千葉吃音三昧の日 二日目 千葉吃音学習会&相談会
ことばの教室訪問の翌日は、千葉県教育会館で、千葉吃音学習会&相談会でした。ずうっと前は、この時期、横浜で吃音相談会を開いていましたが、お世話してくださる方が亡くなり、その後、千葉で開くようになりました。少人数で、じっくり話し合う時間になっています。僕は、このスタイルが一番好きで、一番自分に合っていると思っています。
12月6日(土)、この日、第7回の千葉県吃音学習会&相談会がありました。どもる子どもの保護者、ことばの教室の担当者が対象ですが、今回は、その場に、高校生とその保護者が参加しました。その子との出会いは、7、8年前になります。ちばキャンプに参加していた子です。高校3年生になっていて、久しぶりに会いたいと顔を見せてくれました。この長いつきあいに感謝です。
いつものように、簡単に自己紹介をしてもらって、順番に質問を出してもらいました。事前に考えてもらっていたものだけでなく、関連して浮かんできた質問も加えて、進んでいきました。その中に、こんな質問が、ことばの教室担当者からありました。担当している子どもの話です。
「友だちとの会話は、テンポが早く、すぐに話題が移ってしまう。ふと浮かんだことを言いたいけれど、言えなくて、悔しい思いをしている。吃音の事は、ことばの教室で勉強してきて、治らないことも分かっている。でも、相手が友だち同士だと、待ってくれない。おいてけぼりになってしまう。悔しい」。子どもから、こんな訴えを聞いたけれど、私はそうか、悔しかったねと共感するだけで、終わってしまっていた。どうしたらよかったか、どう展開したらよかったか、という質問でした。
どもる人の悩みは、大事なときに大事な発表ができないということももちろんありますが、案外、このような悩みも少なくないのです。ちょっとしたことが言えない悩みといえるかもしれません。
こんな悩みを聞いたとき、担当者として、どう答えたらいいのだろうか、何て声をかけたらいいだろうか。正解はないでしょうが、みんなで、いろいろ考えました。
・言えるときもあるんだから、いつもじゃないよね。
・言えるときと今回と、何が違うのだろうか、考えてみようか。
・後で、友だちに、こう言いたかったんだと伝えてみたら。
・そのときのやりとりをじっくり聞かせて。これからの対策を考えよう。
一連の話を聞きながら、僕は、大阪教育大学の村井潤一教授を思い出しました。村井先生は、どもる人たちの苦手なこととして、「サロン的言語」がうまくいかないことではないか、と指摘しました。「サロン的言語」について、村井先生は次のように言います。
言語とはコミュニケーションの道具だとか、思考を高めるための道具だとか言われるけれど、私たちが日常生活でことばを話すときは、いつも高級な、どうしても伝えなければならない話ばかりしているわけではない。かなりの部分は、どうでもいいことを話している。どうでもいいような話を通じて、お互いの親密な関係ができたり、重要な主題に入るための前ぶれになったりする。こういう、どうでもいいような話を「サロン的言語」という。どもる人が困っているのは、この「サロン的言語」がうまくいかないことではないか。どうしても言わなければならないことなら紙に書くとか代わりに言ってもらうとか工夫をするだろう。どうでもいいことを話す、会話を楽しむときに、そんな工夫や方法は意味がない。
「サロン的言語」を楽しむための解決方法は、難しいです。うまくいかないからといって、そのような場に出ていかないと、ますます言えなくなるでしょう。場に出ることから始めようと、村井先生は提案します。
また、僕は、鴻上尚史さんの話も思い出しました。イギリス留学のときのことです。昼休み、中庭でお昼ご飯を食べるとき、鴻上さんは、話が盛り上がり、複雑になる前、ランチが始まったときに一言「いい天気だねえ。このサンドイッチはうまいねえ」と声を出していたそうです。後はもくもくと食べることに専念しても、最初に声を出しているので、みんなからは仲間と認識されていたとのことでした。
僕なら、「タイミングよく話すことは、あきらめな。いいやんか、タイミングよく話せなくても。本当に言いたいことは大切にする。場を盛り上げなくていい。その場にいるだけでいい」と言いたいなあと思います。そういう輪の中に入れない存在のあり方を認めたいのです。
そして、続けます。「言えなくて悔しいと思うのを、言えなくて残念に変えられないだろうか。悔しいと残念、似ているけれど、違う。残念くらいにしておこう」こんな提案を受け入れてくれるかどうか、分かりませんが、瞬間瞬間に起こっていくる悔しさと、どう向き合うか。正解はないけれど、先生は一緒に考えてくれているんだということは伝えたいものです。
そのほか、息を吸う習慣のある子どもの話や、一緒に音読しているが何かいい教材はないかの話や、いろいろ出ました。中身の濃い午前中の時間が過ぎていきました。(つづく)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/12/13



