ちば吃音相談会&学習会

 千葉市立検見川小学校ことばの教室訪問の翌日、12月2日は、千葉県教育会館で、ちば吃音相談会&学習会でした。
 この、千葉での吃音相談会の前身は、横浜での吃音相談会でした。僕にとって、地元ではない関東地方で話す機会はなかなかないので、とてもありがたい相談会です。参加者は、どもる子どもの保護者やことばの教室担当者、言語聴覚士など、幅広く、参加者みんなで考え、語り合うというスタイルをとってきました。今回は、どもる子どもも参加しています。
 午前中は、参加者から質問を出していただき、それについて答えながら、みんなで考えるという形をとりました。
 質問を出してもらう前に、僕自身の自己紹介をします。僕がどんな体験をしてきたのか、それを知ってもらった上で、質問してもらうことにしています。1ヶ月前に中学校の同窓会があったばかり、そして、同窓会の礼状を出したところ、幹事からお礼の電話をもらったばかりだったので、同窓会の話から始めました。
 いい思い出など何ひとつないと思い込んでいた中学校、高校時代でしたが、同窓会に参加すると、多くの人から声をかけてもらい、自分が思っていたほど悲惨な中学校生活ではなかったのかと思い始めました。顔を見ても、誰なのか分かりません。名前ももちろん思い出せません。でも、いろいろと話をして時間が経つにつれて、中学時代の顔が思い浮かんできました。不思議な経験でした。
 みじめだった僕が変わったのは、21歳のときです。21歳から今まで、本当に幸せに、豊かに生きてきました。今、吃音は、僕にとって宝物といえます。同じように吃音をもちながら、損な生き方をする人もいます。同じような困難さを持っても、生き方はひとりひとり違います。僕自身の失敗から学び、検証してきたことを土台にして、話をしました。
 こんな自己紹介のあと、みんなに質問を書いてもらい、そのひとつひとつに答えていきました。

1 「どもりで困ってない?」と子どもに聞くと、心を閉ざしたように怒ってしまう。どうしたらいいか。
2 どもるのが嫌で、宿題の音読を嫌がる。どうしたらいいか。あまり嫌がるから、音読の宿題はしなくてもいいと言おうと思うが、そうすると、嫌なことはしないという子になってしまわないか心配だ。
3 どもる子どもをもつ母親としての覚悟は何か。サポートしていくことは何か。
4 どもっていることを自覚していない子に自覚させるにはどうしたらいいか。
5 本人に困り感がない。「どもっているよ」と言っても、本人は「どもっていない」と言う。6 生きづらさを抱える子どもにどう接したらいいか。
7 小2の息子は、吃音を治したいと言う。今日も、どうしたら治るか、聞いてきてほしいと言われて来た。
8 今は周りに恵まれているけれど、これから先、つらくなったらどうしたらいいか。
9 将来のことを考えると心配になる。
10 どもっても平気、気にするなという子育てをしたいけれど、どんなことばかけができるか。

1 「どもりで困ってない?」と子どもに聞くと、心を閉ざしたように怒ってしまう。どうしたらいいか。

 「どもりで困ってない?」と親はよく聞くらしいけれど、子どもにとっては嫌なことなんでしょうね。僕も聞かれたら、僕はどもりで困っている人間として見られているのかと、嫌な気分になります。ことばの教室でも、「何か困ってない?」と聞くことが少なくないらしい。そのとき、子どもは、「別に」と答えるようですが、当然の反応だろうと思います。
 こういう聞き方ではなく、「最近、何かいいこと、楽しかったことはない?」と聞いた方がいいと思います。親として、子どもが困っていないかどうか聞きたい気持ちはよく分かるけれど、子どもの方から何か言ってきたら、そのときはいろいろと質問して、一所懸命聞くことにしたい。「へえー、どうして? すごい!」など、興味関心をもって質問をして、豊かにふくらませる。そして、子どもの話した内容を、親として意味づけをする。そんなとき、ポジティヴ心理学の強みの項目を知っていれば、その項目を使いながら、子どもの強みを発見して意味づけることができます。
 「どもって困っている子ども」ではなく、どもりながらも楽しそうに学校に行っている、忍耐力のある、サバイバルしている子どもとして見ることができると、子どもをリスペクトできます。確かに見守ることは難しいと思います。
 僕の両親ですが、自分自身がどもる父も、その父の妻である母も、子どもである僕に吃音のことを聞くことは一切ありませんでした。でも、そのおかげで、僕はしっかりと吃音に悩ませてもらいました。今、考えれば、僕のことを信頼してくれていたのでしょぅ。

2 どもるのが嫌で、宿題の音読を嫌がる。どうしたらいいか。あまり嫌がるから、音読の宿題はしなくてもいいと言おうと思うが、そうすると、嫌なことはしないという子になってしまわないか心配だ。

 宿題の音読を嫌がるのなら、無理にしなくていいと思います。宿題の音読練習はしなくても、声を出すことは大事なので、好きな絵本を読んだり、歌を一緒に歌ってください。僕の母は、僕を抱いて、歌をよく歌ってくれました。童謡、唱歌を母と一緒に歌いました。それが、僕の声、ことばを育ててくれたと思います。どんなことでもいいから、声を出すことは続けることです。絵本セラピーがあり、絵本専門士がいます。絵本の世界にまず興味をもつことから始めてみましょう。 
 音読をしなくていいと言ったら、嫌なことは何でもしなくなるのではと心配だとのことでしたが、足が不自由な子どもに、早く走るための練習をさせますか? それと似たようなことで、音読が本当に苦しい子どもに、宿題だからと子どもを苦しめることはやめましょう。どもってどもって本当に苦しい音読を、学校では仕方ないからしているけれど、家でまですることはないと思います。苦手なことから逃げるということとは、本質的に違います。これは許すけれども、これは許さないという、メリハリ、見極めを、親がする必要があります。

7 小2の息子は、吃音を治したいと言う。今日も、どうしたら治るか、聞いてきてほしいと言われて来た。

 子どもがどう思うかは別にして、親は、どもりは治らないと、覚悟を決めることです。一方で、吃音は変化するものだということも伝えてください。吃音は100年以上、世界中で研究や治すための取り組みをしてきたけれど、ほんどの人が治らなかったと伝えてください。吃音が治るか治らないかは誰も断定できないけれど、ほとんどの人が治らなかったという事実は伝えてください。「治らない」と考えた方が「吃音が治ったら何々しよう」という考え方に陥らないから、「治らない」と考えた方が現実的で得だと思います。だから、「治らないんだって」と、伊藤伸二に聞いたと子どもに伝えてください。子どもは、すぐには納得しないと思いますが、納得するかどうかは、本人が決めること。きちんと真実を伝えることが、親の責任です。治したい治したいと思うことは損だよということは伝えてください。

10 どもっても平気、気にするなという子育てをしたいけれど、どんなことばかけができるか。

 魔法のような「ことばかけ」などありません。親がまず楽しく幸せに生きることだと思います。人っていいなあと思える毎日を送ることです。大阪教育大学にいた頃、大阪市中央児童相談所で、ことばが出ない重い障害のある子どもたちや親たちとかかわっていました。そこで、僕がいつも、親に言っていたのは、「子どもの犠牲になってはいけない」ということです。この子がせめて「おかあさん」と呼んでくれるまではと髪を振り乱して子どもにかかわるのが親の役目だと思い込んでいた保護者がほとんどでした。でも、そうではない。親は親、子どもは子ども、自分の楽しみを犠牲にしてはいけない。親が楽しそうに幸せに生きていることが、子どもの幸せにつながるのだと、僕は思います。楽しく幸せに生きれば、結果としてどもっても平気になるのだと思います。

 たくさんの質問に、長い時間をかけて答えました。そのごく一部しか紹介できていませんが、これもまた、いつかどこかで紹介したいと思います。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/12/19

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