大阪吃音教室 新企画新大学生・就活生・新社会人向け講座 《就職活動と吃音》
昨年の運営会議で提案され、新企画として、「新大学生・就活生・新社会人向け」と対象を明確にした大阪吃音教室の講座が、2月20日にありました。大阪吃音教室や日本吃音臨床研究会のホームページ、こくちーずなど、新しい企画への参加を呼びかけようと手を尽くしました。担当者も、この日のために、いろいろ考え、案を練って当日を迎えましたが、残念ながら、一番参加してほしい人の参加がありませんでした。まあ、それは、想定内のことだったようで、担当者3人は、そんなときには次のB案でと、考えていてくれました。
Xには、吃音に悩む人のつぶやきがたくさんあるそうです。リアルな投稿がなされているようで、それをみんなで共有し、参加者で考えていこうということになりました。新企画を提案し、担当してくれた、僕たちより若い人たちならではの発想でした。
たとえば、こんな投稿があります。
就活をこのまま続けるか、一旦1年立ち止まって吃音の改善や自分と向き合う時間を取るかで迷っています。吃音への不安を抱えたまま就職するのも怖いし、だからといって1年遅れてしまうことへの、周りと比較しての焦りもあります。
先生とか親など周りからは、自分が納得する道を選びなさいと言われますが、その一方で、吃音だからこれは難しいんじゃないの、こんな仕事は難しいんじゃないのとか言われた経験もあり、これまで周囲の意見を優先してきたので、自分が本当はどうしたいか、自分の本当の気持ちがあまり分かりません。
友達と一緒に新卒で就職したいという気持ちと、吃音を困らない程度に少しでも軽くしてから社会に出たいという気持ちがあります。小さい時からの吃音から解放されたいという願いが強くあるので、吃音の改善を1年やってみたい、でも就職するのが1年遅ることへの焦りもあります。私はどう考えていけばいいと思いますか。
実際に、こんなことを考えている人が参加して、その場にいてくれたら、状況をもっと詳しく話してもらえると思うのですが、今回はそうはいきません。あれこれ、みんなで想像しました。そして、自分の体験を出していきました。
自分たちも就職活動を経験しているので、この人のもっている不安はよくわかるという前提で、参加者の勝手なつぶやきをいくつか紹介します。
・周りから、自分の納得する道を選べと言われても、どんなのが自分の納得する道なのか、わからない。自分の気持ち、自分の希望というのがあまりない。この人はこれまで自分の意思で物事を決めてきたという経験が少ないのだろう。周りの意見に沿って、自分が行動してきたことが、良かったのかどうかとも思っているだろう。この人の気持ちがよく分かる。私も、就活の時期、なんかすごく胸が苦しくなったりしていたことを思い出した。
・ちょっと休みたいという気持ちもあるのかなあ。吃音改善をするために1年立ち止まると言うけれど、今、ストレスにさらされているから、そういう場から離れたいんじゃないかな。ストレスがすごいから、先延ばししたいということかも。吃音と向き合うことにすると決めたら、就職を1年先延ばしにする理由付けができる。
・でも、1年後に吃音がどうなっているのかは全くわからない。
・就職はできないから迷っているということもあるけれども、この人が悩んでいることは、本当は、何を自分がしたいのかよくわからないというところなのかも。
・友達と一緒に就活したい。けれど、小さい時から早く吃音から解放されたいと思ってきた。吃音改善のために1年を取ると、友達から1年遅れる。それにも焦りを感じる。だからどうしたらいいかわからない。そもそも自分で決定してきた歴史があまりないから、物事を決めることも難しい。
・早く解放されたいというのは、吃音からくる苦労や悩みだと思うけど、吃音が改善できたら、解放されるのかな。
・改善したら解放されると、この人は思っているんだろうね。
・ある日突然、吃音が治ったとしても、自分が何になりたいかがわからないと困るのでは。自分の納得する道を選べと言われても、吃音だからできないんじゃないの?とも言われている。
・就活を続けるにしても、吃音が邪魔をしていると思っている。自分がどうしたいかわからないから、就活も続けようがない、みたいな悩みもある。そこにも、吃音が絡んでいる。
・改善とか解放というけれど、1年で吃音が改善できると思ってるのか。
・治るの意味もいろいろあるよね。
・「何でもやっていいよ、自分で納得する道を選びなさい」と言いながら、一方で、「吃音だからそれはできないでしょ!」と言う。これは典型的なダブルバインド。
・この人の場合、やっぱり改善というのは、吃音の症状の改善であって、吃音に向き合うということではない。症状にとらわれている。1年で改善してからということは、この人は案外、そこそこしゃべれる人かもしれない。だからこそ、とらわれも大きいのだろう。
・昭和年代の私たちのときは、こんなことを考えず、とにかく働かなければならないと思っていた。どもるけれども、仕事に支障が出るとは思っていなかったような気がする。
・吃音と向き合う時間というのが面白いよね。本当はずっと吃音と向き合ってきたはずなのに、わざわざ向き合うというところに、何かありそう。
・私が資格の勉強をしているとき、しゃべらなくてよかった。就活しない口実にもなったし。
・資格を取った後は、必ずしゃべることがつきものなんだけどね。
・資格を取って、その資格で就職するときは、面接もあるし、資格で就職しても、しゃべることはついてくる。
・新卒で就職しなかったら、その1年間、何してたんですかと絶対聞かれる。だから、この人も、友達と一緒のタイミングで就職したいという気持ちが強いんだよね。遅らせたら、自分も焦るだろうと思っている。なぜ1年遅れたの?と聞かれて、「私は、自分自身の吃音と向き合っていました」と言ったら、かっこいいけどね。
・でも、吃音と向き合うって何だろうと思われる。そこで、吃音とは…と蕩々と説明することになる。
・向き合うって、吃音を治していたんですかと言われる。そして、治ったんですか? 変わったんですか? と言われる。変わってませんねということになる。
・Xに投稿している人は、こういう悩みを書いて、誰かが返事をくれるのを待っているの? この投稿に対して誰かがコメントを書いてくれるのを待つの?
・うーん、つぶやいているだけ。つぶやいているだけだけど、そのつぶやきに対して反応することもできる。
・誰かに反応してほしい。反応してほしいなと思いながらつぶやいている。
では、この人が目の前にいるとして、僕たちとして、どう答えられるだろうか。
・現状は、就職はやっぱり新卒が優先される。1年遅れというのは多分不利に働くことが多い。
・新卒有利。わざわざ不利な立場に行くことはない。不利な立場に行って、吃音も改善しなかったら、元も子もないね。余計に大変なことになる。ということは、新卒でとりあえず就職してみるというのが現実的かな。
・とりあえず就職してみる、ってことか。
・転職してもいいと思って、とりあえず始める。
・新卒有利というのはあるけど、転職に対して見る目は、昔とは違ってきている。昔は、転職するのは難しかった。
・転職してもいいけど、面接官としてはブランクが気になる。面接官が、そうだねと思える理由付けがあったらいいけど、「吃音に向き合っていました」では、弱い気がする。
・吃音が不安なんだろうなあ。
・僕の時代は、就職する時代は高度経済成長期で、もうみんながじゃんじゃん就職が決まっていった。だから、就職しないといけないというような雰囲気になっていて、ちょっと吃音を改善する時間が欲しいとか、そんな考えは全然なかった。これ読んでると、どうも、モラトリアムを感じてしまう。僕の時代とはちょっと違う。
・新卒ということはもう絶対有利。たとえ失敗しても新卒だったら認められるしね。
・新卒で入らないと、面接で1年間のブランクに何をしてたんですかと、絶対聞かれる。吃音の改善は、就職してからでも、余地がある。
・なるほど。就職もしないで、家にいて、あちこちで開かれる吃音改善のための講習会に参加したからといって、改善できるかどうかわからない。何しろ新卒というのは、失敗しても有利なんだから、まず入ってみて、それからその会社で働きながら、自分の吃音の改善をするのがいい。
・就職して仕事をしながら、改善する。そのときの改善という意味は?
・やっぱり症状の改善で、以前よりはどもらなくなるということでしょう。
・吃音症状の改善のために、修行するような、断食道場のような、僕が行った、民間矯正所の東京正生学院のような、専門治療機関に行って吃音を治すことか。どうなんでしょうね。ここに行って改善の努力をしようという、あてがあるのかな。
・僕の時は高度経済成長で、みんな就職できたけども、就職難の時代があるじゃないですか。10社、15社、受けても通らないという時も。自分の好きなところに入れないのであれば、そういう時こそ来年まで伸ばすという手はある。その時代、時代の背景があって、それによって選択肢が変わっていくんじゃないかな。
・無理して就職することはない。
・今の時代は、就職氷河期と違って、就職できる時代だよね。
・むしろ人材不足気味な今は、就職するのにいい。
・自分の行きたい道を選べる時代。選べる時代は、無理して自分の嫌いなところに就職する必要はない。選べる時代かどうか、考えたらいいわけだ。
・実際働きだしたら、自分は何ができなくて、何ができるのかということを確かめることができる。案外できるなということが出てくると思うし、ちょっとこれきついなというのも出てくると思う。経験しないと分からない。
・とにかく就職してからサバイバルしながら吃音も改善していくのがいいんじゃないかな。しんどいと思うけど、実際に入ってみないと、自分がどこまでできるのか、どういう場面で吃音に影響があるのかも分からない。それこそ千差万別。一人一人違うから。
・とりあえず就職した方がいいよと、背中を押すのに、何かがいると思う。それがないと一歩踏み出せないんじゃないかな。
・「新卒は有利だよ」では、ちょっと弱いかな。
・もっと後押しするとしたら、ロジカルにいくと、メリットとデメリットを書いて、さあ、どっちを選ぶ? というような感じ。
・選びきれない。主体性がないと誰かに聞いてもらいたいと思う。
・自分は、こうこうでしたよと、僕たちも体験談を書いてもいいのかな。
・今の現状だったらやっぱり新卒は圧倒的に、どもることを超えるくらい有利な立場。一旦就職して考えたらどうですか、みたいなことになるという気はします。
・一方で、吃音が治らなくても、働いている人はいますよということも伝えたい。
・そういう人が案外いるということで、背中を押すことになる。
・世の中には、吃音が治らなくても働いている人が案外いるというのは、その人の背中を押すことになる。それと、有名人にもどもっている人はいっぱいいるということも。
・その人の見てる社会の景色は、このままじゃ働けないというものになっている。
・景色が悪いよね。その景色を変えてあげるということをしたい。
・景色を変えて、どもる体のままで社会に出ていこう、になるわけだ。
・吃音の改善というのはどういうことか、キーワードだと思う。吃音の改善にはどうしたらいいのか、そういうことをある程度定義することも大事。
・吃音改善には、喋り続けることしかないのだから、喋り続けるためにも、就職した方がいい。・仕事をしながら喋っていくということが、あなたの目的です。それが、吃音の改善につながっていくんじゃないか、と、改善と絡めて提案をしてあげるといい。
・今就職している新卒の人は、僕らの時代と違って、会社に入って2年もしたら大体3分の1は辞めていく。僕らの時代は、終身雇用の制度の時代に就職したから、就職するとなると一生そこに身を預けて仕事するということだから相当考えたけども。さっき、とりあえず就職してみたら、というのがあった。一生この仕事でと考えずに、とりあえず就職してその間に自分のやりたいことを、改善でも何でもやって、嫌だったらもうやめてもいいんじゃない、ということでボーンと送り出す時代と違いますかね。
・「今は終身雇用の時代ではない」という時代背景をきちんと認識する必要がある。
・一回でもいいからと、ハードルを低くするということですね、まず一歩踏み出すというのは。やめたかったらやめたらいいやんと。
・昔は、終身雇用というのはすごい高いハードルだった。
・終身雇用ではなくなっているということは、今、新卒で就職しても、それが自分の道を決定づけてしまうということではない。
・とりあえずは、何かをやるぞと、一応就職する。そして、自分のキャリアは積んでいく。
・自分で積んでいくんだと言って、何があるか分からないけど、とりあえず縁のあったところに入る。
・仕事しながら自分も納得する道も見えてくる。
・吃音が治るというのは、喋るのが楽になるということ? 喋ると、喋るのが楽になっていくという表現で、いいかな。
・吃音が治るということは、どういうことなのか。言葉の使い方が難しい。完全に治るってことは難しいけれども、楽に喋れるようになっていくということはあるよね。私も、こだわりが全くなくなってしまったから、電話は平気でするし、どこてでも喋っている。
・今、みんなが言ったように、こんな感じで、まず、投稿した人に、言葉を伝えたい。吃音を改善することにこだわるのなら、しゃべり続けること。そういうことで新卒優先。不利に行くより、新卒。希望する仕事というよりも、縁あった仕事に就く。そして、どうしても無理やったら、転職すればいい。終身雇用じゃないから。
こんな調子で、話は続きました。投稿者を思い浮かべ、自分の体験を思い出し、自由に話が続きました。そして、それらの意見は、ホワイトボードを埋めていきました。こんな僕たちの思いが届くといいなあと思いました。
当日は、もうひとつ、話したのですが、また、後日に。
この講座の第二弾が、3月6日(金)にあります。
新大学生として、新社会人として、新しい環境でどう生活していくかを考えます。必要であれば、自分の吃音を説明することも考えられます。そのときに、自分の吃音をどう説明するか、どう表現するか、を参加者のみんなで考えます。周りに、自分の吃音を分かってもらうためには、自分の吃音を説明・表現する「ことば」を持つことが大事です。
和やかな雰囲気の中で、自由に語る中で、そのヒントがみつかるかもしれません。
みなさんのご参加、お待ちしています。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/02/28


