第18回吃音親子サマーキャンプに参加しての感想~親特集~ 2
初参加の方の感想を読み、改めて、2泊3日という長時間、全く知らない人たちの中で過ごすことを選択したことの「初参加者の覚悟」というものを感じました。高いハードルを超えて、子どものことを思って参加した保護者のみなさんに敬意を表します。
昨日の続きです。(「スタタリング・ナウ」 2007.11.20 NO.159)
「どもる子いっぱい」 子どもが変わり、親が変わる
小学2年生男子の父親(愛知県・初参加)
原因は何だろう? いつも考える。どうすれば、治るかな? いつ治るかな?
出来ることは全てしたい。後で後悔するのはいやだ。ふとした瞬間心に浮かぶことだ。
ある情報で、小学校に上がるまでが分岐点と聞いた。治る子のほとんどは小学校に上がるまでに治る。そうでなければ治る可能性は低いとのことだ。急がなければ。
2歳半で弟が生まれて少ししてから、言葉がつまるようになった。親ばかとしては一大事である。愛情が足りないのかなと、家族の旅行を増やしたり、弟を両親に預けて付きっ切りで遊んでみたり、夫婦の活動は息子中心であった。強くなるために空手を習わせたらどうかなども。しかし、症状は”良くなった、治るぞ!と思えば、またひどくなる”と波の様に行ったり来たりである。途中、息子も声を出さずにしゃべるなどの工夫を無意識のうちにし始めた。そんな姿がまた不憫に思え、妻が涙する。普通に話すことがなんでこんなに難しいのだろう?
そして、小学校の入学を迎えた。タイムリミットを迎えた。でも、うちの子は治ると信じるままだ。
小学校には、地域のたくさんの保育園、幼稚園の子どもたちが集まってクラスをつくる。今までの保育園では、言葉がつまる事を先生にも理解してもらい、周りの子どもたちにも伝えて普通にすごしていたが、また新たにその作業をしなければいけない。ある時、息子が言葉のことでからかわれて帰ってきたので、妻が母親に理解してもらうためにその子のうちへ出掛けて話をしたことがあった。だが、そこでの反応は期待に反し、その後も疎遠になるような結果に終わってしまった。
そんなときの対応は何が正解なのか? それぞれの親は自分の子どもは素直で、人に迷惑を掛けるとは思っていないし、信じない。そんな人にはどうすればうまくこちらの気持ちが伝わるのか?
悩みが尽きない日々が続き一年がすぎた。
新学期で2年生になった。言葉は相変わらずで変化はない。しかし、一緒に寝ようとする布団の中で究極の質問を涙声でされた。
「なんでぼくだけことばがつまるの?」
「注射をうったらなおらない?」
注射嫌いな息子が聞く。ホントにそんな注射があればと思う。正直、なんて答えていいかわからない。ゆっくり話を聞いてあげることしかできない。大好きな息子を勇気付ける言葉が見つからないのは親としてむなしくなってしまう。
そんな時、妻がサマーキャンプがあることを教えてくれた。日本吃音臨床研究会というのがあって、メールを送ったら”夜遅くてもいいから電話でもかけて相談してください”とのことで、相談してみると熱心に親身に話をしてくれたとのことだった。そして、この会が主催するキャンプで言葉がつまる子どもたちがたくさん集まるということだ。確かこのキャンプについては、去年聞いたことはあったが都合が合わなく参加できなかった。都合が合わないというより、最初の一歩が踏み出せなかっただけかもしれない。でも、そんなことを言っている場合ではないので今年は家族4人で参加に決めた。この最初の一歩を踏み出せたことが我々家族には大きな収穫に結びついた。
初日、午後1時に会場に着いた。レクリエーションを受け、手作り感覚いっぱいのゲームをみんなで行う。初参加でも和む雰囲気を作ってくれてありがたい。それにしてもたくさんの家族が参加している。ゲームが終わり部屋割りが発表された。当然、家族一緒の部屋と思っていたら、子どもは子どもと、母親は母親と、父親は父親と…。
部屋に行くと二段ベッドが6つ程並んでいた。おおっと、久々の合宿だぞ。学生時代以来だぞ。これから2泊3日だぞ。入り口で戸惑いと決意の両方の顔を36歳の多少人見知りの親父はした、と思う。夜になり、グループにわかれ座談会が開かれた。ここも妻と子どもとわかれている。なぜか責任感がわいてきた。自己紹介を終え、それぞれの状況、悩みが話された。歳の近い子どもを持つ親は同じようなことを悩んでいるのだなと思うし、大きな子どもを持つ親の悩みは、これから向き合わなければならないのだろうなと胸に飛び込んでくる。何より、全てが人ごとではなく思える。全員が子どものことを真剣に考えている。
進行役をつとめてくれるスタッフのひとりは成人で吃音の方だ。生の本人の考え、気持ちを聞くことができる。当人はその時どう感じるのか?どうして欲しいのか。すごく参考になった。変なことであるが、自分の息子には聞きにくいことが聞ける。貴重な意見だ。
2日目、朝、みんなで作文を書いた。このキャンプや言葉がつまることについて。誰にも見せないという前提なので素直な気持ちが書けることになっている。息子が書き終えたので、「どんなこと書いたの?」と、たずねると「教えない」と、教えてくれない。「じゃあ、題名だけ教えて」と頼むと「どもる子いっぱい」と言って走っていった。
涙が出そうになった。「なんでぼくだけことばがつまるの?」と泣いた息子が笑っていった。それだけでこのキャンプに感謝だった。
ちなみに私の書いた題名は「特効薬」。なんとか治すための特効薬はないものかという内容だ。しかし、その考えも2目目の座談会、普般は行っていないという、伊藤さんの吃音の講義で大きく変わることになる。
2日目の座談会では、気心も知れてきて、話しやすい雰囲気の中、ざっくばらんに(涙ながらにも)悩みが話され、それにスタッフの方や参加者が本音で答える。子どもたちが山登りに行っている間に行われた伊藤さんの講義は、自身が吃音に悩み、研究していった経験なので説得力があり、俗に言う目からウロコが落ちるというものであった。肩の力が抜け、ふうっと楽になった。
何が変わったか。作文の題名に「特効薬」と書いたように、それまでは治すことにこだわっていた。何とか治してやりたいと。必死だった。でも、実際治るケースは少ない。現にこのキャンプにもたくさんの青年が吃音者スタッフとして手伝ってくれている。だから治すことにこだわっても、悩むばかりだし、子どもとの貴重な楽しい時間が台無しになってしまう。であれば、考えを変えて、治らないことを前提にして出来ることに精一杯取り組む。それで、もしも治ったらラッキーとして、毎日を楽しんだほうがいいじゃんって思えるようになった。これは決して逃げではないし、治ることをあきらめたわけでもない。心の持ちようだ。
でも、こう思えることで生活はまったくちがうと思うし、ステップを一つ登れた気がする。何よりのきっかけであった。
3日目は、それまで子どもたちが練習を重ねた劇の上演である。言葉がつまっても最後まで自分のパートをやりきる全員の姿に感動し、力をもらった。子どもたちに負けないよう、自分もやらなければ。
2泊3日のサマーキャンプ。参加して本当に良かった。我々4人家族の将来にとって大きな収穫のある3日間だった。最後のオープンマイクで話したようにこのキャンプで子どもが変わった。親も変わった。これからが楽しみだ。
そして最後にもう一つ、世の中が変わって欲しい。吃音は、まだ社会や学校であまり、理解されていないし、情報が少なすぎる。そこが悩みの大きな要因ではないか? 吃音の有名人もテレビなどでは悟られないようにしてるようだ。そこが、変わって”吃音もありだな”って思える社会。そんなことが原因でからかわれることのない社会になってほしい。
余談だが、たとえば、スマップのキムタクが吃音だったら。キンキキッズが言葉がっまっていたら。世の中のイメージは変わらないかな? だから、サマーキャンプに参加してる子の中からトップスターが出ないかなと密かに心の中で期待している。
追記
私はこの文章の中でも使わなかったように、これまで”どもる”という言葉が使えなかった。何か重い響きを感じ、差別ことばにも感じられた。だから、子どものことには、間違っても使えなかった。でも、サマキャン(参加2年目以降の人はこう呼んでいた)に参加してからは、大丈夫だ。これも変化かな。
初めてのサマーキャンプ
小学1年生男子の母親(千葉県・初参加)
最初にことばの教室の先生から、サマーキャンプの事を聞いた時はどんなキャンプなのか参加してみたい気持ちと、でも、知らない方ばかりで仲間に入れるかなと、とまどう気持ちとでずいぶん迷いました。小学1年生の息子に聞いてみると、内容も分からずにキャンプという名前だけで、二つ返事に「行ってみたい」という返答でますます迷ってしまいました。キャンプの日が近づくにつれ、申し込みはしたものの人前で話す事が苦手な私が、話し合いに参加できるかなと気持ちはどんどん後ろ向きになっていきました。けれど、行く前から悩んでいるよりも、行ってみて嫌だったら、来年から行かなければいいんだという風に気楽に考えて行ってみることにしました。
いよいよ当日、河瀬駅に着くと周りいっぱいの緑とおいしい空気に、とてもすがすがしい気持ちになりました。また、伊藤伸二さんはじめ、スタッフの方々が温かい笑顔で迎えてくれたのが、とても印象的でした。
息子の方も初めは少し緊張していたようですが、駅で一緒になったお友達とすっかり意気投合し、すぐに雰囲気に馴染めたようでした。
そして入所のつどいから、いよいよプログラムが始まりました。特に印象に残っているのが、グループでの話し合いでした。自己紹介から始まり、吃音についての体験談などを話し合うものです。
話し合いでは、子どもが吃音だと気づいた時のことから、これまで相談した機関のこと、またそこで言われたこと。吃音は親の責任であるという世間の風潮に思い悩んだ事。また少しでも吃音が無くなるようにする方法はあるのかという事。反対に吃音とうまくつき合うには親として何ができるか、学校や先生、友だちへの対応の仕方、親自身の気持ちの持ち方など、本当にたくさんの、とても深い内容の話が全国各地から集まった初対面の人から聞く事が出来ました。
今まで私自身、子どもの吃音については一番の心配事でした。が、一番心配なのに、一番人に言えない事でもありました。けれど、このキャンプでは全員が同じ悩みを持ち、それに真っ直ぐ向き合っている方ばかりです。普段は誰にも聞けないこと、話せないこと、心配なことなど、躊躇することなく、素直に全部出せるというのが、とても楽でした。
また、グループでの話し合いには、かつてはキャンプの参加者であり、現在はスタッフとして参加している方も、話し合いに参加して下さいました。そこでは、子どもの頃に吃音について思っていた事や悩んでいた事、親にして欲しかった事などをストレートな気持ちで話して下さり、とても貴重な話を聞く事が出来ました。
今はまだ小学1年生ということもあり、息子が吃音についてどの程度気にしているのか、親にはどうして欲しいのか、本人の口から聞く事はほとんどありません。しかし、これから成長していくにっれ、たぶん思い悩む時がくると思います。そんな時、この話し合いで皆さんから聞いた貴重な話は、本当に私自身の肥やしとなって生きてくる事と思います。
そして、キャンプに参加するにあたり期待していた事が一つだけありました。それは、息子にどもる人間は自分だけじゃない、他にもたくさんいるんだということを身を持って知ってもらうということです。これまで、家庭ではあまり息子の吃音について、本人と話す事はありませんでした。しかし、それは本人にとっても親にとってもあまり良い事ではありません。きちんと家族で向き合って、本人だけでなく全員が受け止めていく方がいいに決まっています。キャンプをきっかけに、吃音は自分だけではないということと決して恥ずかしがる事ではないんだという事を、息子なりに身を持って分かってくれたら、もっと吃音について、家庭でもオープンに話す事ができ、本人が困っている時も、もっと親として助けてあげる事ができると思います。
キャンプの帰りに息子に「どうだった? サマーキャンプは?」と聞いてみると、「とても、楽しかったよ。また来年も、何があっても絶対行くからね」という答えが返ってきました。そして、この夏一番楽しかった事も、このサマーキャンプだったそうです。
具体的には分かりませんが、きっと小学1年生の息子も、このサマーキャンプで何かを掴んで帰ってきたのだと思います。それだけで、本当に参加した甲斐がありました。
今では、頻繁ではありませんが、吃音について家庭で話題にする事も増えてきました。この先、まだまだ悩んだり、苦しんだりすることもあるかもしれませんが、吃音を通して体験したこのキャンプや出会った温かい人達は、私にとっても、息子にとっても大きな財産となりました。
吃音を通しての親子関係
中学1年生男子の母親(大阪府・初参加)
8月最後の週末、夏休みの総決算として親子共に期待と不安を胸に、初めての吃音親子サマーキャンプに参加しました。それまでに伊藤伸二さんの本、DVDでサマーキャンプの様子は少し分かっていましたが、実際参加してみて肌に感じるものがあり、3日間彦根のキャンプ場で過ごすことへの不安はやわらいでいきました。
スタッフの方々の劇、親、子どもたちの話し合い、みんなと共に行動して得る笑顔、自分と向き合う作文書き。何もかもが息子と私の今までの葛藤を消し去り、未来を明るい気持ちで過ごせるような気持ちになりました。
小学校入学まもなくからどもるのがひどくなり、振り返ればそれが私にとっての子育ての不安材料となっていき、息子への態度もよくなかったと思います。息子自身もどもることを意識するようになったのも私のせいではないかと思います。それでも小学校6年間、本当によくがんばったと思うのです。
そこには担任の先生、そしてクラスメイト。国語の授業の本読み、発表では一部のクラスメイトにからかわれ涙ぐんだこともあったようです。日々の生活の中でも消極的な面をみると「どもりを気にしているのかな?」と思い、叱咤激励の繰り返しの6年間でした。現在中学1年生になり人前で話す機会は少なくてもただ一人で行動できる強さを持つ息子を見ると「がんばっているね」と心の中で思っています。その反面、息子を理解してくれる友だちができればいいなとも思っています。この気持ちはサマーキャンプに参加するまで強くありましたが、今は違います。スタッフの方々、他の親御さん、他の子どもさんと接することにより、これからは前向きに考えていけると思います。
「あなたはあなたのままでいい」「あなたはひとりではない」「あなたには力がある」を息子に実感してもらいたいと思います。この3つのことばは、親の私にとっても子どもと接する上で常に心に置いておきたいです。
最後に吃音親子サマーキャンプがこのように続いていることに感謝します。次のサマーキャンプまでの1年間を有意義に過ごして親子関係を良い方向に築いていきたいと思っています。
大きく一歩前進
小学6年生女子の母親(宮城県・初参加)
大きく一歩前進しました。娘のどもりの現実を知りつつも、知識を得ようともせず娘に不安な思いをさせていました。パソコンで「英語のキャンプ」と検索し、たまたま出てきた”サマキャン”を開いてみたのも、参加できる可能性があったことも、全て運命としか思えないほどでした。
伊藤さんと電話でお話できたことも今考えるとすごいことであり、これは行かなければいけないと強く思ったことを覚えています。全てのことが参加する方向ですすんでゆきました。
一日目、子どものことなどそっちのけで自分の居場所を見つけるので大変でした。正直二度と来るもんかと思ったくらい苦しかったです。関西の人は積極的で明るくて、前向きで、自分の性格に嫌気がさしていました。地元でもそうです。自分から仲間に入ることはできず、私にとっても学校は辛い場所です。保護者には、自分で壁をつくって何とかその場をすごせても、一番辛いのは娘の同級生に会うこと。挨拶すら相当の勇気をふりしぼっています。みんなの目がこわい。娘を、私を、どう思っているのだろうと気になっていました。今回のキャンプをきっかけに、クラスのみんなに吃音について伝えなければいけないと思いました。娘はできました。吃音以外は普通の人なので、差別しないでと伝えることができました。娘の申し出で私の口から直接話はしませんでしたが、先生から吃音の説明と中学に行ってからも理解者になってほしいと伝えていただきました。娘はがんばりました。私も前を向いてしっかりと歩かなくてはいけないと思いました。本当に参加して良かった。次ははじめから自分をさらけだし、みなさんと仲良くなれるようにしたいです。阿部さん一家、足並みをそろえて前進します。ありがとうございました。
私もサバイバルに加わって
小学6年生男子の母親(兵庫県・初参加)
今回のキャンプは、初めての参加で不安だったのですが、幸いなことに、同室で初めての参加者にまんべんなく声かけしたり、話の雰囲気作りをして下さる方がいて、緊張が解きほぐされ、来てよかったと思える3日間でした。もちろん、キャンプの内容も、時間に追われたもののすばらしかったです。さまざまな吃音の親子に出会い、話し合いを重ね、伊藤さんのお話をお聞きし、同室の方と語り合い、涙し…、たくさんのことを学びました、救われました、意識が変わりました。
実際のところ、私は、キャンプに参加するまでは、息子の吃音を受け入れるということ以前に目をそむけていたように思えます。息子が人前でしゃべる場面では、「もたもたしゃべるなあ」とか「ああ、みっともない…」などと思われていないかしらと、私まで固くなり、もどかしい思いでいっぱいでした。私の心の中に無意識にそんなふうに思ってしまう気持ちがあったのかもしれません。そんな時は、ついつい先回りして、おせっかいな助け船を出して、息子の可能性をつみとってしまっていたように思います。無知だった自分がとても恥ずかしいです。でも、親子共々、キャンプ後は何かが確実に変わり、肩の力を抜いて向き合っています。吃音の調子は一足飛びには生きませんけど、少しは気楽になれたように感じます。
なんだか不思議なんですが、キャンプで出会った先生、スタッフ、親子の中に初めて出会ったような気がしない方々がたくさんいました。同じ悩みや課題を抱える者どうし、出会うべくして出会ったという感じがしています。吃音フェロモンが漂っていたのかも。これからも大事にしていきたいと思います。
来年、息子は中学生、思春期真っ只中です。彼をとりまく状況もさまざまに変わることでしょう。吃音もどのように変化していくのか全く想像もつきませんが、キャンプで得たものを糧に、またほぼ全国にいる仲間を心の拠り所に、私もサバイバルに加わっていきます。
私の、吃音への理解はスタート地点からようやく一歩踏み出したところです。これから徐々に学びつつ深めていけたらと思っています。(「スタタリング・ナウ」 2007.11.20 NO.159)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/11/10