第15回吃音親子サマーキャンプ~参加者の感想~

 夏の終わりの一大イベントになった吃音親子サマーキャンプ。始めた時は、総勢30人くらいのこじんまりとしたものでした。一番多いときは150名ほどの大所帯になりました。スタッフも40名を超えるのですから、大きなキャンプになったものです。
 何度も参加しているリピーターの家族もあれば、初めてという家族もありで、そのなんともいえない絶妙なバランスが、キャンプ独特のいい味を出してくれています。
 今日は、第15回吃音親子サマーキャンプの参加者の感想を紹介します。その2004年は、台風の当たり年で、8月末のサマーキャンプも、台風の動きが遅く、直撃は免れたものの、最終日、九州・宮崎からの参加者が九州には着いたが宮崎まで帰れず、途中小倉で2泊するというハプニングがありました。
 人と人との直(じか)のつながりが希薄になり、表面だけの薄っぺらいつき合いが多い今、このサマーキャンプは貴重な存在です。下は幼稚園から、上は高校生3年生までがひとつのグループを作り、ワイワイ言いながら楽しく芝居の練習をする、そのことだけでも、なんか不思議な感じがします。きょうだいみたいにじゃれ合って、大きい子は小さい子の面倒を見ているし、小さい子はちょっかいを出しながらも慕っています。どもって話し始めたときは、みんなやさしく待ちます。せりふが言えなくて困っている子がいると、こうしてみたらとさりげなくアドバイスもします。僕は、そんな光景があちこちで見られる空間にいることを幸せに思います。

  出会いに感謝
                            橋田智子(大阪医専)

 中学校の教員をやめて、言語聴覚士の学校に通って2年目。一体自分は何をめざしているのだろうか、とまだまだ迷っています。そんな私にとって、このキャンプは、本当に貴重な経験となりました。そして、ここに集まっているみなさんのことをとてもうらやましく思いました。話すことにさまざまな困難や辛さを抱えておられるみなさんに対して、安易にうらやましいなどと言ってはいけないのだろうとは思いますが、自分を省みたとき、自分は果たしてこんなに真剣に自分自身と向き合ってきただろうか、あるいは、それを共有できる仲間を持っているだろうか、と考えると、どうも心許なく、このキャンプに集まっているみなさんが輝いて見えたのです。勇気を出して自分の苦しみや悩みと向き合おうとしたとき、語り合える仲間がいて、寄り添ってくれる大人がいて、時には誰かと語り合いながら、時には一人黙々と自分を見つめることができる、そういうことがごく自然に実現されているこのキャンプは、なんて素敵な場所なんだろうと思います。親御さんやスタッフの方たちを含めて、ここに集まっている人たちは、自分の悩みを悩み抜き、一歩一歩を丁寧に踏みしめて生きている人ばかりだと感じました。
 みなさんの演じた劇は本当に感動でした。時にグッとつまりながらもほとばしることばには、体温と体重が感じられました。劇に作文、話し合い、自分に向き合う、しんどいことばかりに取り組んでいるはずなのに、心の底から楽しみ、終わりを惜しむ皆さんは、ありのままの自分を表現することの喜びを体いっぱいに感じられる、すばらしい3日間を過ごされたのだと思います。
 私は来年どこで何をしているか分からないけれど、みなさんとの出会いを糧にして、私なりに自分と向き合い、悩むべきことは悩みぬいて、新しい自分を切り拓いていきたいと思います。
 15年も続いているキャンプに突然一人で参加して、3日間ひとりぼっちだったらどうしようかと、不安に思っていたのですが、始まる前から丁寧なお電話をいただいて、とても安心しましたし、始まってからもいろんな人とお話させていただいて、本当によかったです。みなさんの温かさに本当に感謝しています。

  何かが違う
                   山本千恵子(広島県・中学2年)
 私がどもりになってもう10年はたったと思います。そして今年初めて吃音親子サマーキャンプに参加しました。最初は初めての場所で皆と上手くやっていけるだろうか、とかいろいろ不安はつきませんでした。けど実際に行ってみると友だちもすぐできたし、スタッフの人が優しかったです。
 そこで、3日間過ごして私の考え方は変わったと思います。
 私はこれまで、何か楽しいことやうれしいことがあっても、どもりのせいで…とどもりを責めていました。「あそこで言えたら盛り上がっていただろうに」「楽しかったけど、どもりさえなければ…」などと自分のどもりを否定し続けてきたように思います。ことばの教室へ行ってとても良い感じにはなったけれど、その考えは変わっていませんでした。でも、このキャンプに来て「あれっ、何か違うぞ」と思いました。皆どもりながらでもすごく楽しそうに話していたからです。どもりの人ばかりだからでしょうか。私も日頃よりかどもりは気にしたけど、とても明るくしゃべることができました。もちろん、それまでも明るくしゃべっていたのですが、…。リラックスしたというか、肩の力がぬけたというか、そんな感じでした。
 どもりになるのとならないのと、という選択肢が目の前にあったら、皆ならない方を選ぶと思います。でも、どもりでもこうやって同じ仲間と語り合えるし、そんなに思いつめることはないんじゃないかとも思ってきました。私は演劇部で、辛い思いもたくさんしてきました。でも私はどもりだからこそ、人一倍練習をしてきたと思います。
 …あと3週間後は文化部発表会です。きっとすごく緊張もすると思います。でもその時はこのキャンプの楽しかった思いを思い出して、今自分にできる精一杯のことをやっていきたいと思っています。

  楽になりました
                        山本咲子(千恵子さんの母)
 初めてサマーキャンプに参加させてもらって、一番の感想は、楽になったということです。今までは子どもがどもるのがどうしても気になって、うまく話せさえすればこの子もこんなに苦労せずにすむのに、かわいそうに、とか、将来どうなるんだろうとか、治す方法はないか、などいつも頭の片隅にそういう考えがありました。そういう心配は口には出さないでも顔には出ていたかもしれません。子どもの気持ちを分かろうとしすぎて、かえって子どもを追いつめていたかもしれません。
 でも、キャンプで高校、大学、そして大人の方々がすごく堂々と、いきいきと話している様子、そのままで大丈夫だよ、という安心感に、何だかすごく楽になれて肩の力が抜けていくのが分かりました。
 親同士の話し合いも、劇でみんな一生懸命がんばってたのも、(心打たれて我が子ばかりでなく、みんなを見て泣いてしまいました)これからの支えになってくれると思います。参加してよかった、と心から思います。
 千恵子も、同室のスタッフや大学生の人たちと夜遅くまで話して、とても楽しかった、いろんなことを教えてもらった、と何度も言っていました。
 高校生の女の子たちとも最後はいっぱい話せるようになっていたし、とにかく3日間じゃ足りないよ、それに次まで1年なんて長すぎる、と子どもも嘆いています。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/05/04

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