第5回 ちば吃音親子キャンプ           流れていたのは、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》

 9月30日(土)、千葉市立少年自然の家に、千葉県下から、どもる子ども、その保護者、そしてことばの教室の担当者が集まってきました。第5回目となるちばキャンプ、今年は、初参加者が多いということを聞いていたので、新鮮でわくわくしていました。
 はじめの会の後は、出会いの広場。緊張している参加者の気持ちがほぐれていくのが分かりました。動きの少ないエクササイズから始まり、だんだん声を出していくものになっていきます。ドレミの歌の「ドは○○のド」「レは○○のレ」など、○○の中に入ることばをグループで考えて、最後、みんなで合わせてみました。歌うときに立ったり座ったりしたので、立体感のあるものになりました。「好きな季節は、春夏秋冬のうちどれ?」などの好きな4つの窓に分かれて集まっての話し合いは、互いのことを知るいいきっかけになったようです。進行してくれるスタッフのやわらかい語り口が、安心感と一体感をもたらせてくれました。
 その後は、子どもは吃音カルタを作り、保護者は学習会です。僕は、学習会を担当しました。話そうと決めていたことはあるのですが、まずはひとりひとりの質問に答えることにしようと思いました。これが知りたかった、これを聞きたかった、という思いに丁寧に応えたいと思うからです。初めての人が多かったので、前段に、僕は自分の体験を話しました。小学校2年生の秋の学芸会でせりふのない役しかもらえなかったことから悩み始めたこと、治ることばかり考え、どもりが治らないと自分の人生みは始まらないと思い詰めていたこと、治すために行った東京正生学院でどもりは治らなかったけれど、その合宿生活でどもれない身体からどもれる身体になれたこと、今、吃音と上手につきあい豊かに幸せに生きていること、そしてそのことを子どもたちや保護者に伝えたいと思い、発信していること、それらを話して、今、一番伝えたいメッセージは、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》だとしめくくりました。

・治らないと聞いたけれど、本当だろうか。
・子どもは、気にしていない、困っていないと言うが、吃音から目をそらしているように思えるのだが…。
・からかわれたとき、どうしたらいいか。親として何ができるか。
・職業の選択肢が狭くなるのではと不安があるが、実際はどうだろう。
・子どもが、クラスの子どもに伝えるとき、どういうふうに伝えたらいいか。
・苦労したエピソードを教えてほしい。
・どもり方に変化はあるか。

 いつものように、僕は、ひとつの質問に対して、自分の体験はもちろん、これまで出会った多くのどもる人やどもる子どもの顔を思い浮かべながら、実在する具体的な話をして答えていきました。話がふくらみ、広がり、長くなるのですが、これは必要なことだと思います。たくさんのエピソードを話す中で、保護者が、どもる子どもに対して、《あなたはあなたのままでいい あなたはひとりではない あなたには力がある》を実感してくださったらうれしいです。
 残り40分くらいで休憩をとり、それから、まとめの話をしたのですが、午後2時20分から5時20分過ぎまで、たっぷりと話しました。それでも足りないくらいでした。
 食事は、食堂でバイキング形式です。
 夜は、6時30分から、参加者全員が集まって、オープンダイアローグのフィッシュボウルを取り入れた話し合いです。内側に椅子を5脚、外側に残りの人が座ります。話したいこと、僕に聞きたいことがある人は、内側に座ります。周りの外側の人は、しっかり聞き、その場を支えます。「誰か、ここに座りませんか」と内側を指して声をかけると、さっと、子どもたちが出てきました。僕と話をしたい、そのためにこのキャンプに来たんだという子がいました。こんなうれしいことはありません。子どもたちにとっては、吃音はなぜ出るのだろう、どこで作られてどこから出てくるのだろう、というのが大きな疑問のようでした。これには、「分からない」と答えるしかありません。不思議に思う気持ちはよく分かります。でも、世の中には分からないこと、不思議なこと、解明されていないこと、原因が分からないことは、山ほどあります。吃音も、そのひとつだということではないでしょうか。
 内側の椅子は、入れ替わりがあり、保護者やスタッフも入ってきて、いろんな話をしました。ずっと内側に座っていた子どももいましたが。
 昨年の第9回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会で、初めてこの手法を取り入れてみました。そのときも、果たしてうまくいくかどうか分からなかったのですが、予想以上に話が深まりました。でも、それは大人だったからできたことで、子どもの場合はどうだろうと思っていました。昨年のちばキャンで試しに取り入れてみて、手応えを感じたので、今年もスタッフがプログラムに入れていました。子どもだから無理かもしれないと思ったこと、失礼なことでした。子どもたちも、しっかりと考え、発言しています。年齢に関係なく、しっかり考えることができれば、充分に取り組めるものだと思いました。吃音は、これだけのことを考えさせてくれるテーマです。そして、これは、ちばキャンの名物プログラムになりそうです。
 こうして一日目が終わりました。にぎやかだった子どもたちの声も、だんだん聞こえなくなりました。吃音が縁で集まった参加者たち、それぞれがいろんなことを思いながら、夜が更けていきました。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/08

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