みんなが元気になる
今年も残すところ、あと1週間、押し迫ってきました。僕にとって、今年を表す感じ一文字は、やはり「痛」ですね。去年もそうだったような気がしますが、脊柱管狭窄症からくる腰痛と肩腱板断裂にともなう肩痛にはまいりました。吃音とはつきあえますが、痛みとはなかなかつきあえません。
そんなことを思いながら、年賀状を整理していたら、小中高時代の同級生から、電話がありました。「年賀状を書いていたら、伊藤君の年賀状が出てきて、がんばっているなあと思った。今、どうしてるかなあと、ふと声が聞きたくなった」とのことでした。ふと思い立って電話をしてくれた幼なじみの存在をうれしく思いました。しばし近況を話して、電話を切ったのですが、よし、がんばろうと、なんだか元気が出てきました。
今日は、「スタタリング・ナウ」2014.1.20 NO.233 の巻頭言を紹介します。第25回吃音親子サマーキャンプを特集している号です。参加するみんなに元気と勇気を与えていた吃音親子サマーキャンプ、来年は、35回目です。
みんなが元気になる
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
吃音親子サマーキャンプはここ15年、参加者は140名前後で推移している。どもる子どもと保護者の参加が増えるとスタッフが必要になる。スタッフは、子どもにかかわる専門職者として、ことばの教室の担当者を中心とした教師、さらに保育士や言語聴覚士などだ。そこに、NPO法人大阪スタタリングプロジェクトの成人のどもる人と、サマーキャンプの卒業生が加わる。
このキャンプは、25年前、ある自治体の言語聴覚士7人と、どもる私たちが実行委員会をつくって始めた。成人のどもる人たちは、どもる子どもたちに関わりたいと考えていたものの、成人単独では、子どもたちに関わるべきではないと考えていたので、言語聴覚士などの専門家と実行委員会が組めたことで第一回キャンプを開くことができたのだった。
5回目からは、成人の私たちが単独で開くことになった。果たして、どもる子どもやその親が集まるだろうか。また、交通費は自己負担、参加費も一般参加者と同じという条件の中で、ことばの教室の担当者や言語聴覚士などのスタッフが集まるだろうか。不安だった。成人のどもる人も、当事者なら誰でもいいというわけではなく、竹内敏晴さんのことばのレッスンを受けた経験があり、カウンセリングや児童心理、グループについて私たちと一緒に学んでおり、私たちが適任だと認めた人に限っていた。大学生や社会人で、キャンプに参加したいと申し込んでくる人は多かったが、条件を満たさない場合はすべて断ってきた。
それが今では、遠く南は沖縄から北は栃木や千葉の関東地方から、広い地域からことばの教室の担当者が参加するようになった。スタッフが集まる大きな転機は、今回、吃音親子サマーキャンプの報告をした千葉市のことばの教室担当者、八重樫淑子さんだ。キャンプに参加して元気が出た八重樫さんは、キャンプの経験を周りの人たちに語っていった。そして、次の年、周りのことばの教室担当者や、担当している子どもたちを連れてキャンプに参加した。同じような経験をした人たちがさらに他の人を誘い、いつしか、千葉県からの参加者が増えていった。毎年、スタッフとしては、千葉県のことばの教室担当者が多い。さらには、自分が担当している子どもたちを連れて参加するため、千葉県からの参加がとても多くなった。ある年、どの地方からの参加者が多いか、サマーキャンプの冒頭のプログラムである出会いの広場で調査したとき、大阪府にわずかな差でトップは譲ったものの、際だって千葉県が多かった。その多さには参加者の中からも、驚きの声が上がったほどだ。
誰に頼まれたわけでもなく、仕事の延長として参加しているわけでもない。専門家が最初参加する動機は、ことばの教室の実践に役立てたいなど、吃音を学ぶためという人は少なくない。しかし、キャンプが始まって数時間もすると、そのような学ぶ姿勢は消えていくそうだ。ことばの教室担当者、言語聴覚士という専門家としての役割は消え、一人の人間として、自分のために参加している自分に気づいていく。
どもる子どもや保護者は、仲間やどもりながら楽しく豊かに生きている成人のどもる人たちと出会い、「吃音を治す、軽減する」ではなく、「吃音とうまくつきあい、豊かに生きる」という価値観や文化を自分のものにしていく。また、「吃音を治し、軽減してあげる」ことが専門家としての役割だとの考えから、なかなか抜け出せなかった、ことばの教室担当者や言語聴覚士も、子どもたちがいきいきと活動し、話し合う姿に触れて、「治す、改善する」の呪縛から解放されていく。
140名を超える人たちが、吃音をテーマにして集まり、「治療」ではなく、「生きる」ことを考えるとき、それぞれの人生が響き合う。昨年、小学4年生の時から参加し、キャンプを卒業し、スタッフになってからも毎年欠かさず参加している長尾政毅さんの結婚式に、10組ほどの親子が参加したのには驚いた。お互いに元気と勇気を与え合っていたのだ。たくさんのドラマを作り上げてきたキャンプは、今夏、25回目を迎える。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/12/24

