第27回島根スタタリングフォーラム2日目~言語関係図のY軸のとらえ方~

 11月8・9日に、島根県立少年自然の家で開催された第27回島根スタタリングフォーラムの様子を報告しています。2日目の保護者との話し合いで印象に残った話です。

 ウェンデル・ジョンソンの言語関係図は、それまで吃音の問題はどもる症状にのみあるとされていたのを、X軸=いわゆるどもる症状、Y軸=聞き手の反応、Z軸=どもる本人の受け止め方や態度、という3つの軸からなる立体の形と容積で、吃音の真の課題を視覚化できるものにしたという点で画期的な提案でした。これによって、Y軸である聞き手、主に母親に対していい聞き手になりましょうという具体的な提案ができました。ジョンソンは、おそらく、Y軸として、母親などどもる子どもの家族や学校の担任などを想定していたと思われます。それがだんだんと広がり、環境調整ということばに代表されるようになり、社会全体の吃音の理解へと広がっていきました。
 僕たちも、Y軸を母親と限定せず、どもる本人を取り巻く環境、社会と広くとらえるようになってきました。僕の、合理的配慮への危惧は、「周りの理解さえよければ私は活躍できるのに」という風潮にならないかの危惧です。どんなに周りの環境の理解が悪くても、なくても、なんとか耐え、しのぎ、サバイバルしていってほしいと、Z軸を育てることを大切にしたいと発信してきました。
 今回、島根スタタリングフォーラムで保護者と話し合いを続けながら、この話も出ました。Y軸を社会全体ととらえて話す僕と、Y軸を母親や父親ととらえる保護者との間で少しずれが生じるのを感じました。僕は「Z軸重視」の立場をとっていますが、Y軸を決して軽視しているわけではないのです。ところが、子どもの問題を考えるとき、Y軸をあてにせず、Z軸をと言っているかのようで、子どものために親はすることがないかのように僕の話がとらえられているのではないかと思いました。
 これに対して、僕は、親がいい聞き手になるのは、当然のことで、そうであってほしいと思います。どんなにどもって話していても、うなずき、あいづちをうち、質問をし、共感して聞いてほしいです。その上で、子どもの大事な将来への選択のときは、転ばぬ先の杖をもたせて安心な環境へ送り出すことばかりを考えるのではなく、多少の困難が待ち受ける環境であっても、子どもと一緒に考え、子どもの意見を尊重し、選択権は子どもにあることをしっかりと確認しておいてほしいのです。
 Y軸の基本である「いい聞き手」になることを社会全体に広げて理解を求めることをしつつも、その限界も認めて理解に頼り過ぎず、子どもの生きる力を育てるZ軸への取り組みを大切にしたいと改めて思いました。

 合理的配慮への危惧を言う僕に、なぜそう思うのかと質問があり、僕は「もったいないと思うから」と答えました。
 例えば、今、電話が怖くてとれないから「電話を免除してほしい」と診断書などを添えて免除してもらうのはもったいないと思うのです。どもる症状は波があり、変化します。その時は電話などできないと思っていても、我慢して電話をとり続けることで、慣れてきて、電話ができるようになるということは、たくさんの人が経験しています。他の病気や障害と違って、吃音の場合、そのようなことがあるのです。障害が固定し、能力障害も変わらないのではなく、大きく変化するのが吃音です。ここで、僕は、地元の島根県出身の僕たちの仲間である、佐々木和子さんの話を出しました。教員養成大学の学生時代、本人も、周りも教師になることは絶対にないと当然のように思っていました。周りが採用試験を受けるから受けてしまった佐々木さん、試験に通り、面接であまりにどもる彼女の様子に驚いた島根県の教育委員会が、彼女の出身大学である大阪教育大学に問い合わせてきました。「あんなにどもっていて、教師という仕事ができるか」と。大学は当然できると返しました。そして、教師という仕事を始めた彼女は、最初の頃、とても苦労したと思いますが、少しずつ慣れてきて、話す際の自分自身のリズムをつかみ、定年近くまで勤めました。このように変化するのです。あのとき、ひどくどもるから、教師という仕事はできないと思って辞めていたら、彼女の人生はどう変わっていたでしょうか。
 親である自分がどもる子どもにしてあげられることは、環境を整えることだと信じて疑わなかったお母さんが、5回連続して参加して、今年初めて息子が、友達と一緒に食事している姿を見て、「変わっていくという視点がなかった。5歳のときにどもりはじめて、いじめられたりからかわれたりしないよう、母親の私が、周りの子から守ってあげたいという気持ちが強かった。子どもの可能性を摘んでいたのかもしれない」と話しました。僕は決して遅くないと思います。5回連続して参加したということの意味の大きさを思います。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/11/19

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