2014年度ことば文学賞~東京~

 ことば文学賞の作品を紹介しています。ことば文学賞は、散文に限らず、詩による表現も可能です。短いことば、選び抜かれたことばをつないでできた作品を、「スタタリング・ナウ」
2014.11.22 NO.243 より紹介します。

  東京
                       西村芳和(元高校国語科教師)
1970年 夏 東京
炎天下 ギラギラする日差しの中
青年たちは ドクドクと汗を流し
土まみれ 建築現場の仕事に励んだ
真っ黒に日焼けした顔
白い歯だけがやけに目立っていた
わずかな報酬のすべては カンパ金だ

全国の拠点を作る
全国の吃音者たちの 強い強い支えとなる拠点を作る
青年たちの 言葉はどもっていても
青年たちの 目はどもっていなかった
青年たちの 行動はどもっていなかった

人の触れ合わないスクランブル交差点
東京砂漠
その東京のど真ん中に
青年たちの熱い熱い情熱の雫が滴った
この時 青年たちは
この雫が やがて
日本全国を 世界を潤す雫であることを
知らなかった

1976年5月 東京
青年たちは 声高らかに謳い上げた
「吃音者宣言」
魂の底からの美しい叫びの詩
涙を流すことさえできない
深い苦悩を知った人の美しい詩
確かな行動と議論を尽くし切った美しい詩

その 東京の空に 星屑があふれ
青年たちの魂の詩(うた)に
星々は惜しげもなく 美しい喜びの涙を流した

【選者コメント】
 選者には、作者は明らかにされていない。この作者は、一体誰だろう。あの時代、あの場を共有した人でなければ書けないような、臨場感あふれる描写にまず驚いた。たくさんのことばの中から選び出し、磨き、削ぎ、そして大切に手渡されたような気がした。作者の感想から、1976年のたいまつ社刊の『吃音者宣言』を再読したことからこの作品が生まれたことを知った。あの頃、東京で青春をかけて活動していた選者には、映像をみるかのように、ことばが迫ってきた。応募されたどの作品が優秀賞をとってもおかしくない。今回は選者の個人的な思いで、この作品を優秀賞に選んだことを正直に公表する。

【作者感想】
 「東京」の入賞、とってもうれしく思っています。実はこの夏、たいまつ社刊の『吃音者宣言』を再読しました。考えてみると、再読した本ってそんなにありません。再読であるにもかかわらず、夢中になって読んでいる自分がありました。今一度原点に立ち返って「吃音」を考えてみたかったのかもしれません。「東京」の詩は、そのインパクトが書かせた詩です。真正面から吃音に体当たりする、こんなに純粋で純心で行動力のある青年たちに、本当に感銘を受けました。この青年たちと共に、今回の入賞を喜び合いたいと思います。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/02/13

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