静岡県親子わくわくキャンプ10年の歩み

 今、第34回吃音親子サマーキャンプの準備の真っ最中です。
 僕は、これまで、この滋賀県での吃音親子サマーキャンプの他に、島根、静岡、岡山、沖縄、群馬、千葉などでの吃音キャンプに参加していました。それぞれのことばの教室担当者の有志が中心になって、伊藤伸二を講師にして、吃音キャンプを企画・運営してくれていました。秋は、毎週のようにキャンプに出かけていっていたときもありました。その人たちが異動になったり退職したりして、開催が難しくなったところもありました。コロナ騒動で中止になり、そのまま開催が難しくなったところもありました。それぞれに、どもる子どものためにと、一所懸命に準備する人たちに囲まれて、僕が一番うれしく、楽しんでいたように思います。
 今日は、静岡のキャンプの様子を紹介します。「スタタリング・ナウ」2012.8.22 NO.216 に、静岡県親子わくわくキャンプ10年の歩みについての報告が掲載されています。海野さんも島田さんも、退職されました。お世話になったなあと、なつかしく思い出します。

  静岡県親子わくわくキャンプ10年の歩み
           静岡県親子わくわくキャンプ事務局 海野智子 島田泰代

はじめに

 2001年秋頃だったでしょうか。当時ことばの教室の担当をしていた私たちが雑談をしていた時「どもる子どものためのキャンプをやりたいね」という話題になりました。
 「それなら講師は伊藤伸二さんしかいないよね」ということになり、すぐに伊藤さんに電話をしたところ、伊藤さんはキャンプの講師を快く引き受けてくださいました。
 2002年9月、第1回静岡県親子わくわくキャンプを開催してから、以後10年間もキャンプが継続することになろうとは、当時は夢にも思いませんでした。
 以下に10年間のキャンプの歩みをまとめました。

1 活動内容
(1)活動をはじめた目的
 2002年、県内のことばの教室担当者の有志が世話人となり「吃音に悩む子どもたちが、仲間と楽しく活動することを通して、自分と向き合い、自分らしく生きる力を身につける」という目的で『静岡県親子わくわくキャンプ』(以下、キャンプと記す)を始めた。講師には、毎年日本吃音臨床研究会代表の伊藤伸二さんを招聘している。

(2)参加者
 県内のことばの教室に通っている、どもる子どもたち(退級した子どもも含む)とその兄弟姉妹、父母が参加している。例年県下各地から約20家族、50名程度の親子が参加し、10年間合計参加家族数は114組、その内37組が複数回(2~7回)の参加だった。
幼児から高校生までの子どもたちが集まるが、小学校1~4年生が7割を占める。スタッフは、県内のことばの教室担当者や医療・療育機関の言語聴覚士に呼びかけ、毎年無報酬で30名程度のスタッフが自主参加する。また、県内唯一の言語聴覚士養成コースがある聖隷クリストファー大学の学生が毎年ボランティアとして参加している。

(3)活動場所
 10回のうち8回は、静岡市清水区三保の東海大学三保研修館で行った。館内には子どもたちがのびのび活動できる大広間や、親が講師とじっくり話し合える会議室があり、宿泊施設も完備されている。三保の海岸が間近にあるので、館外での自然を利用した活動もいろいろ楽しめる。研修館の職員の方々の子どもたちを見っめる温かなまなざしが印象的な施設である。

(4)日程と活動内容
 2011年度第10回キャンプは次のような日程で行った。
〈1日目〉
午前 指導者のための吃音講習会
午後 ・出会いの会
   ・子どもの活動(集団遊び、おやつ、歌、自由遊び)
   ・親の活動(学習会)
夜  ・子どもの活動(吃音カルタ大会、伊藤さんと吃音を語る会)
   ・親の活動(先輩保護者の話を聞く会)
〈2日目〉
午前 ・朝の集い
   ・親子の活動(地引網体験)
   ・終わりの会

 限られた人数のスタッフが短期間で準備するキャンプなので、親子の活動には地域資源の活用を図っている。昨年度の「地引網体験」は地元の漁師さんに依頼した。過去には、ホンダ技研の「ダンボールASIMOの製作」、清水海洋活動センターの「小石のアート」、東海大学海洋科学博物館の「夜の水族館探検」、東海大学自然史博物館の「ナイトミュージアム」、静岡科学館の「科学体験教室」などが参加者に好評だった。

2 活動の成果
(1)子どもにとってのキャンプ
①仲間がいることを実感できる
 自分の吃音に悩み、からかいやいじめに傷ついた経験のある子どもたちは、県内各地から集まってきた同じ思いの仲間とすぐにうち解けて仲良しになり、二日間の活動を思う存分楽しむ中で「自分には仲間がいる」ということを実感していく。帰り際に肩を抱き合って写真を撮ったり、「来年もまた会おうね」と再会を約束したりしている子ども同士の姿を毎年見ることができる。手紙を交換して宝物にしている子どももいるそうだ。毎年、継続して参加している親子と初めて参加した親子がほどよく混じり合い交流できることが、仲間づくりによい効果をもたらしている。

〈感想〉
・ぼくは友だちがいっぱいできました。でもきょうでおわかれです…。来年も、みんなにあいたいな。(2年男子)
・ぼくは、はじめて友だちとあったとき、この子は友だちになれるなと思いました。そのよそうがあたっていてよかったと思います。楽しかったです。(3年男子)
・友だちができてうれしいです。またさんかしたいです。(2年男子)

②吃音と向き合うことができる
 キャンプでは、子どもたちが吃音と向き合う時間として「伊藤さんと吃音を語る会」という時間を毎年設定している。しかし、キャンプ開始後数年は講師と子どもの話し合いが成立しなかった。部屋の中を走り回って講師のそばに寄ってこない子ども、吃音の話を向けても乗ってこない子ども、わざとふざけたことを言い続ける子ども、講師の吃音を笑う子ども…。もちろん吃音について話をしたい子もいたと思うのだが、「吃音を話題にしたくない、吃音に触れたくない」という空気が全体に流れているようだった。したがってキャンプ開始当時は、毎年この話し合いをどのように持つかがスタッフの課題であった。
 しかし、年々この話し合いの様子が変わっていった。リピーターの子どもたちが、吃音を語り合うことの面白さ、どもる仲間同士だから分かり合える心地よさに次第に気づき、進んで吃音について話すようになっていったのである。新しく参加した子たちは、その姿を見て自然に吃音について話をするようになった。中には一言も言葉を発しない子もいるのだが、じっと講師やみんなの話を聞いている。どもりながら悩みを話す友だちの言葉をみな真剣に聞き、真剣に考え、真剣に意見を言い合いながらも、話し合いは終始和やかな笑いに包まれている。
 ある回に立ち会った大学生が「深刻な話題のはずなのに、どうしてこんなにみんな明るく話ができるのだろう」と驚いていた。講師が関西弁でご自身の体験をオープンに話してくださったり、率直なアドバイスをしてくださったりしていることが、この和やかで明るい雰囲気を作り出しているのだろう。「伊藤さんが子どもたちの心の中にスーっと入っていき、子どもたちの心がスーッと溶けていくのがわかった」というスタッフの感想からも講師と子どもたちの関係性の深さがわかる。話し合いを通して、子どもたち自身が、吃音を「触れたくないもの」から「向き合うことで自分の生きやすさにつながるもの」へと変容させていったことが、この話し合いの最大の成果と言える。

〈感想〉
・いとうさんや友だちからどもりのことがいっぱいきけて、どうすればいいかわかった。(3年男子)
・いとうさんと話す会で、心の思いを心の中から出せました。今日は一番楽しい一日になりました。担任の先生にも言いたくなりました。(3年女子)
・いとうさんはお母さんが言っていないことを言っていて、ぼくは思っていることが口に出ました。(3年男子)
・わたし以外にもたくさんどもってなやんでいる人がいたから、わたしも安心しました。これからは、どもってもいいからたくさん友達と話したいと思いました。(5年女子)
・今日の話し合いでは参考になることがたくさんあった。今日のことや父もどもりなので意見を聞いたりして今後も上手にどもりとつき合っていきたい。(中1男子)

(2)保護者にとってのキャンプ
 「なんとかして吃音を治したい」「吃音になったのは自分の育て方が悪かったのではないか」と悩んでいる親も、学習会での講師の話や親同士の懇談を通して我が子の吃音を前向きに受け止め、子育てをふり返り、見直すことができるようになっていく。
 キャンプは、一方的に親の願いを子どもに押し付けるのではなく、子どもの思いを大切にしながら子育てをしていこうという思いを抱くことができる場になっている。初回参加時に子どもの吃音のことを語りながら涙していた親が、何年かあとになって初参加の親の相談に乗っている姿を見ると、継続参加の効果を実感する。

〈感想〉
・子どもにとっても親にとっても本当によかった。自分と同じ人がいると思えただけでも一歩前進。同じ悩みをもつ方のお話を聞いて、心が軽くなった。
・先輩のお母さんの体験談を聞いて参考になった。「迷ったら弱音を吐いていいんだ」と思い、ホッとした。
・伊藤さんの人生を聞いて、子どもの力を信じることが大切だと感じた。
・吃音は持って生まれた宿命だと思う。人として自立して生きていけるようになるために、吃音とどう向き合っていくかを子どもと一緒に学んでいくことが親の役目だと思う。
・子どもにとって「学校」は毎日戦場だ。その中で生きている子どもたちを、せめて家では放っておきつつ見守っていれば、必ず道は開けるだろうと思った。
・子どもの成長を共に見守ってくれている先生がいること、同じ悩みを抱えている方に会って話せることはとても心強いと思った。

(3)スタッフにとってのキャンプ
 キャンプのスタートは午後からなので、午前中はスタッフのための学習会やワークショップを行っている。一昨年は「どもる子どものための日本語のレッスン」を体験した。体をほぐし、日本語の発音発声の基本を学び、童謡、唱歌を歌うなど、伊藤さんが故竹内敏晴さんから長年学んできたことを静岡のスタッフにも伝達してくださった。昨年は「映画『英国王のスピーチ』から学ぶ、どもる子どもの吃音臨床」と題して、セラピストとクライアントの対等性、誰もが持っている劣等感、弱音を吐けることの大切さなどを学んだ。職歴30年以上の者にとっても、これから臨床家を目指す学生ボランティアたちにとっても、大変示唆に富む内容で一人ひとりの心に響くものであった。
 スタッフにとって、子どもや親や他のスタッフと過ごす2日間は、どもる子どもやその親の気持ちを深く知り、吃音指導についての専門性を高め、スタッフ同士の交流を図る場であることは間違いないのだが、それと共に、スタッフも「吃音」を通して自分自身を見つめる場にもなっていることが、以下の感想からわかる。

〈感想〉
・伊藤さんの話を聞き、教師としてだけではなく、人として大切なことを教えていただいたと思う。自分も周りの人そして自分自身に誠実に向き合っていきたい。悩んでしまうのも悪くはないな…と前向きに頑張りたい。
・吃音について学習することで、自分自身の生き方が変わった。
・子どもの安心した顔、成長した姿、大人が一生懸命なところなど、困っている人、どもる子というより、自分も含めて人として「みんな平等に生きているのだな~」と実感できることがとても心地よく、意義深い。
・毎年「吃音」を自分自身の課題に置き換えて、伊藤さんの話や子どもの話を聞いている。時には子どもの真摯な思いに圧倒されることもあり、子どもの姿から学ぶものは大きい。

3 これからのキャンプ
 10回目のキャンプが終了して4か月後、再びスタッフが集まってll年目からのキャンプの方向性を話し合った。吃音を語る会、保護者やスタッフの学習会の継続が確認され、そして、どもっていても話すことを回避しない、自分の話し方に向き合う努力をする、みんなの前で表現する楽しさを知ることなどを子どもに経験してほしいという願いから、「子どもたちが表現する力を身につける活動を取り入れたい」という希望が出された。そこで今年度からは、気持ちや体をほぐしながら声を出すレッスンや、音読や劇などのことばを使った表現活動をプロの方にお願いして指導してもらうことになった。
 伊藤さんが折に触れて参加者に伝えている言葉として、「あなたは一人ではない」「あなたには力がある」「あなたはあなたのままでいい」という3つのメッセージがある。これまでのキャンプでは、「自分は一人ではない。同じ思いをもつ仲間がいる」いうことを学んだ10年間だった。これからのキャンプでは、さまざまな表現活動を通して「自分には力がある」ということも実感していってほしい。そして吃音がある自分を肯定的に受け止め、「吃音のある自分はOK」と思える人間に子どもたちが成長していけるよう、スタッフもまた自分自身と向き合いながら、子どもたちとその家族と共にキャンプを創っていきたいと思う。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/08/05

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