第25回島根スタタリングフォーラム 1日目 4年ぶりのフルバージョン開催~保護者との濃密な対話の時間~

 第25回島根スタタリングフォーラムに参加するため、前日の10月20日に島根入りをしました。昨年は1日だけ、一昨年は僕は自宅にいてZOOM参加、その前はコロナで中止。今年は、2019年以来、4年ぶりの1泊2日のフルバージョンのフォーラムです。
 浜田駅前のホテルにチェックインして、そのホテルの真向かいにあるレストランを予約しました。店の名前は、ケンボロー。豚肉がとてもおいしいお店です。このケンボローは、べてるの家の向谷地生良さんとばったり会った思い出深い店です。北海道の向谷地さんと大阪の僕が、浜田の小さいレストランで偶然出会うという不思議なことが起こったところでした。ここへ来ると、いつもそのことを思い出します。
 
 10月21日、会場である島根県立少年自然の家に向かいました。前日は、時折雨も混じる天気だったのですが、初日はきれいな青空になっていました。会場に着くと、事務局の森川和宜さん、受付には藤川さん、何年か前、ホテルまでの送迎をしてくれた伊津さん、小学生のときから参加していて今は青年スタッフになっている稲垣君など、顔見知りのスタッフが迎えてくれました。前の事務局の佐々本さん、どうしても予定が入っているので参加できないけれど顔だけ見たいと、地元のおいしい水を持って、立ち寄ってくれました。初めて参加するというスタッフが多いのですが、温かい雰囲気が以前と変わらず、僕を迎えてくれました。故郷に帰ってきたような安心感が広がりました。

 10時30分、フォーラムが始まりました。出会いの広場は、流水さん。ポンポンポンと軽快な手拍子をもとに、参加者の気持ちをリラックスさせていきます。そのよどみない的確な指示で、みんな、魔法にかかったように、いつの間にか、笑顔になっていきました。
 昼食の後は、90分、どもる子ども、その保護者、スタッフのことばの教室の教員の参加者全員を前に、僕が話をすることになっていました。対象がこれだけ幅広いと話が絞れず、難しい展開になりそうだったので、急遽、お願いして、ことばの教室の担当者に前に出てもらい、僕とやりとりをしながら、参加者もまきこんでいこうということに変更してもらいました。「夫婦漫才でいいなら、しますよ」と言ってくれた伊津さんに感謝です。事前に出してもらった質問や、その日に出してもらった質問に答えていきましたが、伊津さんと少しやりとりをするので、立体的になったようです。
 たとえば、こんな話題が出ました。

○全校生徒に、自分の吃音のことを先生から話してもらった。だから、みんなは、ぼくの吃音のことを知っているはずなのに、忘れるのかわざとなのかは分からないが、「なんで、そんな話し方なん?」と聞いてくる。そういうことがあると、イライラするし、悲しくなるし、嫌になる。
 伊津さんは、全校のみんなに話したと言うけれど、聞いている方は、自分ごととして聞いていないんじゃないか、と言います。僕も、全校生徒に分かってもらうのは無理だと思ってほしいとまず言いました。分かってもらえないというのが前提です。からかわれたり、笑われたり、いやな思いをした、そのとき、その場で、目の前の相手に伝えるしかないと思います。そして、からかわれたときの選択肢として、その場から立ち去るというのもアリだと知っておいてほしいと思います。立ち向かうことも大事だけれど、逃げることも大事なのです。
 これに似た話題は、今年の鹿児島県の大会後の吃音交流会でも、吃音親子サマーキャンプでも、ちばキャンプでも出ました。永遠のテーマだろうと思います。僕は、自分の経験を話し、広く吃音を理解して欲しいという前に、目の前の身近な人に自分のことばで吃音をどう理解して欲しいかを伝えていくことをすすめました。そして、からかってくる子どもはどんな子どもなのかを研究しようと勧めます。からかってくる子どもに目を向けると、子どもたちからは、意地悪な子ども、周りからも嫌われている子ども、イライラしている子どもなどいろいろと出てきます。「残念な子ども」と言った子がいました。では、その、からかってくる残念な子どもに対しては、しっかりとその相手を見て「あなたは残念な人ですねえ」と言ってみたらどうかなあと提案した、鹿児島市のことばの教室でウケた話をしました。過去と他人は変えられません。自分の受け止め方を変えるしかないのです。

○話しにくくて恥ずかしい。ことばにつまらずに話したい。
 残念ながら、吃音の原因も分からないし、治療法もありません。おそらく、今後、研究がすすんだとしても、どもる人全員に有効な治療法はみつからないでしょう。恥ずかしい気持ちを恥ずかしくないように変えるのは無理です。その気持ちを克服するのは無理です。恥ずかしいという気持ちは持っていていいのです。大切なことは、恥ずかしくても発表することです。どもる人は、どもりながら、しゃべっていくしかありません。
 その他、流れ星を見て願い事をしたことがあるか、吃音がなかったらどんな人生だろうか、吃音のある人でオレ以上だと思う人はいるかなど、ユニークな質問もありました。
 ひとつひとつ丁寧に話していきました。伊津さんがそばにいて、合いの手を入れてくれるので、落ち着いてゆったりとすすめることができました。全員参加の90分間、最初のプログラムを無事終えることができました。心配していましたが、とてもいいスタートが切れました。  
 この後は、保護者と子どもは別プログラムです。
 僕と保護者が3時間、対話するプログラムが始まりました。初めに、さきほどの1時間半の話を聞いた感想を聞かせてもらいました。感想を聞いて、また僕がレスボンスをしていくので、ゆったりとした時間の流れの中で、僕は、たくさんのことを考え、思い出し、話しました。きっと、参加された保護者も同じだったろうと思います。
 島根のフォーラムでは、僕と保護者の時間として、3時間が2回の計6時間と、振り返りの90分と、長くとってあるので、急がず、ゆったりとすすめることができます。参加者も、初参加の人が多く、フレッシュなメンバーで、なんだか僕も、新鮮な気持ちになり、わくわくしながら、話を聞き、しゃべるという、対話の醍醐味を味わっていました。

・会話をしていてどもったとき、予想できることは代わりに言っていいのか、待った方がいいのか。
・今、6歳で、自分の吃音に気づいているのかどうか、分からない。気づくまで待っていたらいいのか。
・通級教室が整っていない所に引っ越すことになっている。親としてできることはあるか。
・予防としてワクチンの話が出たが、ワクチンをうつタイミングはあるか。
・幼児期は、何を大切にしたらいいか。

 一つ一つの質問に対して、いろいろな角度から答えていると、本当に長くなります。これまでに学んできたこと、出会ってきたどもる子どもやどもる人の体験、それらがひょいひょいと顔を出してくるので、たくさん話してしまいます。
 3時間があっという間に終わり、夕食。その後、ケーキを食べながらおしゃべりをしようという会、そして、夜8時から、子どもや保護者は、キャンドルの集いをしましたが、僕は、このフォーラムへの参加回数が1、2回の人たちから質問を受けることになっていました。45分間の授業の組み立て方、声を出すレッスンのこと、幼児に対する指導で大切にしたいこと、吃音に気づいていない子への取り組み方、子どもの吃音の波に一喜一憂する保護者への対応、など途切れることなく質問を出してくれました。僕の頭が、フル回転しているのが分かります。予定の時間をはるかに超えて、刺激的で、知的な興奮を起こさせてくれた、いい時間を過ごしました。随分と話し続けたことになります。
 僕の話を真剣に聞いてくれる人たちがいる、幸せな気持ちで、島根スタタリングフォーラム一日目を終えました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/24

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