第34回吃音親子サマーキャンプ 2日目
今年の荒神山は、大阪と変わらず、暑い朝でした。荒神山自然の家の朝、以前はもっと涼しかったのに…赤とんぼもにぎやかにとんでいたのに…と懐かしく思い出されます。
朝食は、食堂が閉鎖されたために、おにぎりとサンドイッチとパックの牛乳。比較的近い所にあるスーパーに頼んでおいて、前日の夕方受け取りに行き、冷蔵庫に入れておいたものです。残飯、牛乳のパック、包んであるビニールなど、ゴミの処理が大変ですが、食事担当のスタッフが細かいところまで気を配ってくれていました。食堂があり、食事に気を配らなくてもいいことがどんなにありがたかったかと思います。初日の夕食以外は、このように、スーパーや仕出し屋さん、弁当屋さんのお世話になりました。
2日目のプログラムは、作文教室からスタートしました。ひとひとりが、自分と、自分の吃音と、向き合う時間です。食堂が教室に変わったかのように、原稿用紙を前に、みんな鉛筆を走らせます。苦手な子もいるので、少しお手伝いはしますが、基本的にはひとりで考えて書きます。作文教室と同時並行プログラムは、サマーキャンプ基礎講座です。初参加、2~3回の参加のスタッフが対象です。始まって1日が経ち、体験したことで疑問に思ったことを出してもらい、サマーキャンプが大切にしてきたことを伝えます。スタッフも、それまで自分が吃音についてどうとらえていたか、どもる子どもをどう見ていたか、問われる時間になります。参加者が毎年変わっていく中で、サマーキャンプの文化・伝統が受け継がれていくのは、スタッフが変わらず大切にしていることを受け継いでいてくれるからでしょう。参加者だった子どもたちの中からスタッフとして戻ってきてくれる子たちが増え、今年も、サマキャン卒業生のスタッフは、9名でした。
2日目の午前中に2回目の話し合いがあります。昨日のつづきです。1回目と2回目の話し合いの間に作文の時間があり、このサンドイッチの構成が、話し合いの時間の充実に貢献しているようです。
午後は、子どもたちは劇の練習、保護者は学習会です。今年の劇は、宮沢賢治の「雪わたり」。竹内敏晴さんが脚本・演出してくださったシナリオをもとに、渡辺貴裕さんが構成・演出してくださったものです。竹内さんがお亡くなりになる年の吃音親子サマーキャンプで上演したものです。3つの場面に分け、グループごとに練習しました。目指しているのは、どもらずにせりふを言うことでは決してなく、誰に向かって発しているのか、何を伝えようとしているのかを考えて、せりふを言います。今回の劇にはたくさん歌が使われていて、歌ったり踊ったり、からだを使います。声を出すことの楽しさ、喜びを感じてほしいとの願いで、劇は、サマーキャンプの大事なプログラムです。
「雪わたり」は、軽快なリズムにのり、せりふも言いやすく、子どもたちもノリノリで、自分たちで工夫しながら楽しく取り組みました。
劇の練習の後、子どもたちは、荒神山へのウォークラリーです。若いスタッフを中心に、頂上を目指します。山頂からは眼下に琵琶湖がきれいに見えたと、ウォーラリーに参加した人が言っていました。
その間、保護者は、学習会です。子どもに同行する大人として、学ぶことはたくさんあります。じっくり自分をふりかえり、子どもとの関係をふりかえり、今後の生き方を考えました。出された質問に答える形ですすめました。
夕食後、みんなに学習室に集まってもらい、卒業式その1を行いました。小学2年生から欠かさず参加していた大谷志門君、今年卒業を迎えますが、どうしても最終日に用があって、参加できません。他に4人卒業生がいたのですが、僕たちとしても、ぜひ卒業式をしたいと思い、志門君だけの卒業式を行いました。志門君がサマーキャンプに参加したのは、小学2年生からですが、志門君の家族との出会いは、小学校入学前に遡ります。その頃、大阪市内で開催していた吃音相談会に、岐阜県中津川から両親揃って、参加されたことがきっかけでした。そのときからつきあいが始まりました。コロナ禍で、話すことが極端に減ったとき、志門君は、どもるというより、声そのものが出なくなりました。家族の中でも筆談をするくらいでした。信州が好きでよく旅をする僕たちは、信州に行く途中、中津川に寄ってみました。僕たちとも筆談をしようとします。僕は、できるだけ声を出すようにと、歌を歌うことと、好きな文章を声に出して読むことを毎日続けるよう言いました。そして、ひとつの教材として、歌舞伎俳優の発声練習に使う演目「外郎売」を紹介しました。志門君は毎日、欠かさず練習しました。歌舞伎の演目にあるだけあって、話すときのリズムがすばらしく、そのリズムをからだで覚えた志門君は、普段の生活の中でも、そのリズムを使うようになりました。日本語を話すリズムです。志門君に卒業証書を渡し、志門君のあいさつ、お父さんとお母さんのあいさつと続きました。一言もしゃべれず、筆談していた志門君が、参加者の前で話しています。彼のもつ、まじめで、誠実で、素直で、やり始めたことは最後までやり通すという非認知能力が、彼を助けたのだと思いました。
夜は、子どもたちは劇の練習、保護者はフリートーク。あちこちで話の輪ができていました。
長い2日目が終わりました。夜9時過ぎからのスタッフ会議で一日をふりかえりました。いろんな話が数珠つなぎのように出て、あっという間に時間が過ぎていきます。
いよいよ明日が最終日です。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/09/01




