「吃音の夏」第二弾 第10回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会~参加しての感想~吃音親子サマーキャンプの前日に

 明日からは、いよいよ第32回吃音親子サマーキャンプです。今年のキャンプは、初参加者が多く、フレッシュなキャンプになりそうです。きっと、今頃、不安と期待が入り交じった複雑な思いで、準備されていることでしょう。鹿児島県から初めて参加する親子は、今日は京都に前泊すると聞いています。私たちスタッフも、初めて参加される方、遠くから参加される方の思いを想像しながら、明日の出会いを楽しみに、最後の準備をしています。
 キャンプが始まってしまうと、ブログの更新はできないと思いますので、しばらくお休みします。サマーキャンプの前日の今日は、これまで報告してきた第10回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会の感想を紹介します。
 初めは、講習会の主催者である、吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会の事務局長の渡邉さんの報告、そしてその後に参加者ふたりの感想を紹介します。

 吃音講習会は、全国難聴・言語障害教育研究協議会の全国大会で発表した安田さんの提案でスタートしたので、子どもと安田さんが対話しているビデオを観て、やはり吃音について「対話」するっていいなと思ました。伊藤伸二さんの基調提案では、安田さんが健康生成論をことばの教室の実践にいかしている提案を解説しながら「対話」の大切さを丁寧に話してくれました。どもることを否定しないが、言語訓練も大切だとする、一貫性のないかかわりが危険であることを参加したことばの教室の担当者や言語聴覚士の方々にわかってもらえたと感じます。
 大阪吃音教室のみなさんが、普段の例会の様子を再現してくれました。内容は、吃音チェックリストでセルフチェックを話し合うことでした。〈自分のことを語る、相手の語りを聞く〉を私たちはみることができました。どもることだけでなく、私たちが子どもを全体的にみることや相手の話を聞いて、真剣に考え、知りたいと質問していくことが「対話」になっていると思いました。語っている人が語りたくなるような雰囲気がとても伝わってきました。私も大阪吃音教室に一度は参加してみたいと思っていますが、ここで一コマですが再現してもらって、うれしかったです。そのあともグループの話し合いや休憩時間などで、どもる人の考えや思いを聞くことができて本当によかったです。
 講習会以外では、このようにどもる人本人と一緒に研修をする経験がないので、とてもよかったと参加者が感想に書いていました。これからも、大阪吃音教室のみなさんに参加してもらいたいなと思っています。

 次の日は、牧野さんの基調提案からスタートしました。一日目の様子をふまえて、やわらかい雰囲気で話してくれました。私は最近、今回のテーマである「幸せ」について考えるようになりましたが、牧野さんはずっと前から「ハピネス!」と発信していました。幸せをベースに「どもる子どもの生きるかたちを支えるために」について話してくれました。子どものありのままを受け止め、暮らしの中での子どもの思いを知ることが大事ではないか、どもることだけが課題だと大人が勝手に考えてしまわないように大人のかかわりについて、たくさんのことを話してくれました。子どもの幸せという意味で将来を一緒に考えていくことが大事であると実感しました。
 その後、実際に教材を工夫してつくり実践をしている四人のことばの教室の担当者が、「言語関係図」「吃音かるた」「吃音チェックリスト」など、ことばの教室で子どもと取り組んでいることを紹介しました。「言語関係図」や「吃音かるた」など、同じテーマでも違う教材を制作し、それぞれの工夫がある実践を紹介できたと思います。参加者が自分が取り組むときにどう活用しようかと思って実践してくれたらいいなと思いました。
 2日間もあると思った吃音講習会もあっという間にふりかえりの時間になりました。みんなで輪になって一言ずつ話しました。2日間で印象的だったことや考えたことなど、参加者のことばでふりかえることができました。多かったことは、安田さんが実際に子どもと対話をしている様子がビデオで見れたこと、大阪吃音教室の実際の対話をみることができたことでした。実際のことが伝わってよかったなと思いますし、それをどんな意味があるのかを伊藤さんや牧野さんの話でよりわかり、参加者が意見を交換できた、いい講習会だったと思いました。
 来年は千葉市で行います。来年もたくさんの方々が集まっていい時間を過ごせる講習会にしたいなと思っています。以上、報告でした。

 
 安田さんのことばの教室の実践発表はもちろん、教材の紹介の中で皆さんが紹介されていた事例の一つ一つに、一人の人間として子どもを信頼し、子どもと対等な立場で共に取り組むということが徹底されており、温かい思いが満ちていた2日間でした。子ども達のことを思うと、自分のことのように嬉しいです。
 ことばの教室の担当者が、それぞれの実践での、子どものエピソードを紹介しているときの、皆さんの柔らかい笑顔が印象的でした。
 安田さんの担当しているB君のように、「軽い気持ち」「重い気持ち」などと自分の気持ちを表現できる子どもにとって、「重い気持ち」を語ることができる場があり、それを語れる大人がいるということは、どれほど大きなことだろうと思います。たくさんの子ども達に、安田さんのような人に出会ってほしいと願います。
 僕は、教育の場で子どもと関わる立場ではありませんが、吃音に取り組み始めた頃から、どもる子ども達のことにすごく関心があります。様々な場面で、子どもが一生懸命に生きている姿にふれると、力をもらうし、自分のことのように嬉しく、幸せな気持ちになります。反対に、合理的配慮が濫用され、どもる子どもが生きていく力を、削ごう、削ごうとしている現状にふれると、涙が出るほど悲しいです。「どもる子どもが幸せに生きるために」という思いの輪が、もっと大きく広がり、根付いて欲しいと切に願っています。
 妻によると、僕は今朝、寝言で吃音がどうのこうのと言いながら大笑いをしていたそうです。仲間も大勢できました。我がことながら、名古屋での二日間が、よっぽど楽しかったのだろうと思います。
 次は、いよいよキャンプです。よろしくお願いします。

 「人は人を図らずも傷つけてしまうものだ」「傷つけるかもしれないとの不安は、人との関係の中では一生ついてまわる」という言葉を聞き、「人を傷つけてしまってはいけない」「不安は取り除かなくてはいけない」という思考になっていましたが、このようなことを前提に人と関わることを知れたことで少し楽になりました。人を傷つけてしまうかもしれないことを極端に恐れてしまっていたことに気づき、「納得する/させる」と同じように傷つくかどうかは相手次第であり、伝えるべき情報は、極度にこだわらず伝えていきたいと思いました。
 「どもる」を「つっかかる」や「ひっかかる」と言い換えることについて、伊藤さんの話を聞き、小学生の頃、自分で「どもる」という言葉を使うのが嫌で、吃音のことを相手に「ひっかかる」と表現していたら、相手から「私もひっかかるよ」と言われて「どもる」ことが伝わらず、「みんなのひっかかるじゃなくて、毎日の会話でどもることなのに」と悲しんでいたことを思い出していました。他の人から「どもり」「どもる」と言われるのは嫌でしたが、表現を曖昧にしてしまうと、語れる言葉がなくなってしまう危険性もあり、「自分を語れる言葉」として残すべきものの見極めが大切だと感じました。
 今回の吃音講習会では、特に、「対話」について深めていけたらと思いながら参加していましたが、「対話」以外のこと(自分自身の生き方、どもる人として、仕事のこと)でも学びがとても多かったです。対話に関して、相手に質問する力だけでなく、話を聴く力をさらに身につけることで、相手がどう向き合ってくれるか変わっていくのではないかと思いました。
 4年ぶりに参加し、自分自身の吃音をとりまく課題や思いを改めて見つめ直すきっかけになりました。来年の講習会でも、自分の思い、行動の振り返りをしたいと思います。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/08/17

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