外在化
1965年、どもる人のセルフヘルプグループを作り、そこに集まった人たちと対話を続けていたのは、当事者研究をしていたことだった、べてるの家の向谷地生良さんと出会い、話をする中で、それは確かなものになっていきました。べてるの家が大事にしていることは、僕たちが大切にしてきたことと同じでした。その向谷地さんを講師として迎えた、2泊3日の吃音ショートコースは、今から14年前のことです。
向谷地さんと偶然に出会った島根県浜田市のレストランには、昨年も島根スタタリングフォーラムの前日に行きました。ここで出会ったんだよなと、あのときのことをなつかしく思い出します。
今日は、「スタタリング・ナウ」2014.7.23 NO.239 より、まず巻頭言を紹介します。
外在化
日本吃音臨床会 会長 伊藤伸二
2012年秋の吃音ショートコース「当事者研究」は、なんと贅沢で、豊かな体験だったことかと、『吃音の当事者研究―どもる人たちがべてるの家と出会った』(金子書房)を読む度に思い出す。
「お忙しい…」などとの表現もできないほどに、数多くの講演会、学習会などで、全国を飛び回っておられる向谷地生良さんが、3日間も私たちと、吃音と、関わって下さり、当事者研究という、これから私たちが吃音に取り組む、ひとつの視点を示して下さった。
悩みや苦労の大きさ、質はちがっても、北海道浦河の「べてるの家」という場で、統合失調症の人たちと向谷地さんが、真剣勝負で向き合ってこられたことが、びんびんと私たちに伝わってきた3日間だった。向谷地さんも、私たちが40年以上も前から、べてるの言う「治らない、治せない」を「吃音を治す努力の否定」の立場で吃音に向き合ってきたことに、とても驚いておられた。
昔から、何か縁があったのだろうと思いたくなることがあった。吃音ショートコースの翌年、島根県の浜田市という小さな市の小さなレストランで、北海道の人間と、大阪の人間がばったり出くわしたのだ。私は、島根県のことばの教室の仲間と毎年行っている島根スタタリングフォーラムの打ち上げを、向谷地さんは、浜田市の刑務所の職員との当事者研究の打ち上げを、衝立を挟んで隣でしていたのだ。
そして、その年、3日間のワークショップの報告の『吃音の当事者研究』(金子書房)が出版されたのだった。その記録は膨大なものになり、1冊の本としてはあまりにもページ数が多くなった。掲載したかったもののいくつかが泣く泣く割愛された。その中に、今回掲載した向谷地さんの「公開面接」があった。私たちの吃音ショートコースのプログラムは予定はあるものの、常に流動的で、講師の方々に予想外のお願いをすることがある。
向谷地さんの本の多くは読んでいたが、断片的に当事者との会話はたくさん紹介されていても、まとまった面接記録は読んだことがない。ふと、向谷地さんが、どのように当事者と面談をしているのか、ぜひ勉強したいと思い、プログラムを変更して、「公開面接」をお願いした。向谷地さんは、快く受けて下さり、相手としての藤岡千恵さんも、突然のことでとまどいながらも、受けて下さった。
公開面接となると、何か計画された、今、ここでのリアルさに欠けるものを、これまで参加した研修会でみることがあったが、今回の公開面接は、それらとは全く違った。真剣に自分の課題に向き合う藤岡さんと、丁寧に話を聞き、自らも語る向谷地さんのやりとり。藤岡さんには、その瞬間瞬間に新たな気づきが生まれ、表情が変わっていく。声の大きさや質、表情、からだの動きは、その場に居合わせた人でないと感じ取れない。それらをまるごと体験した参加者は、喜びと幸せを感じたことだろう。多くの人が、自分の人生を振り返っていたことが後の感想で分かった。
文章だけでこの面接を紹介するには限界がある。しかし、大きな利点もある。その場のことは瞬間的に消えていくが、記録として残ると、何度も読み返すことができる。向谷地さんと藤岡さんの対話を何度も振り返ることができる。私は、何度もこの原稿を読み返しているが、その都度考え、感じることがある。文章として残せて、今回、「スタタリング・ナウ」の読者に紹介できてよかった。
「うつ」から、「うつさん」と表現を変えただけで話が転換していく驚きとおもしろさ。今、千葉、愛知、鹿児島、栃木などの私のことばの教室の仲間は、どもる子どもたちと、このような対話を続けている。吃音に「どきどきさん」などの名前をつけ、キャラクターとしてぬいぐるみをつくり、ナラティヴ・アプローチの外在化の技法を使って子どもと吃音をめぐる対話を続けている。アメリカ言語病理学の、吃音症状に向き合うのと全く違う取り組みが、日本で始まっている。
今年の夏は第3回吃音講習会で、秋は吃音ショートコースで、それぞれ素晴らしい講師を迎えて、ナラティヴ・アプローチに取り組もうとしている。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/01/28

