吃音ホットライン 072-820-8244
僕は、吃音ホットラインという電話相談窓口を開いています。どもる人、どもる子どもの保護者、どもる子どもとかかわることばの教室担当者や言語聴覚士など、幅広い人を対象とした相談を受け付けています。以前は、一日に何人もの人から電話がありましたが、最近は少なくなってきました。
大阪セルフヘルプ支援センターが電話当番を決めて、生きづらさを抱えた人が、自分と同じような人がいないか、そんな人たちがグループを作っていないか、電話で尋ねてきたときに対応していました。グループがないときは、じゃ、作りましょうとグループ設立のお手伝いもしていました。僕も担当したことのある電話当番が、先日、閉鎖となりました。ずっと電話機の前に座っていても、一本の電話もないことが続いたからだそうです。今は、ネットを通して、自分でグループをみつけることが容易にできるようになってきたからでしょう。役割は終わったのかなと、電話当番の最後の担当者がつぶやいていました。それと同じ意味で、僕の吃音ホットラインも、前よりは少なくなってきたのかもしれません。少なくなってきたとはいえ、それでも、かかってきます。その中に、最近特に印象的な電話が2本、続きました。
26歳、地方都市に住む男性です。最近、1年9ヶ月働いていた会社を辞めた人でした。相談の内容は、次の仕事をどうするか、でした。一般の求人募集案内から選ぶのか、障害者枠の募集案内から選ぶのか、彼は迷っていました。障害者枠だと、障害者手帳が必要なので、まずそこからしないといけないようでした。
もう少し詳しく様子を聞きました。同じ部署で働いている人とは問題なく、話せています。問題は電話でした。就職したてのころは、吃音のことも分かってもらっていたので、電話をとらなくてもよかったようです。ところが、しばらくすると、「そろそろ電話の対応もしてほしい」と言われ、仕方なく電話対応をすることになりました。最初のことばが出ず、そのまま切られることが何度かあったようで、それでもうダメだとなり、退職したとのことでした。
このような話はよく聞く話です。最初は、しゃべることが少ない仕事だと選んでも、途中から、しゃべる必要が出てきます。どんな仕事を選んでも、話すこととは切り離せないのが現状です。地方都市に住むどもる人は、どういう選択をしていますか? が彼の質問でした。
僕は、こんなとき、僕がこれまで出会った大勢のどもる人の顔が浮かんできて、その人たちの人生のストーリーを話します。公務員で、3年ごとに部署が変わる中で、嫌だなあと思うことも多いけれど、なんとかがんばっているよとか、教師になった人が最初の自己紹介でひどくどもってこれから仕事を続けていくことができるかどうか不安だったけれど、そのうちに慣れてきて、少しずつしゃべれるようになってきたよとか、話します。電話の向こうでどんなことを思いながら聞いてくれているのでしょう。電話で話している限り、彼の吃音は、重いということではありません。
3月6日の大阪吃音教室を紹介したのですが、大阪近辺に住んでいる人ではありませんでした。6日の吃音教室は、まさに彼の今の不安にぴったりの話し合いをすることになっています。新大学生・就活生・新社会人向けの新企画講座の第二弾です。新しい職場、新しい環境に入っていく人が、自分の吃音をどう考え、どうとらえ、周りに向けてどう表現していったらいいのか、知恵や経験を出し合います。ちょっと遠いけれど…来てくれたらいいのになあと願います。
吃音は治らない、でも、どもりながら仕事をしていくうちに変わってくる、社会はそんなに捨てたもんじゃないよ、ということを、参加しているみんなの体験を通して、直接、彼に届けたいなあと思いました。参加できないなら、せめて、このブログを読んでくれたらうれしいです。
もうひとつ、印象に残る電話相談がありました。中学2年生の男の子からの電話でした。出席簿をとりに行くため、職員室に入るときに、あいさつのように決まったことを言わなければいけないらしいのですが、どもってしまったのだそうです。喉からことばが出てこない状態を、彼は、「溺れているような感じ」だと言いました。職員室にいる先生は、彼の吃音のことは知っています。でも、どもるのは嫌なのだそうです。
僕に、何かできることはあるかなあと聞くと、対処法が知りたいと言いました。明日また職員室に行かないといけないから、今夜中になんとか治したいのだと言いました。言いながら、彼自身もそんなのは無理だと分かっているようで、少し笑いながら、そう言いました。僕は、それは無理だねえ、治す方法は世界中どこを探してもないんだよと伝えました。図書館で、「吃音症」の本を初めて読んだと、彼は言いました。本を読むことは嫌いではなさそうなので、僕は、ぜひ、僕が書いた『どもる君へ いま伝えたいこと』の本を読んでほしいと紹介しました。読んでまた、電話をしてきて、話をしようと伝えました。
しかし、中学生が、吃音ホットラインに電話してくるのは勇気がいることです。どうしてこの電話番号を知ったのか、尋ねると、「AI」に「吃音のことで相談できるところを教えてほしい」と入力して、検索したのだそうです。そしたら、僕のここ、吃音ホットラインが出てきたのだそうです。びっくりしました。電話をしてきたその勇気があるんだから、これからも一緒にがんばっていこうと励ましました。
彼との電話を切って、僕も、「AI」で検索してみました。公的なところと民間のところが紹介してあり、民間のところに、吃音ホットラインのことが出てきます。「日本吃音臨床研究会の伊藤伸二氏が電話相談に応じています。歴史ある相談所です」と出てきました。うーん、おもしろい。中学生の彼から、新しいことを教えてもらいました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/03/04

