全国難聴・言語障害教育研究協議会全国大会鹿児島大会《吃音分科会》自分らしく生きる力を育むために~吃音児グループ活動での取り組み~
2013年7月29日~31日、鹿児島市で第42回全国難聴・言語障害教育研究協議会が開催されました。大会記念講演は、ダウン症の娘のことばについて、岩元昭雄さん・綾さん親子による「わが子のことばの育ちを思う」「ことばが生まれるとき」のリレー講演と、「子どもと語る、肯定的物語―吃音を生きて、見えてきたこと―」の演題で、僕が行いました。
講演の後は、「支えること、支えられること」の演題で、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の総括研究員・牧野泰美さんと僕との対談でした。吃音分科会のコーディネーターも僕が行いました。
吃音分科会では、大分県日田市立日隈小学校の今井美保さん・中島好子さんの「吃音の指導から見えてきたもの~子どもたちと保護者に出会った6年間を通して~」、熊本県熊本市立出水小学校の境由香さんの「ぼく、本当はおしゃべり好きなんだ~子どもの思いを生活につなげるために~」、静岡県静岡市立南部小学校の島田泰代さん・望月純子さん・近藤奈緒美さんの「自分らしく生きる力を育むために~吃音児グループ活動での取り組み~」の3本の発表がありました。その中から、僕が当初からかかわっている静岡県親子わくわくキャンプの運営スタッフの島田泰代さんに発表の報告をしていただきました。「スタタリング・ナウ」2014.3.20 NO.235 より。
《第2分科会》 吃音のある子どもの指導
自分らしく生きる力を育むために~吃音児グループ活動での取り組み~
静岡県静岡市立南部小学校通級指導教室 島田泰代
はじめに
ほとんどのお子さんが、「吃音を治したい」とことばの教室を訪れます。吃音の子どもの指導について、どうしたら良いのか手探りで迷いながらの毎日ですが、吃音の症状の軽減については、自分は全く無力であることを、多くの子どもたちとの出会いの中で思い知らされてきました。
それでも、私たちが今回の全難言協・鹿児島大会の吃音分科会の提案をしたのは、私たちの目の前にいる、吃音に向き合う素敵な子どもたちのことを多くの人に知ってほしいと思ったからです。
どもりながら、まったく気にする様子を見せず伸び伸びと生活し自己表現している子どもたちがいる一方で、吃音に関わる体験から悩みを抱え、ことばでの表現に消極的になり、ことばの教室を訪れる子どもたちがいます。私たちのことばの教室では、そんな子どもたちに「吃音にとらわれることなく、自分らしく生きる力をつけていってほしい」と願っています。
ことばの教室は、吃音の症状の改善には無力ですが、同じような体験や悩みをもつ仲間が出会い、どもっていても互いに伝えたいことは最後まで伝え合うという経験を通して、人と関わり合いながら自分を表現していく楽しさを味わうことのできる場であると思います。
私たちは吃音指導の教室の役割をこう考えています。
・吃音についての正しい知識を伝えること
・自分の良さに気づき、自信をもてるようになるための援助をすること
・自分の吃音と向き合い、吃音とのつきあい方を学ぶための場(活動)を提供すること
今回の提案では、吃音と向き合い、吃音とのつき合い方を考え、学ぶために欠かせない活動であると考え、行ってきたグループ活動を紹介します。
グループ活動で大切にしたいこと
グループ活動では、吃音にとらわれることなく、自分らしく生きる力を育むことを願って、仲間と一緒に自分の体験をふりかえって言葉にすること、自分の思いや考えを話すことを通して、それぞれの体験に共感し合い、これからを一緒に考えたりする「語り合い」ができるようになることを目指しています。そのために、次のようなことを大切に指導計画を立ててきました。
○お互いを大切にしあい、本音が言えるような仲間作りをする
○自分の考えをもち根拠を明確にして話す。また、自分と同じ所や違う所などを比べながら聞いたり、話したりするなどの基本的な表現力や対話力を高める
○聞いてほしい、伝えたい、話したいという意欲が持てるような題材・話題の提供をする
具体的に、1時間の活動を計画するときには、仲間作りに関わる活動と、表現・対話に関わる活動の2つの柱を立てて、子どもたちが意欲的に取り組めるよう担当者3人で知恵を絞ってきました。子どもたちにも毎回「相手の話を最後まで聞こう」「友達のいいところを見つけて伝えよう」など、具体的なめあてを伝えてきました。
吃音をテーマにした話し合い
お互いを大切にし合う関係作りや、表現力・対話力を高めるための活動は、在籍学級でも行われています。しかし、少人数での話し合いや、吃音をテーマにした話し合いは、やはり、ことばの教室でなければできないことだと考えます。吃音をテーマにした話し合いの様子を紹介します。
①わくわくキャンプの報告会をしよう
5、6年生の3人は昨年度静岡県親子わくわくキャンプにそろって参加しました。共通の体験ができたことを活かして、キャンプで楽しかったことをふりかえり、報告会をすることにしました。
静岡県親子わくわくキャンプは、伊藤伸二さんが毎年滋賀で開催されている吃音親子サマーキャンプにあこがれて、11年前、静岡のことばの教室の有志が立ち上げた、吃音をもつ子どもとその保護者、関係者のためのキャンプです。毎回ここにいらっしゃる伊藤伸二さんをお招きして、スタッフへの吃音指導についての講義、子どもと語る会や保護者の学習会などで、子どもも保護者も教員も吃音についての理解を深め、それぞれが自分の生き方を振り返る機会にもなっています。
キャンプのスナップ写真を並べ、それぞれに楽しかったことを発表し合いました。発言は、ひとつひとつ付箋に書いて、大きな模造紙の関係するところに貼っていきました。「自分の意見を付箋に書いてもらうのがとてもよかった」という子どもの感想がありました。発言するだけだと忘れてしまいますが、書いて貼ることでお互いの発言したことが残ります。話し合いを振り返りまとめるのに役立つだけでなく、自分の意見を大切にされている感じがするのだと思います。
話し合いのはじめ、子どもたちの感想の中心はカレー作りや花火などのレクレーション活動でした。ところが、次年度のキャンプの宣伝をしようと、わくわくキャンプのポスターの相談を始めたときです。ポスターの写真を選ぶとしたらどの場面がいいかと問いかけると、3人とも迷わず「伊藤さんと語る会」の写真を選びました。また、キャンプの魅力を伝えるためのキャッチフレーズの話し合いからは、『なかまとの出会いがいっぱいあるよ』『自分の話し方に自信がもてるよ』『自分と同じ気持ちをもっている人とたくさん話せるよ』『僕たちの大好きな伊藤伸二さんと話せるよ』の4つが子どもたち自身の言葉として出てきました。
キャンプで吃音をもつ仲間と出会い、語り合い、共感し合えることをとても楽しみにしていることが伝わってきました。「夜の伊藤さんと語る会は人数が多すぎてあまり話すことができなかったので、高学年だけの活動や語る会があってもいいと思う」が、来年のキャンプへの期待としてあがりました。レクレーションは確かに楽しみにしていますが、子どもたちがキャンプに求めているのは、やはり仲間との出会いや吃音についての語り合いであることを改めて感じました。
今回紹介するビデオの話し合いの場面の最後に伊藤さんの魅力を子どもたちがこう語っています。
R「どもることを嫌って思っていないところ」
S「自分自身を全部見せて、世界中の人に吃音について教えているところ」
U「どもるんだけど…、おすしやさんでたまごを注文する話を聞いて、どもっていても言うからそこがいいと思う」
事前に言うことを考えていたわけではない、本当に素直な子どもたちのことばです。伊藤さんには、キャンプの時に1回しか会っていないのに、それぞれが、魅力的だと感じた理由を即座に答えることができたのには驚きました。同じ吃音をもつ先輩である伊藤さんの話に興味をもち、とてもよく聴いていたからだと思います。
②どんなときにどもる? どんな気持ち?
『親、教師、言語聴覚士が使える吃音ワークブック』(解放出版社 伊藤伸二他編著)の「どんなときにどもる」の表を拡大し、それぞれが当てはまると思う欄に自分の名前を書いた付箋を貼っていきました。改めて自分のどもりについて振り返り、吃音の状態・感じ方・考え方は人それぞれであることを知るための活動です。大きな表に全員の名前が貼られたことで、視覚的にも友だちと同じ部分と違う部分をとらえることができました。自分の体験やその時の気持ちにしっかり向き合い、「あっ、やっぱりこっちか…」などつぶやきながら、子どもたちは真剣に自分の名前を表に貼りつけていました。
どもりのことを「気にする」理由にもいろいろあります。友だちだから「どもりたくない」、友だちだから「どもっても平気」など、それぞれに理由や思いがあります。子どもたちの話を聞きながら子どもたち自身が生活の中で、吃音に向き合わざるを得ない場面は、私たちの想像する以上に多いのだと改めて感じました。微妙な表現の違いなどについて意見を聞くことで、担当者も、改めて子どもたちの吃音に対する思いや体験を知ることができました。日を改めて、付箋を貼り直したら、分布が変わっているかもしれません。吃音の状態が変わるようにその思いも変わっていくのだと思います。一度だけでなく、今後も何度かやってみたいと考えています。
また、このグループ活動の後半には、その日、南部小学校で保護者の学習会に来て下さっていた伊藤さんにも参加していただきました。子どもたちにも担当者にも大変有意義な時間となりました。
担当者 けんかするときには、みんな、どもらないとなっているけど、どうして?
S けんかするときは声は出さないし、勢いで一発でのす(たおす)と思う。普段けんかはしないけど自分は強いと思う。
R 怒ってるから。勢いに乗ってるから。
H 勢いで言っちゃうが、けんかは滅多にしない。
担 友だちと話をするときはみんなどもってるよね。そのときの気持ちは『全然気にしない』と『あんまり気にしない』『絶対どもりたくない』と意見が分かれているね。
S 仲の良い子だったら全然気にしない。分かってくれているから。でも、そうでもない子だと…。同じ組だったら知ってくれているとは思うけど、あんまりどもりたくないって思う。
R 難しいなあ…。仲の良い友だちでもちょっと気にすることもある。あんまり何回もどもったりすると気になる…。
U 友だちとの話がおもしろいから、どもることを全然気にしない。
H 絶対どもりたくない。友だちだから、ちゃんと話したいから。
伊藤 どもりながら友だちと話すと、おもしろくないの?
H うん。
伊藤 仲間には入れるのかい?
H うん。「入れて」って言うこともある。入れてくれることの方が多い。
伊藤 どもらないで友だちと話せるようになりたいの? どもらなければ仲良くなれると思うの?
H うん。
伊藤 (自分の子ども時代の体験談を話した後)どもるけど、気にしないでしゃべってるのはかっこいいなって思ってくれる子もいるかもしれない。そういう子と友だちになりたいな。
H うん。
Hさんは、12月のお楽しみ会からグループ活動に参加しています。あまり活動にも慣れていない中、やや緊張した表情でしたが、一生懸命、素直に自分の気持ちを伝える様子に感心しました。この日、子どもたちは、伊藤さんにいただいた名刺を大事そうに抱えて帰って行きました。この話し合いの後Hさんが書いた感想を紹介します。
『今日は、伊藤さんといっしょに勉強して、とてもためになりました。僕は、伊藤さんと話して思ったことは、伊藤さんにみならって、どもることを気にしないようにしたいということです。これからも、どもることを気にしないで、知らない人にも話しかけたいと思いました』
③相談員になろう
伊藤さんとの話し合いの感想で「どもることを気にしないようしたい」と話したHさんのその後です。
Hさんは、本年度4月に正式に入級しました。吃音キャンプにも参加していません。4月の初めての個別指導の時、『吃音ワークブック』を一緒に読みながら、「ことばの教室では吃音は治せない」ことを伝えました。それは分かってくれたのですが、「でも、治したい」とHさんは言いました。そこで、それを同じ仲間のUさんとRさんに相談してみようということになりました。
「相談員になろう」の活動は、それまで、架空の相談者の悩み相談にのるという形で行ってきました。相談者の相談に答えるために、相談者の話をよく聞き、疑問に思ったことを質問して情報を集めます。そのあと、相談員として自分なりの考えをまとめ、相談者に伝えるというものです。
しかし、グループの仲間本人からの直接の相談はこの時が初めてでした。Hさんの相談にのることについて、UさんもRさんも「えっ? ほんとに?」と、少し驚いた表情を見せましたが、真剣に相談に答えてくれました。この日の子どもたちの真剣なやりとりをそのまま紹介します。
H 僕は、友だちと話すときにどもってしまいます。どもりは治らないのでしょうか。どうしたらいいですか。
U 質問してもいいですか? 友だちに悪口を言われたことあるのですか?
H 何回かある。だからどもるのは嫌です。
担 相談員さんもあるの?
R ある。「そういうこと言わないで」とか「ふざけるな。それがどうした?」と言う。
U 僕もある。でも、どもりについて本当に分からなくて聞いてきたんだったら答える。でも、そうでなかったら無視する。
R どもりは治らないかもしれない。だから、気持ちを成長させた方がいい。
担 成長させるってどういうことですか?
R 「みんなの前でどもるのは嫌だ」と、普段から思わないようになること。
担 Rはもう成長できたの?
R いや、僕もまだ成長の途中です。
U どもりを治すとは考えない方がいい。僕も友だちから「どうしてそんなにつっかかるの?」と言われるのは嫌だから、「自分はどもりだ」と先に言う。
R どもるのが自分。どもりを悪い方に考えるのではなく、良い方に考えたらいいと思う。たとえば、本当の友だちができるとか。
友だちからの相談に、一生懸命、最善のアドバイスを考えて語っているUさんとRさんの姿。「僕も」と言うことばから、2人も同じように悩んできているのが伝わります。様々な体験をし、感じ、考え、そして、今があるのだと思いました。「この子たちにはとてもかなわない」と、子どもたちの発言を板書をしながら担当者は感動してしまいました。
この日の3人のふりかえりカードには、次のように書かれていました。
R 「相談員になろう」で、Hさんがどもるのがいやと言っていたけど、僕はそこで止まっていたら先に進めないと思った。なぜならそのことでずっと大人になっても、そのことを思っていて、そんな人生つまんないと思ったからだ。Hさんは、僕たちに相談してよかったと思います。
U Hさんの話を聞いて、僕はどもりを治すことをあきらめると言った。僕も治せるなら治したいけど、治るものじゃないから、あきらめる。
H Rさんが、どもるのを悪い方に考えないで良い方に考えると言った。僕は悪い方に考えないで良い方に考えようと思った。なぜなら、僕は今までどもるのを悪い方に考えていたからだ。
この日の板書とふりかえりカードは、そのまま保護者に見せました。保護者は次のような感想を寄せてくれました。
○まだまだ小さいと思っていたが、こんなことも話せるようになっていたことに驚いた。
○今までキャンプやことばの教室の先生との話や、本で学んだことなのだと思うが、友だちに話すことで、自分のことばになっていったと思う。
○子どもなりにいろいろと考えているのだと、うれしく思う。
話すことで、自分のことばになっていくというのは、本当にその通りだと思いました。
ことばの教室は月に1回か2回程度です。ことばの教室で子どもたちは、吃音をテーマにいろいろな体験や思いを言語化し、その体験をバネにしながら生き方について考えているのだと思います。だからこそ、短い時間だけれども、私たちは子どもたちのことばを大切に丁寧に関わっていかなくては、と思います。
グループで語り合っている子どもたちのことばから、子どもたちの活動を紹介してきました。ことばの教室入級の経緯や、本人、保護者のことばの教室に対するニーズはいろいろです。ですから、いつも同じようにいくとは限りませんが、子ども自身の学びを支援するために、また、子ども自身が自分の思いを自信をもって発信していけるようになるために、ことばの教室では次のようなことを大切にしたいと思っています。
◇子ども同士が学び会える出会いや関係作り
子どもたち同士だけでなく、いろいろな場で活躍する先輩、大人との出会いや関係をつくること
◇子どもたちの語ることばの価値づけ
「あなたたちの語ることばにとても感動している、もっと聞きたい。一緒に考えたい」という思いを伝えること
◇子どもたちのことばから大人が学ぶ気持ち
吃音に関わる様々な体験をした当事者の子どもたちのことばから、自分たちにできることは何かを担当者自身が学ぼうとする気持ちをもつこと
◇子どもたちのもつ魅力の発信
在籍学級、まわりの大人に、吃音についての理解を促すと共に、子どもたちの魅力を発信していくこと
吃音の悩みは成長とともに変化していくと思いますが、ことばの教室を退級、卒業しても、幸せを願い、共に悩み考えたいという仲間や応援している大人がいることをこれからも伝え続けていきたいと考えています。
子どもたちからは本当にたくさんのことを学ばせていただきました。これからもRさんのことばのように、私たち自身も一緒に成長していきたいと思っています。ご静聴ありがとうございました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/01/02

