第26回島根スタタリングフォーラム 2024.10.19~20日 島根県立少年自然の家
東西に長い島根県ですが、フォーラムのスタートは、午前10時半。10時の受付の少し前に会場に着いたのですが、もうすでに多くの人が集まっていました。昨年、参加した人でしょう、見覚えのある顔が何人もいます。ずっと事務局をしてくれている森川和宜さんによると、参加者は80名くらいで、初参加と複数回参加とがほぼ半々だとのことでした。このバランスがいいです。僕たちの滋賀県での吃音親子サマーキャンプも、初参加の人とリピーターの人のバランスがよく、いい雰囲気になっています。
開会のつどい、出会いの広場と続きます。出会いの広場を担当するのは、これも長いつきあいになる流水さん。テンポよく、リズミカルに、大きい拍手と小さい拍手を取り入れながら、参加者をリラックスさせていきます。いつの間にかみんなが笑顔になり、その自然なリードの仕方は、見事です。
昼食後の最初のセッションの90分が、僕と参加者全員が対話をする時間です。最初に、みんなでNHKのハートネットTV「フクチッチ」を視聴しました。吃音の歴史が取り上げられ、どもる人のセルフヘルプグループ、言友会を創立した当時の僕や、『吃音者宣言』の宣言文が講談によって読み上げられた番組です。この視聴は、僕からお願いしたものです。見逃した方も少なくなかったので、まず、フォーラムのスタートにこれを見てもらいました。「吃音と共に生きる」の原点の考え方に触れてもらい、そこから、島根スタタリングフォーラムをスタートさせたかったからです。見終わってから、簡単に解説をしました。吃音の歴史を語り、未だ原因も治療法も分からない吃音とは、つきあっていくことが一番だということを伝えました。僕自身の体験を織り込みながら、自分の好きなことに努力できる子どもになってほしいということを強調しました。1泊2日の時間の中で、そのことを一緒にゆっくりじっくり考えていければとの願いをこめながら。
どもる子どもの保護者との対話
島根のフォーラムのプログラムは、僕と保護者との話し合いの時間がたっぷり設定されています。1日目は、14:20~夕食までの時間の3時間半です。初参加の人も多いので、いつものように、質問を出してもらい、答えていきました。
今、妊娠中のお母さんからは、遺伝についての質問がありました。原因は分からないとのことだが、遺伝はどうなのだろうということでした。僕は一般的には、遺伝と環境は、五分五分だけど、吃音については分からず、原因は解明されていないと言いました。原因についてはそうだけれど、その後の生き方には、責任があると思っています。僕自身の両親のことについて話し、子どもが親からしっかり愛されたという証拠を残してやってほしいということ、そして、子どもの生きる力を奪わないよう、転ばぬ先の杖を渡しすぎないでほしいということを話しました。
次に、3年生のとき、ことばが出なくなり、原因を探したが、クラスで真似をされたことがあったという4年生の子どもの話になりました。クラスのみんなに知ってもらった方がいいかと思い、通級指導教室の先生を通して、クラスのみんなに言ってもらった。しばらくよかったが、また、どもり出した。苦しそうなので、何かできないかという話でした。残念ながら、何もできないし、しない方がいいと僕は言いました。どもるようになった原因を探すのはよくないです。苦しいだろうな、しんどいだろうなと思うことしかできません。親にできることは、話をゆったりと聞き、食事をつくり、一緒に時間を過ごす、そんな親としての課題だけです。
合理的配慮についての質問もありました。今はいいけれど、2年後の中学校進学のことを心配して、理解してもらうために事前に伝えた方がいいのかどうかとの質問でした。これは、子どもと相談することが大切です。子どもが言ってほしいと言ったら、学校に言ったらいいと思いますが、これから将来、いつまでも親が出ていけるわけではありません。就職してから親が会社に言いには行けないでしょう。子どもは、安全な小学校時代にいろいろ経験するのがいいと思います。いわゆる失敗をして、傷ついてもそこから立ち直っていく経験を積んでほしいです。それがきっと、大きくなってから生きてきます。自分で自分の人生を切り開いていく力をつけてほしいと思います。合理的配慮というのはいいことのように思われています。確かにその側面もあります。でも、子どもの生きる力を奪っていくということも、考えたいです。
1日だけで帰るという人から、「治ったらいいなあと思い続けてきた。子どもも「なんで僕だけこんなしゃべり方なんだろう」と言っていたが、『どもる君へ いま伝えたいこと』を読んで前向きに過ごしている。今、クラスの子は理解してくれているが、吃音のことを知らない、年下の子から言われて嫌がっている。どうしたらいいか」という質問が出ました。
僕は、言語関係図を示して、Y軸には限界があるが、Z軸には限界はないと話しました。吃音親子サマーキャンプでも、よく話題になることです。吃音を知らない子が何か言ってきたら、それが理解したくて聞いてくる子なのか、からかって気分を悪くさせようと思って聞いてくる子なのか、見極めよう、研究しようと話し合いました。理解したいと思っている子には、誠実に説明する、からかってくる子には、簡単に吃音について紙にまとめておいて配る、その場から去るというのもひとつの手だと提案しました。
東京正生学院で、「パッと悟った」という話だったが、そうできたのはなぜだろうという質問もありました。どもる父親の影響もあると思います。悟るということでは、ディビッド・ミッチェルやスキャットマン・ジョン、チャールズ・ヴァン・ライパーの例を話しました。
他にもたくさん質問が出ました。質問以上に、長く答えていた気がします。
終わり頃に、僕からみんなに質問しました。
僕は吃音に悩み、勉強もせず、友だちの輪の中にも出ていかなかった。だけど、本はよく読み、洋画を中心にものすごい数の映画を観ていました。そのことが、大学に行き、どもる人のセルフヘルプグループを作ったことにつながっていくのですが、本や映画から、僕はどんな力を得たのだろうか、考えてもらいました。これが、今回、僕が伝えたかったことなのです。みんなから、たくさんのことが出てきました。
読解力
いろんな考え方があることが分かった
想像力
創造力
自分を俯瞰して見る力(メタ認知)
表現力(発信力)
語彙数が増えた
共感する力
これらは、非認知能力と呼ばれるものです。僕には、認知能力はなかったけれど、非認知能力があったのでしょう。
非認知能力といわれるものにはたくさん種類があります。先ほど出してもらった以外に、どんなものがあるか、みんなで考えました。
共感力
回復力
たくましさ(レジリエンス)
ユーモア
自己肯定
忍耐力
諦める(判断力)
逃げる(危機回避力)
人に頼る力
発想力
修正力
柔軟性
人なつっこい
好奇心
誠実性
セルフ・コンパッション
これらの非認知能力が、今、学校教育の場で注目を集めています。幼児期からの、この非認知能力の育成が大事になってきます。非認知能力については、これからも考えていきたい大切なテーマです。
夜は、スタッフのことばの教室の教員との交流会がありました。経験の浅いスタッフが中心に集まってくださいました。ここでもたくさんの質問が出ました。僕の頭は活性化され、いっぱい話しました。つづきは、次回。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/10/26




