語障害学科主任
 話す量を増やそう
 吃音を軽くするには、どもることに対する恐れを少なくすることです。そして恐れをなくす方法のひとつとして、どもる人ならふつうは避けてしまいそうな場面でよけいに話してみることです。その話す量が増えれば増えるほど、どもる人自身が考えるほど吃音は恐ろしいものではないということがわかるでしょう。一般に、どもることによる不利益は、どもる人自身が想像するほど大きなものではないのです。
 談話時間を記録しておくことで、話しただいたいの時間を知ることができます。いつも小型のノートを持ち歩き、一日に2、3回あなたと話した相手やその相手と何分何秒話したか、だいたいの時間を記入することです。この簡単な作業で、人と話すときに費すだいたいの時間を知るのは比較的たやすくできます。一日の終わりに、その日話した時間の合計を記入してください。
 個人差は大きいのですが、どもる人の話す平均時間は約24分です。またどもらない人のそれは44分です。どもらない人と同じ時間話そうとすることが当面のよい目標となります。一般に話しことばの改善は、談話時間、特にいつも避けている場面での話す時間の多少によって決まるようです。どんなとき話したくないかを知るには、一週間の談話時間記録を参照して、次のように分けて考えるのがよいでしょう。

①知らない人と面と向かって話すとき
②友人や知人と面と向かって話すとき
③知らない人と電話で話すとき
④友人や知人と電話で話すとき
⑤クラスで話すとき
⑥家庭で話すとき

 どもる人の多くが習慣的に避けるのは電話をかけることです。電話で逃げる場合が多い人は、これまで避けていた電話を毎日何回かかけるようにすることです。つまり、恐れてこれまでやらないできたことを実際にやってみることが、恐れを克服するひとつの方法なのです。そうすることによって、電話をすることは自分の恐れていたほど恐ろしいものではないことに気づくでしょう。そのときには、おそらくさっきの談話時間の記録が役に立つはずです。

鏡やテープレコーダーを利用する
 どもる人が自分自身の吃音をどうにかしようと思うなら、鏡を見ながら話してみることもひとつの方法です。これを実行するときは、少なくとも誰かひとりはそばにいてもらいなさい。多くのどもる人はひとり言ではほとんどどもらないように、誰もいないとあまりどもらないかもしれないからです。鏡の中のどもっている自分の姿をじっくり見たあとでは、自分の吃音はそれほど恐ろしいものではなくなります。
 こうして、話し合いの中でも慣れて、恐れなくなります。つまり、鏡の中のどもっている姿を見ることで、自分の吃音をより客観的にみられるようになるからです。また、あわてずにどもることを受けとめることができるようにもなります。鏡を見ながら話すこの作業は、一日に少なくとも15分はやってみるとよいでしょう。
 また、テープレコーダーで自分の吃音を聞くことも、吃音への恐れを減らすためには良い方法です。自分の話しぶりをテープで聞いて、どもった時間を測り、そして何回どもったかを数えてみるのです。つっかえている時間は自分で考えるほど長くはなく、またその回数も自分で考える半分もないことに気づきます。もっと現実と直面することです。自分の吃音を聞くことにより、自分の吃音の響きに慣れることになります。慣れていれば、実際の話す場面で自分がどもっているのを聞いたときにも、あわてないで済むはずです。

苦手なことばを避けない
 さらに、どもるのではないかと恐れることばを、言いやすいことばに変える回数を減らすことも良い方法です。そうすれば、自分の言いたいことばで言い終わったということによって、気持ちが楽になります。これを試すには、5回電話をかけて恐れることばを恐れないことばに言いかえた回数を記録したあとで、もう5回電話をかけ、そのときはできるだけ言いかえを少なくしてみることです。吃音を避けようとしてことばを言いかえたときより、それをしなかったときのほうが、話し終わったあと気持ちが良いはずです。これを続けるうちに、どもることそのものよりも吃音を恐れることのほうが本当は自分にとってもっと問題なのだということがわかるでしょう。

わざとどもってみる
 次に、会話の最初にわざとどもることをおすすめします。つまり、”故意にどもる”ことを積極的にやるわけです。そうすれば、その後の会話ではどもる程度や回数は減るでしょう。この方法が役に立つかどうかは、自分で調べられます。
 まず、10回の会話で故意にどもってみなさい。聞き手がそれをどもったとはっきり認めるならば、どのようなどもり方でも結構です。その後、もう10回、今度はわざとどもらないで、両者を比較してごらんなさい。そうして、話しはじめにどもるまねをしたときのどもる程度や回数が減ったかどうか調べてみなさい。どもるまねをしたときには、あまりひどくどもらないで話していることに気づくでしょう。これは、わざとどもったときにはどもるのではないかという心配がほとんどあるいはまったくなくなるからです。
 この方法を続けていけば、以前のように話すときに緊張しないですみます。さらには、どもるかどもらないかを心配しないで済むようになります。その経験をしたあとで、今度は話すのがとてもいやな場面で、わざとどもってみなさい。最初はあまりうまくいなかいでしょうが、やってみれば慣れてきます。そうすれば、普通ならひどくどもるはずの場面でも、あまりどもらずにうまくどもるまねができるようになると思います。

吃音に健康的なユーモアを
 ところで、どもる人と話すときほとんどの人は、どのように対応すればよいのかわからずにドギマギしています。たぶん、その人たちは、どもる人がどもることに非常に敏感だと信じているのです。だからどもる人の気持ちを少なくとも傷つけるようなことを言ったり、したりしないように気を使っているのです。お互いに気を使いすぎて楽しいコミュニケーションはできません。
 聞き手を楽にさせるために、自分の吃音についてときどき冗談を言ってみましょう。たとえば、ひどくどもってしまい、言おうとしたことばがどうしても出ないときには、「このことばが言えないと、ぼくたちは一晩中ここにいなければならないね」などと言ってみるのです。このように自分の吃音に対して健康的なユーモアを持つことは好ましいことです。友人と話すとき、このような冗談を軽く言ってみて、彼が少しでも気楽になるか試してみましょう。
 自分にとって重要で身近な人―両親、教師、友人、雇用者、同僚など―に吃音についてフランクに話してみることも、ときには役に立つでしょう。たとえば、どもっているときには、自分がどのように対応してもらいたいのかを説明するのです。このように素直に言えれば、相手も吃音についてこだわらなくなります。実際、自分の吃音を理解してくれていると思える人と話すときには、どもり方は少なくなるものです。とにかく、このように心を開いた正直な態度は誰にとっても健康的なものです。

楽などもり方を工夫する
 さらに、苦しまずに楽にどもる方法を身につけることは、ときには役に立ちます。たとえば、ことばの最初の音や音節を単純に延ばす方法があります。このように話してみて録音したものを聞いたり、鏡を見ながら自分の話しぶりを観察してみるのです。この楽にどもる方法を、慣れた場面や録音するときに使えるようにしましょう。それができれば、今度は、少しは気楽に話せる場面でも使ってみるのです。その次にはだんだんと、もっと困難な場面でも使えるようにしていきましょう。

吃音を軽くする補助器具
 私たちは、話しながら同時に自分の話し声を聞いています。これがいわゆる聴覚フィードバックです。この聴覚フィードバックを断つことによって、どもる度合が減少する事実がいくつかの研究の結果明らかになりました。これが吃音に対する聴覚遮へい効果といわれるものです。それを吃音の治療に利用することが、過去25年試みられてきました。
 私も2年半の間、携帯用のマスキングノイズ発振器(聴覚フィードバックを断つため耳に雑音を聞かせ、自分の声が聞けないようにする器具)を使ってみました。どもりそうだと思うときやどもっている最中に発振器のスイッチを入れ、90から100デシベルの低音の遮へい音を瞬間的に聞くのです。私はこれをどのような場面でも使ってきました。特に私のもっとも不得意の場面、つまり電話や講義のときに使いました。私がこの装置を使うと、どもる回数は普段の4分の1になり、1秒間以上どもっていることはまれになるのです。
 しかし、たしかにどもる回数やどもる長さは減りますが、どもることが完全になくなるわけではありません。すべてのどもる人にとってこの器具が役立つかどうかの予測はむずかしいことです。
 また、私は、話せば遮へい音が出るように仕組まれた器具を使ったこともあります。この器具は、のどにつけたマイクロフォンが声をとらえ、それにより自動的にスイッチが入るようになっています。またその他の器具では、電子メトロノームが役立つこともあります。これはポケットに、コードのついた小型のケースをしのばせておき、そこからメトロノームのビートが聞こえるようにしておくのです。その音に合わせて話せば、どもることが少なくなるというしかけです。
 ところが、多くのどもる人は、これらの電気的器具を使ってみようと思う気持ちはたぶんあまり強くないでしょう。私はおおぜいのどもる人にこれらの器具を紹介してきましたが、すべてのどもる人はそれらをほんの短い期間しか使いませんでした。このような器具を使うことに抵抗を感じるのは、たぶん自分の吃音を隠したいという弱さのあらわれなのでしょうか? ほんの数週間しか使わないということもあるので、これらの器具は数週間身につけ、その後も使うという見通しがたってから買うほうが無難です。
 しかし、研究報告によると、これらの器具はたしかにどもることを減らすのに役立っています。この器具を使うことによってなめらかさが増し、それにつれて吃音に対する恐れも減っているのです。そして恐れが減れば、なめらかさはさらに増してくるといっています。ただし、これを使うか使わないかは、あなたの自由です。

小説の主人公から学ぼう
 小説の中には、どもる人が重要な役を果たしているものがあります。この種の本を読むことは、どもる人にとって役に立つことが多いでしょう。なぜなら、これらの本を読んだあとで、どもっていても尊敬されうるという結論に達すると思うからです。私は、人から尊敬されることこそどもる人が追い求めているものであろうと思います。そして、どもる人はどもることゆえに、人から尊敬されることは非常にむずかしいものだと思っていることも事実なのです。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/03/22

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