ちば吃音相談会&学習会2 〈あなたはあなたのままでいい(自己肯定)〉〈あなたはひとりではない(他者信頼)〉〈あなたには力がある(他者貢献)〉

 あっというまに午前中が終わり、昼休憩をおいて午後の部が始まりました。
 午後は、スタイルを変え、〈あなたはあなたのままでいい(自己肯定) あなたはひとりではない(他者信頼) あなたには力がある(他者貢献)〉について、みんなで考えました。
 これを考えることは、人が幸せに生きるための条件を考えることとつながります。幸福論は、これまで多くの人が論じていますが、ここで、僕は、アドラーの共同体感覚の話をしました。アドラーは、人が幸せに生きるためには、この共同体感覚が必要だと提案しました。共同体とは、社会であり、世界なのですが、もっと具体的には、僕たちの周りの、学校であったり、会社であったり、地域のことを指します。もっと具体的には、名前は知らなくても顔は知っている、会えばちょっと立ち話をするような、半径3メートル圏内の人たちのことをいいます。
 医療社会学者のアーロン・アントノフスキーも、似たような空間を「生活社会」と呼びました。その共同体の中で、〈あなたはあなたのままでいい(自己肯定) あなたはひとりではない(他者信頼) あなたには力がある(他者貢献)〉の感覚をもってほしいのです。その共同体感覚を育成するために、親として、教師して何ができるかを参加者とともに考えました。
 この3つはどれも大切なことですが、そう思えるために何が必要だろうか、このうちのどれが一番取り組みやすいだろうか、それぞれ考えてもらいました。

 僕は、21歳で生まれ変わりました。僕が生まれ変わったことを、この3つで説明することができます。
 僕は、東京正生学院の30日間の合宿で、吃音が治らないという事実を認め、どもりながら生きていく覚悟を決めました。そして、どもる人たちのセルフヘルプグループを作りました。その活動の中で、自分の体験を話し、みんなの体験を聞きました。どもるのは自分だけだと思っていたのが、そうじゃない、仲間がいるということを実感しました。どもりながらも話す僕の話をみんなは共感を持って聞いてくれました。僕は、ひとりではないことを実感しました。〈他者信頼〉です。そして、それまで小学校、中学校、高校と、勉強もせず、クラスの役割も何もせず過ごしてきましたが、自分が作った会なので、イベントの計画を立てたり、会場の交渉をしたりと活動しました。イベントが成功すると、会のみんなが「ありがとう。よかった。伊藤君のおかげだよ」と言ってくれました。僕は他者のために貢献できたのだと思いました。〈他者貢献〉です。そして、それらの経験が、これまで自己否定し続けてきた自分を、僕は僕のままでいいと〈自己肯定〉できるようになったのです。後は、ぐるぐると3つは循環して大きくなっていきました。
 僕の場合は、このように、他者信頼→他者貢献→自己肯定 という流れでした。これはもちろん、僕の体験であって、人がみな、この道筋をたどるわけではありませんし、これが正解というわけではありません。ひとつの例として話しました。
 どもる子どもが、この共同体感覚を持ってくれるために、親やことばの教室担当者として何ができるのか、話は広がり、深まりました。
 自分の意志でできることは、何でしょう。相手、他者をリスペクトすることではないかと思います。また、やさしい人にはなれなくても、やさしい行為はできます。性格は変えられなくても、ライフスタイルは変えることができるのです。
 〈あなたはあなたのままでいい、あなたはひとりではない、あなたには力がある〉が、子ども自身の中で、〈私は私のままでいい、私はひとりではない、私には力がある〉に変わってくれることを、願っています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/12/20

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