第16回吃音親子サマーキャンプ~卒業した高校生を中心に~
「スタタリング・ナウ」2005.10.22 NO.134 は、第16回吃音親子サマーキャンプを特集しています。そのとき、卒業した高校生を中心に、僕のことば、卒業式の様子、卒業証書の文、卒業生のあいさつなど、臨場感を大切にしたテープ起こしのまま、紹介します。
その年の卒業生は、こういちろう君(高1から3回連続の参加)、よしき君(小6から7回連続の参加)、みほさん(小4から8回の参加)、ゆきさん(小4から9回連続の参加)の4人でした。小学生のときから参加している子もいて、幼く、かわいかった頃から見てきた僕たちにとって、まさに我が子の成長を見る思いでした。
今年のサマーキャンプを前に、19年前の卒業式を懐かしく思い出しています。
伊藤伸二
今から、卒業式というか、卒キャン式をします。今年は4人の卒業生がいます。卒業証書授与式です。卒業証書を渡した後、本人に挨拶をしてもらいます。
こういちろう君の卒業証書
高校1年生から3年生まで、サマーキャンプへの参加は3回でした。回数は少ないけれど、中身の濃い3年間でした。高校1年、初めてひとりで参加したときは、不安だったことでしょう。でも、そのときの出会いがきっとあなたを変えるきっかけとなってくれたことと思います。あなたの夢に向かって大きく羽ばたいてくれることを心より祈っています。
サマキャン、卒業おめでとう。
こういちろう君の挨拶
毎年ここで泣くんです。高校1年のとき、ひとりで初参加し、知っている人も誰もいなくて、ちゃんとやっていける不安でしたが、たくさんの人が僕に話しかけてきてくれて、仲良くなってすごく楽しかった。2年目も覚えててもらえるか不安で、怖かったんですが、みんな「よく来たね」と言ってくれた。3年目もみんな仲良くしてくれて、ぼくのことを分かってくれる人がこんなにたくさんいて、やさしかった。
ぼくは吃音にすごく悩んでいたけど、それ以外にもいろんなことに悩んでいて、それもみんなちゃんと話を聞いてくれた。サマーキャンプに来て、自分でも成長したと思うし、変わったと思う。大切ないい人たちがたくさんいて、本当に来てよかったと思います。ありがとうございました。
伊藤伸二
こういちろう君は、将来に大きな夢をもっています。どもっていると、それが実現するかどうかという不安をもっていました。それを高校生の話し合いの中で出してみんなで話し合いました。その中で、なんとかがんばれるという力をみんなからもらっていました。
よしき君の卒業証書
小学6年から高校3年まで7回、吃音親子サマーキャンプに参加しました。とてもやさしいあなたは、よく小さい子の面倒を見てくれました。1年ごとにぐんぐん背が伸びて、会うたびに大きくなりました。夜遅くまで階段の踊り場の隅っこでひそひそ声でしゃべっていたことを思い出します。劇ではいつも見る者をびっくりさせてくれました。思春期まっただ中のあなた、これからも悩んだり落ち込んだりすることはあるでしょう。でもきっと、自分自身で自分らしい道をみつけていってくれることを信じています。
サマキャン、卒業おめでとう。
よしき君のあいさつ
今回で7回目です。一番最初は、この地球上で自分のようにどもる人は、自分ひとりしかおらへんとずっと思っていたのに、ここでは幼稚園から社会人までどもる人がいて、いっぱい仲間がいることを実感できたことがよかった。中学生になって、もう吃音のことは、治さんでいい、ぐいぐいとやろうと思っていた。
ところが、最近いろいろあって、今年の夏くらいから、吃音のことは自分の中でも欠点やと思うようになった。欠点やないと思って生きていこうとしたけど、面接のときに、吃音やから落ちるんじゃないと思うようになった。でも、また今回のキャンプで少し考え直すと、吃音もちゃんとした個性で、個性があるほうがいいと思えました。そりゃ、ちゃんとしゃべれた方がいい、どもらなければそれに越したことはないけど、吃音があることによって、これだけ多くの仲間に会えたとことはほんまにうれしいことやし、みんなが同じような悩みを持っていて、いろいろ相談できたことは、うれしかった。だから、卒業したらスタッフとして参加したい。参加してたら、難しいサマキャンスタッフ試験に合格したんだと思って下さい。小学6年から高校3年まで7回、面倒をみて下さった皆さん、ほんまにありがとうございました。
伊藤伸二
僕は、すてきなことは、悩まなくなることじゃないと思うんです。今回のキャンプで、よしき君と最初に会ったとき、これまでと違う暗い感じがした。今、悩んでいる時期だったんですね。高校生の話し合いの中で、彼は、今までどもりは欠点じゃないと思っていて、ぐいぐいとやっていたけれど、やっぱり自分のどもりは欠点だ、みんなはどう思うかという話を出した。他の高校生からもいろんな意見が出され話し合った。本人が気がついているかどうか分からないが、彼の発言する前の顔と話し合いが終わったときの顔はずいぶん違っていた。成長は順調に一直線にいくわけじゃない。今はどもっていても大丈夫だと思っていても、後でやっぱりどもりは治したいと思ったり、揺れて苦しんでいくと思う。でも、このキャンプに来て自分の考えをもう一度言って、話し合う。キャンプをそういう場にしてもらえたらなあと思っている。僕らは、悩むということは大切なことだと思っています。
親ができることの唯一のことは、どもる子どもをサマキャンに送り出すことだと思っていますが、よしき君を毎回、一緒に連れてきて、本人以上にサマーキャンプを楽しんでいたおかあさん、どうぞ。
よしき君の母のあいさつ
7年間、スタッフのみなさん、一緒にキャンプに参加してお友達になったお母さんたち、ありがとうございました。残念なことに今回で最後になってしまいました。結婚して子どもが生まれる前は、夢にも吃音親子サマーキャンプに来ることは予定に入っていませんでした。よしきが3歳くらいでどもったときに、よしきもびっくりしたかも分かりませんけども、私が一番びっくりしました。どうしていいか分からないままに、6年生まで放っておいたら治ると言われて放っておいたんですけど、それはあかんということになって、このサマーキャンプに来ました。もうどうしていいか分からずにへとへとでした。このサマーキャンプの3日間、最初の日は泣きまくりました。いろんな人に「気持ちが分かる」とか「あなたのせいとちゃうねんで」とか「一緒や、一緒や」とか「一緒にがんばろ」と言ってもらえました。そして、7年も来ることができました。
よしきに感謝しないといけないことがひとつあります。どもり出したときは、すごくびっくりしたけれども、ここに来てちゃんと吃音のことや、吃音だけじゃなくて、それにつながるいろんなことを勉強させてくれるようになっていたんやと思います。そういう巡り合わせで、よしきはうちの子に生まれてきたんだと思います。よしきがもしどもってなかったら、こんなにいい友達に私も会えてませんでした。私は来年からはもういませんけれど、よしきがまたこちらにお世話になるかもしれません。そのときには、みなさん、なんかまだ子どもみたいですけれど、悪いことしてたら、叱ってやって下さい。
最後に、よしきに。お母さんはどもってないから、よしきの気持ちは分からないかもしれませんけど、応援をすることには変わりがありません。ほかの人がみんな変やと言っても、お母さんとお父さんは、そんなことは絶対に思ってないということを忘れないで下さい。ありがとうございました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/06/21