子どもへの支援 子どもの苦戦を支援する4 石隈利紀さんの講演より

 石隈利紀さんの講演を紹介してきました。とりあえず、今回で、講演の前半が終了です。「スタタリング・ナウ」では、講演の前半を紹介していました。2001年の講演ですが、あらためて読み返すことができてとても勉強になりました。ここ10年ほどで急速に関心が広がった、レジリエンスやポジティブ心理学と共通することが多く、今取り組んでいることの整理に役に立っています。
 後半部分については、また後日紹介できればと考えています。人はひとりひとり違う、このことを改めて思います。そして、子どもも私たちも、幸せになるような支援のあり方を考えていきたいものです。

子どもの苦戦を支援する
              筑波大学心理学系教授 石隈利紀

子どもの個性を大切に

 子どもの苦戦をサポートする上で、大切にするのが、一人ひとりの子どもの個性と私たち援助する大人の個性です。まず子どもの個性についてお話します。

(1)個性とは美しいデコボコ
 個性と言うと何かカッコよすぎますけれど、他の言葉で言えば「個人差」です。背の高い人もいるし、低い人もいる。スポーツが上手な人も、苦手な人もいる。人と話すのが好きな人も、苦手な人もいる。それぞれ自分のいろんなところを合わせて、その人です。
 他の言い方で言えば、個性は「デコボコ」だと思うのです。一人ひとりが違うということは輝きでもあるし、しんどいことでもあるし、「違うこと」そのことですよね。私は美しきデコボコ、愛すべきデコボコと言っていますけれども、そのデコボコのあたり具合では嫌な思いをすることも、お互いあるわけです。
 「ものをはっきり言えていいね」ってある人のことを誉めると、一緒に仕事をしている人は、「あんなにズケズケ言われてオレは傷ついている」と言います。それぞれの立場によって、デコボコとのつき合い方が違います。
 個性が美しい、すばらしいと言う前に、「みんな違う」という現実を認め、お互いの個性を認めようということです。お互いの違いがうまく生かせて、大切に出来ることをちょっとでもお互いに工夫しましょう。
 子どもの個性を理解するとき、子どもの興味、関心、どんなことが好きか、特技、あるいは身体のこと、性格のこととかが鍵になります。自分が関わる子どもについてそういうのを1つか2つ言えるといいですよね。
 自分のお子さんとか生徒さんは、こういうことに関心を持っていますよと。多分、みなさん言えると思うのですが、それをいつもチェックして、子どもが今何に関心を持っているのか知りたいなあと思います。

(2)子どもの得意な学習スタイルを生かす
 子どもの得意な学習や行動のスタイルは、子どもの苦戦において役に立つ能力であり、自分で自分を助ける資源、『自助資源』です。ちなみに、私達、子どもの苦戦を援助するサポーターは、子どもの援助資源です。子どもが自分の自助資源に気づき、伸ばすことを援助すること、そして援助資源を活用すること、これが援助の鍵を握ります。
 子どもの学習や行動のスタイルを、子どもの個性や自助資源という視点からお話します。一人ひとりの子どもは、勉強の方法の得意・不得意のパターン、つまり学習スタイルをもっています。子どもの学習スタイルは、子どもの個性の大切な一面です。
 第一に、言葉で表現するのが得意な子どもがいます。言葉のやりとりが、自分の表現や学習の重要な方法になります。一方、言葉以外の方法、具体的な物を操作するなど非言語的なやりとりが得意な子どもがいます。この場合は、言葉に頼り過ぎないで、絵や図や具体的なものを使うと、学習が進みます。私達も、ダンスを覚えるとき、ステップごとに、「右腕をあげて」と鍵になる言葉がある方が覚えやすい人と、見様見真似でやる方が楽な人といますよね。
 第二に、耳で聞く方と目で見る方の得意、不得意があります。小学校の5年生になって、急に忘れ物が増えた子どもが学級に何人かいました。4年生までは宿題を先生が全部黒板に書いていて、5年生の担任は書きませんでした。「先生は口で言うから、みんなよく聞いてね」って。それでOKな子どもはいいですが、目で見て確認して実行する学習スタイルの子どもは、宿題が黒板に書かれないことで、忘れることが増えたようです。先生がもう1回黒板に書くようになって、やってくるようになった。
 もう一つの例です。私はカウンセリングでも、「来週までこういうことをして下さいね」と宿題を出すことがあります。例えば、ある高校生は、学校を休んで、夜遅くまで起きていて、朝遅くまで寝ている、いわゆる昼夜逆転の生活が、少しずつ治ってきました。「自分の生活を安定させる」という目標を高校生と二人で立てます。そこで、何時に起きて、朝ごはんは何時に食べて、お昼ごはん何時に食べて、夜何時に寝たか、毎日の簡単な表を作ってもらうことになります。約束を言葉で言うことで実行できる生徒もいるし、約束をカードにすると実行できる生徒もいます。その生徒の場合、カードにその子にやって欲しいことを書いて、持って帰ってもらいました。
 第三に、重要な学習スタイルとして情報を処理するスタイルがあります。情報を一つひとつ順番に処理していく方式を継次処理と言います。そして情報を全体的に処理する方式を同時処理と言います。
 先ほどの小学2年生は「車」という文字を書くとき、「車」という文字全体をじっくりみてから、「田」と書いて、次にその上と下に「十」を書きましたね。この子どもは、同時処理型の学習スタイルです。
 私たち大人は、自分が好きな情報処理の仕方で子どもに教えることが多い。子どもの勉強の方法が先生の教え方と合うとは限りません。子どもの好きなやり方、得意なやり方を理解して、できるだけ合わせるといい。「君は、全体とパーツを見て、理解するのが得意なのだね」と、子ども自身が自分の学習スタイルに気づくよう援助するといい。小学生で、作文を文字で書くのが苦手な子どもには、早めにパソコンとかを教えるといい場合があります。また作文をじっくり書けない子どもに対する援助の仕方としては、作文を口で言ってもらってテープに入れるという方法もあります。作文の宿題で、作文をテープで提出するのも、先生に認めてもらえるといいですね。

(3)子どもの得意な行動の方法や問題解決スタイルを生かす
 子どもの行動の仕方とは、一人の時間の過し方、友達や、先生や大人とのつき合い方、集団とのつき合い方などです。これらは、子どもの個性の大切な一面です。ストレス対処の方法や援助を求める方法など問題解決のスタイルも、百人百様です。
 第一に、友達とのつき合い方です。友達はたくさんいる方がいいと、「世界中の人と仲よくなりなさい」とまで、言われます。これらの言葉は、考えてみたらあまり現実的ではありません。もちろん多くの人と仲良くすることは、いいことだと思います。でも一人ひとりの子どもには、その子どもの友達の作り方がある。20人友達がいる子どもの方が、2人しか友達がいない子どもよりいいという訳ではないですね。その子どもが、自分が今ちょうどいいと感じられる友達のつき合い方をすればいいのです。そういった意味では、直接会う方法の他に、Eメールとか、携帯電話とか、コミュニケーションの道具や方法が増えたことは、いいことかもしれません。その子どもの得意な表現の方法を生かすことが大切です。
 ただ、Eメールや携帯電話は、実際はそれほど仲よしにならなくても、何回か交流していると、とても仲よくなった気持ちになることもあるので、心配です。
 第二に、ストレス対処の方法です。自分一人でボーとしている、友達に電話する、好きな物を食べるなどいろいろです。私達が子どものストレス対処の仕方をよく知って、大事にしてあげるといいですね。そして子ども自身が、「僕はこうすればストレスが減るのだ」と自覚すると得です。子どもがストレスをためて、何かをやって元気になったとき、お母さんやお父さんが見ていて、「それは元気になるのにいい方法だね」って言ってあげると、子どもが気がつきやすいのですよ。ストレスがたまると、何かを蹴飛ばすという方法もあります。蹴飛ばすものが、だんだんお金のかからないものに変わっていけばいい。昔から青春ドラマで、何か嫌なことがあったら、校庭に出て、杉か松かをたたいていました。こういうのは、昔から私たちはやってきたのです。最近の子どもはキレやすいと言うけど、多分、キレ方が下手なのではないかと思うのです。ナイフを持つ前に、何か蹴飛ばせばいいし、他の友達としゃべって、ストレスが減るんだったら、それもいい。ストレスにつき合う方法を見つけるのに苦労している子どもが多いのかもしれません。
 「ストレスをどうやって減らすか、今日はみんなで話し合いましょう」という授業をしたらどうでしょう。まず先生が自分のストレス対処の方法を紹介します。その後、生徒達に自分のストレス対処法を発表してもらいます。「ペットと遊ぶ」「ゲームをする」「バットを振る」などなど。そのとき、どの方法もいい方法だという原則です。自分や他の人を傷つけるものは除いてです。子どもがいろんなストレス対処法があるということに気づき、自分で使える対処法を増やしていくことを目指します。
 自分に合った学習スタイル、行動スタイル、ストレス対処スタイルは、頼りになる自助資源です。子どもの個性は、何かで1番でなきゃいけないとか、これやると負けない、とかいうものではないと私は思います。個性とは、自分らしさのことです。他の人と比べてみた特徴(背が高いなど)よりも、自分という個人の中での特徴(強い学習スタイルや得意なストレス対処法など)の方が、援助につながりやすいと思います。
 私たち援助者が子どもの個性、とくに自助資源を知っていると、その子どもがすごくつらくて自分の力を発揮できなくているとき、援助するきっかけになります。
 学校の先生、親御さん、近所の人など、子どもと一緒にあるいは近くに暮らしている人は、本人の自助資源がよく見えますね。援助の力が一番あるそういう人達がチームになり、そこにカウンセラーも入ると、子どもはたくさん得をすると思います。(「スタタリング・ナウ」NO.95 2002.7.20)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/11/19

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