どもる子どもの親と臨床家のための吃音相談会~ふりかえり~
レジリエンスというテーマを掲げて開催した吃音相談会、最後に、参加者ひとりひとりに感想を話していただきました。レジリエンスをからめての感想を聞いて、確かに伝わったことを感じました。
コロナのために、吃音相談会の開催も難しくなりましたが、久しぶりに、今年5月、大阪吃音教室の日曜例会を、「吃音相談会」として開催することにしました。
日本吃音臨床研究会のホームページに詳細を近々掲載予定です。
どもる大人、どもる子どもの保護者、どもる子どもに関わることばの教室担当者や言語聴覚士の方など、様々な立場の方と、吃音について、ともに考えていきます。ご参加、お待ちしています。また、お知り合いに、情報をお知らせいただけますよう、お願いします。
日時 5月31日(日)13:00~17:00
場所 大阪市中央区谷町2丁目2-20
大阪ボランティア協会(ドトールコーヒーの2階)のセミナー室
地下鉄「天満橋」・「谷町4丁目」駅から、それぞれ徒歩7分くらい
参加費 1,000円(小冊子代含む)
問い合わせ 日本吃音臨床研究会 伊藤伸二 072-820-8244
申し込みは必要ありません。当日、直接、お越しください。
では、「スタタリング・ナウ」2015.9.20 NO.253 より、吃音相談会の最後のふりかえりを紹介します。
どもる子どもの親と臨床家のための吃音相談会~ふりかえり~
会場 大阪市天王寺区・應典院
日時 2015年7月5日(日)
スタッフ 伊藤伸二、東野晃之(当事者)、
坂本英樹(保護者)、溝口稚佳子(元教師)
菊岡(父) 知らないうちに困難を乗り越えている人がすごくいると思います。たぶんそういう人たちって、こういうレジリエンスみたいなものを、なんとなく知らないうちに身につけていたのでしよう。身につけていない子どもには、親が手助けしてやって、「どもるくらい、なんともない、大丈夫だ」と思えたらいいなあと、今日、思いました。
伊藤 おっしゃるとおりで、もともと楽観的な明るい子もいれば、そうじゃない子もいます。素質の部分がかなりあります。だけど、このレジリエンスの研究者たちは、素質もあるけれど、後で十分に育てることができると言っています。意識的に周りの人間がその子に関わればその子を育てることができると考えられます。どもる子どもに限らず、これからの子どもは大変な時代に入っていくと思います。こんな厳しい時代の中でも、しぶとく、しなやかに、生き抜く子どもに育てるということは、吃音に限らず大事です。
菊岡(母) 2歳からどもり出して、1年少しくらいなので、治るかもしれないと考えていました。でも、どもるという事実を認めて、まあ治る可能性も考えつつ、知識として学んでいくことが重要だと感じました。
岡崎 参加して、自分ひとりじゃなかった、私と同じような気持ちのお父さんやお母さんがいるということ、当事者の人の話を聞けたことがよかったです。今朝、長男には、この相談会に行ってくることを伝えてきました。帰ってから、同じような思いをしている人がいるということをしっかり伝えたいと思います。そして、彼には、しぶとく、しなやかに生き抜いていくをモットーに生きてほしいと思うし、私自身もそうありたいです。吃音は決してマイナスじゃないと思いました。先輩のお母さんの話、自分の昔を思い出すような若いお母さんの話、いろんな人の話が、これから私の強い味方になってくれるんじゃないかと思いました。
伊藤 子どもも自分ひとりだと思っているけれど親も同じで、自分ひとりだと思っています。他のことではママ友に話ができるけれど、どもりのことは話せないというお母さんにとっては、こういう場や吃音親子サマーキャンプは、私ひとりじゃないと思える場であり、心強いと思います。すごい数のどもる子どもがいるわけだし、それと同じ数の保護者がいる。お互いに体験や気持ちを共有しながら、子どもの幸せにつながるために何ができるか、何をしたらいいかを考えたいですね。
僕の「吃音はどう治すかではなく、どう生きるかの問題だ」という考え方に、反対する吃音臨床家や研究者がたくさんいます。彼らは、吃音を治したいというのが親のニーズなんだから、完全に治らなくても、少しでも改善してあげなくてはだめでしょう、と言います。治したいというのが親のニーズだと言いますが、たしかに、表面的にはそうだけど、奥には子どもに幸せになってほしい、楽しく自分の人生を生きてほしい、があるはずです。楽しく生きてほしい人生に吃音がマイナスに影響すると思うから、なんとか治したいと思うのであって、それがマイナスに影響しないようにできたら、それはそれでいいわけです。
アドラー心理学の中に劣等感の補償という考え方があります。劣等感があったからがんばれたという考え方です。その補償には、直接的な補償と間接的な補償があって、どもるから、話すことの少ない仕事に就いて、そこで力をふりしぼってがんばろうというのが間接的な補償です。たとえば、ノーベル物理学賞をもらった江崎玲於奈さんは、自分が吃音だったから、人間関係がうまくいかなかったのでサイエンスの道に入ったと言っていました。自分がノーベル賞をもらったのは、ひょっとしたら吃音のおかげかもしれないという言い方もしていました。苦手なことはおいておいて、自分の長所を伸ばすということです。
ほかにも間接的な補償はたくさんあります。小説家はいっぱいいて、どもりで苦しんだことを文章に書いたり、どもるからことばを言い換えてきたことが語彙数を増やして小説家として大成したかもしれないと言っています。直木賞作家や芥川賞作家の中に、どもる人はいますし、世界的な小説家の中にもいます。
直接的な補償は、苦手なものにあえて挑戦をして、話すことの多い仕事に就くことです。そんな人がいっぱいいるのが、吃音の特徴です。
「吃音ワークブック」の中に、どもりの有名人がたくさんいることを書きました。教師、弁護士、落語家、俳優、アナウンサーなど、子どもたちにそんな人のことを教えてあげれば、そうか! と思うでしょう。僕の大好きなどもりの著名人の中に、間直之助(はざま))という人がいます。有名なサル学の研究者ですが、どもって人間関係がうまくいかないので、霊長類のサルの研究に入りました。間組という大手ゼネコンの社長の息子に産まれたが、実業の世界に入ることは諦めて、自分が好きな道に入りました。その人生を、遠藤周作が「彼の生き方」という小説に書いています。どもりだからと、優しい動物の世界に入ったり、反対に華やかな映画俳優になったり、これだけバラエティに富んでいるのは、どもりがとても豊かな世界だからです。
油野 子どもが2歳からどもり始めて、3年間たちました。未熟児で生んでしまったことが悪かったのか、自分の子育てが悪かったのか、と悩んできましたが、今日お話を聞かせていただいて、過去のことを考えるのではなくて、これから先のことを考えてあげればいいんだなと前向きな気持ちになれてとてもよかったです。
伊藤 小学校入学までになんとかしたいと思ってたでしょう。そういう焦りはだめです。小学校入学までになんとかしたいという保護者が案外に多いんです。小学校に入ったら、いろんなことがあるのではないかと、先のことで不安になるけれど、先の不安はあまり考えないで、起こったときにどう対処すればいいかを親子で一緒に考えればいいんじゃないでしょうか。
中谷(母) うちは吃音だけでなく、発達障害があるので、1歳くらいから、子どもと、一生懸命かかわってきました。1歳くらいのとき、発達障害の症状がひどかったから、本当はもう少しひどくなるんじゃないかと思いましたが、遊びの会に行ったり、いろんな人に出会ったり、いっぱいからだを動かして遊んだり、いろんな積み木で遊んだりしてきました。また、田舎なので、川や山で遊んで虫に親しんだり、家族でキャンプに行ったりできました。そういうことを大事にしてこれたのは、吃音や発達障害のおかげかなと今日、改めて思いました。今、8歳なんですけど、すごくよかったなと思っています。私自身はこれまですごく順風満帆にきて、苦労をしてきませんでした。子育てで初めてつまずき、自分の思い通りにいかないことに出会ったのです。子どものことは、私が代わってやれません。吃音がなかったら、たぶん、もっと怒ったり、もっといい学校に行くように言ったり、子どもに対して多くを要求する母親になっていたかもしれません。
中谷(父) レジリエンスでいえば、楽観主義にあたることかもしれませんが。ことばがどもるということは、ネガティヴ要素になるかもしれないですけど、結局、本人が気にしなかったり、または気にしてもそれを乗り越えればいいと私自身は考えています。どのように乗り越えていけばいいのか、具体的なことを考えたいと思っていたところ、具体的に教えていただいたので、よかったです。今、妻が言いましたが、結果的に発達障害だったこともあって、小さい頃から、今日教えていただいたことは、十分ではないかもしれないけれど、比較的できていることも多いように思います。今までしてきたことにそれぞれの相互関係があるとおっしゃったので、気持ちが楽になりました。弱い部分があっても、逆に強い部分を伸ばすことによって広げていけることを系統立てて教えていただいたので、非常に有意義な3時間でした。(了)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/03/25

