「吃音の夏」のしめくくり 第32回吃音親子サマーキャンプ 二日目

 いつの間にか、9月に入りました。毎年、サマーキャンプが終わると秋の訪れの気配を感じるのですが、今年はまだまだ暑いです。みなさん、夏の疲れが出ませんように。

 吃音親子サマーキャンプ、2日目の朝がきました。
 いつもなら、自然の家の音楽が流れるのですが、何か不具合があったらしく流れません。でも、サマキャン卒業生の若いスタッフが、子どもたちに声をかけ、朝のスポーツに誘っていました。基本的には、参加自由の朝のスポーツです。僕が、ラジオ体操が始まるぎりぎりの時間に、つどいの広場に行くと、みんな、バドミントンをしたり、フリスビーをしたり、思い思いに遊んでいました。子どもたち、今日も元気です。

 2日目は、作文教室から始まりました。
 どもる子ども、保護者、きょうだい、スタッフ、参加者全員が、原稿用紙に向かいます。吃音にまつわるエピソードをひとつ、タイトルをつけ、様子がよく分かるように丁寧に書いていきます。「国語教育と吃音」をテーマに大学院で博士論文を書いているスタッフが、書く前にみんなに「自分と向き合うために、吃音と向き合うために、思い出して書きましょう」と声をかけていました。この作文教室が、この時間に設定されていることも、僕はとても絶妙だと思っています。一日目の夜に話し合いをし、この作文の後にも話し合いをします。作文教室は、話し合いにサンドイッチされた状態で行われます。
 話し合いは、ほかの人たちがいる中で、触発されながら、自分のことを考えます。
 作文は、ひとりで、自分や自分の吃音に向き合う時間です。また、話し合いは、話すというコミュニケーションのひとつで、作文は書くというコミュニケーションのツールを使います。話すことか書くことか、自分の得意なツールで自分を表現することができるのです。そして、それはお互いに影響し合います。いつだったか、作文を書きながら、これまでのことを振り返り、ちょっとしんどくなった女子高校生がいました。2回目の話し合いに参加せず、近くを散歩して、気分を整え、次のプログラムには元気に加わりました。
 また、書けない子もいます。僕は、それはそれでいいと思っています。無理矢理書かせるのではなく、みんながそれぞれに書いている中で、書けない自分と向き合うことも意味のあることだと思っています。小さい子にはお手伝いをしたり、絵日記風にしたり、支援をしますが、基本的には、この時間は、自分ひとりで向き合う時間です。
 作文と平行して、参加経験の浅いスタッフ向けのサマーキャンプ基礎講座を設けています。特に、初めて参加するスタッフは、ほとんど何も事前の打ち合わせをせず、サマーキャンプが始まります。とまどいの中で一日を過ごしたこの時間に、自分が感じた疑問や質問を出してもらい、僕やそのほかベテランのスタッフが自分の経験を話します。サマキャン卒業生も、ここで、サマーキャンプの舞台裏を知ることになります。一参加者として参加していたときとは違うサマーキャンプの意味づけができるようです。何か気の利いたことを言おうとしなくていい、アドバイスする必要もない、吃音と共に生きているそのままの自分を出してくれたらいいと思っています。
 作文が終わったら、2回目の話し合いです。作文を書いたことで、より深まったり、1回目の続きで広がったり、それぞれのグループで展開されました。僕が参加していた小学生5、6年生の話し合いは、とても興味深いものになったので、別の機会に報告します。
 午後は、親子別々のプログラムです。子どもたちは、劇の練習が始まります。昨夜見たスタッフによる見本の劇を思い出しながら、初めは、配役を決めず、自由にいろいろな役になり、やりとりを楽しみます。誰に向かってことばを届けるのか、相手のからだに届く声を意識して取り組みます。みんな、真剣に、でも笑いの中で練習が続きます。
 そして、3時過ぎ、子どもたちは野外活動に出発します。近くの荒神山へのウォークラリーです。生活・演劇グループごとに出発です。ここでも、サマキャン卒業生スタッフが大活躍です。毎年、登ってきた荒神山、途中いろいろな話をしながら歩くこと、山頂での眺めの素晴らしさ、そんな楽しさを伝えるため、事前に打ち合わせを行い、出発前の説明も自主的にしてくれています。
 子どもたちの活動と並行して、保護者は、親の学習会を行います。
 これまで、親の学習会では、論理療法、アサーショントレーニング、ポジティヴ心理学、レジリエンスなど心理学を、エクササイズを通して学んだり、グループごとに分かれて模造紙にまとめて発表したり、さまざまな形で行ってきましたが、今年は、初参加者が多いこともあって、初心に戻り、参加者から質問を出してもらい、それに答えていきました。 ひとつの質問から話は広がり、時間がどれだけあっても足りません。予定の時間を40分もオーバーして、午後1時に始まった親の学習会は、5時40まで続きました。出された全員からの質問に答えることができました。何度か強調したのは、親の課題と子どもの課題を分けること、どもる子どもをかわいそうと思わないこと、子どもの力を信じて見守ることの大切さでした。
 荒神山から帰ってきた子どもたちと合流して夕食です。
 コロナの前までは、この夕食を外のクラフト棟で食べていました。メニューは、カツカレー。20回だったか、25回だったか、記念の年に、何か記念になることをと思って、食堂に無理をお願いし、カツカレーにしていただいたことがその後の定番になっていました。緑のきれいな自然の中で、みんなでカツカレーを食べる光景は、どこを切り取っても絵になります。写真を見ると、みんな笑顔です。僕は、この光景を見ると、「吃音ファミリー」ということを思います。大きな輪になってみんなが笑っている、温かい空間なのです。コロナ後、それができなくなりました。蚊が大量発生し、とても外で食事をとることができなくなったのです。残念ですが、今年も食堂でいただきました。
 食事の後は、子どもたちは、劇の練習です。保護者は少し休憩をかねて、フリートーク。午後の学習会の疲れを少し癒やしていただきました。
 午後10時、スタッフ会議です。長い二日目が終わりました。話し合いや劇の練習を通して、子どもたちの様子を交換し合います。劇の仕上がり具合を聞くと、どのグループも、「順調です。どうぞ、お楽しみに」「○○君の演技、お見逃しなく」など、翌日への期待をもたせてくれます。このスタッフ会議も、スタッフが子どもや親の様子を気にかけてくれていることが分かる、僕の好きな時間です。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/09/01

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