建設的な生き方 2

 20年以上前にお聞きした話なのに、読み返してみると、レイノルズさんの言い回しというか口調を真似できるほど、よく覚えています。話とワークとを組み合わせた楽しく豊かな時間でした。レイノルズさんの建設的な生き方の提案は、実践できる事ばかりです。以前からしていることもあり、新しくしてみようということもあり、今でも実践していることがあるということは、レイノルズさんの考え方が僕の考え方と共振したということでしょう。森田療法と内観法とのドッキングなので当然のことかもしれません。とにかく役に立つことばかりです。

建設的な生き方 2
                 デイヴィッド・K・レイノルズ(文化人類学者)

コントロールできない感情への一時的な扱い方

1.気をそらす―筋肉を使う
 まずひとつは、あなたがすごく困っているとき、興奮してるとき、不安でいっぱいのとき、気をそらして下さい。いろいろなやり方がありますが、一番やりやすい方法は、筋肉を使うことです。例えば、車を洗う、靴を磨く、部屋を掃除するなどしていると、自分の恐い気持ちや、恥ずかしさが、一時的に消えるんですよ。そして、不思議なことは、車や靴や部屋がきれいになるんです。どうして一時的かというと、大体悩んでいる人たちは、ときどき確認するんです。部屋を掃除しながら、「私の恐怖感はなくなった?」。そうすると、パッとまた恐怖感が出てくる。
 私は、飛行機恐怖症だと言いましたが、実はそれは嘘です。私は飛行機が揺れるととても恐くなりますが、飛行機がスムーズに飛んでいるとき、私は、そんなに恐くない。おいしい食事を食べている間とか、かわいいスチュワーデスさんが歩いている時、恐い気持ちに気がつかないことがある。だけど、揺れるときは必ず恐くなりますから、私は、そんな時は本当は機内を掃除をしたいのですが、させてくれません。だから、安全ベルトをしたままで、一所懸命はがきに絵を書くんです。それが、このはがきです。回しますから見て下さい。
 Constructive Livingは、とにかく信じなさいという宗教ではありません。自分の経験で確認できます。役に立つことは使って下さい。役に立たないところは、無視していいですよ。だけど、私の経験では、飛行機の中で揺れてとても恐いとき絵を一所懸命描くと楽になります。

2.待つ一時間の流れで感情は静かになる
 2番目のヒントは、今度すごく困ったときは、待つことです。そういう経験はありませんか。どんなに辛い感情でも待つだけで静かになるんじゃないですか。感情はずっと同じレベルでは続かない。それは、常識だと思うんです。人の前で失敗して、恥ずかしいと思っても、1時間2時間たつともう消えている。別の感情でいっぱいになるから。待つだけで、救いになるんです。
 待つと必ず感情は静かになります。例えば、私の父は食道ガンで亡くなりました。30年くらい前です。父は、8歳からたばこを吸った人で、60代になってすぐ食道ガンで亡くなりました。
母は、すごく悲しかったけど、何週間、何ヶ月経って、ある程度は悲しみは静かになった。しかし、結婚記念日や父の誕生日やクリスマス、父の洋服を寄附したときとかは悲しみは出てくる。だけど、亡くなってすぐの悲しみと、誕生日に味わう悲しみは、似てるけれどちょっと違います。
 ある理論によりますと、子ども時代の悲しみは、無意識なところに抑圧されて、そういう悲しみはまた大人になってまた出るという。そんな理論は信じなくていい。子ども時代の悲しみと、大人の悲しみとは違う。子ども時代の悲しみを思い出すかもしれないが、大人なってから思い出して感じる悲しみとは同じじゃない。
 とにかく悲しみは、ある程度は待つだけで必ず和らぐ。それは、グッドニュースですね。残念ながら、好ましい感情もそうです。日本人もアメリカ人もそうですが、デートするときに、やさしいことばをお互いに言いますね。おみやげを交換して、ロマンチックなディナーを楽しむ。そして結婚して…。(爆笑)そうよ、3年間たって私の所に相談に来る。「結婚生活からロマンチックな愛はなくなりました」って。当然ですよ。私、必ず聞くんですよ。「あなた、ロマンチックなディナーしてますか」って。「いやー」。お互いにやさしいことばがいるんです。「あの人は私の気持ちは分かるはずだ」と多くの人は言いますが、愛のある行動が続かないと、感情は自然に静かになる。もしあなたの結婚生活にロマンチックな愛を続けたいならこういう行動が必要でしょう。

3.行動はある程度感情に影響する
 3番目のヒントは、行動をうまく使うと、ある程度は感情に影響するということです。感情を直してから何かをするというのはいけないですが、逆に行動を直すと、感情にある程度、影響させることはできます。
 例えば、あなたは冬の朝、寒くて起きたくないが、起きなくてはいけない。そのときのひとつの行動としては、かけぶとんを思い切って自分で剥がすことです。寒いから起きると思うんです。起きたい気持ちが出てくるかもしれない。
 あなたは毎日ランニングしたいけれど、ある日、起きて「今日はやる気がしない」と思ったら、ソファに座ってランニングしたい気持ちを作ろうとしないで下さい。今日はランニングしたくないけれど、ランニングウェアーを着てランニングシューズはいて下さい。これが行動です。すると、ランニングしたい気持ちが湧いてくるかもしれない。気持ちが湧いてこなくても、せっかく全部着てしまったんだから、脱ぐのはめんどうなので、ランニングするかもしれない。行動をうまく使うと、ある程度は感情をコントロールすることはできるのです。
 私は昔は俳優でした。ハリウッドでテレビ番組の主人公でした。私は20歳でしたが、若く見えるから、私の役は、12歳の子どもでした。俳優は英語では、アクターと言います。アクターの、アクトは行動するという事です。俳優さんたちは、自分の役に入るために、いろいろ行動します。そうすると役に入れる。舞台には、テーブルやコップが置いてあります。舞台装置は、観客のためでなく、俳優のためのものです。道具を使いながら自分の役に入っていくんです。行動をうまく使うと、自分の役ができるようになるんです。

精神病院に体験入院

 私はアメリカの政府から研究のための助成金を得て、精神病院の中の自殺を研究をしたことがあります。患者の内面から自殺のことを研究したいと思いました。私は俳優でしたから、自殺願望のあるうつ状態の患者になって、アメリカの精神病院に入院することになりました。ある精神病院のスタッフから許しを得て、誰が入院するかスタッフには知らされずに入院するんです。私の問題は自殺的なうつ的な自分を作ることです。私自身をうつ状態にして、自殺したい気持ちを作り出さなくてはなりません。どういうふうにしたかを教えてあげましょう。こういう行動をとればうつの状態を作ることができます。
 まず、できるだけ暗い部屋に、座るか横になり、力を抜いて、下を向く。これ、全部行動ですね。目に見えることです。そして、「ハー」と溜め息をする。何度も溜め息を繰り返してこういいます。
 「もうだめだ。ハー。どうしようもない。ハー。私のこと、誰も分かってくれない。ハー。私のこと、誰も愛してくれない。ハー。もう、だめだ」
 大体8時間、3日間続くと、だんだん悲しい気持ち、絶望的な気持ちが湧いてきます。興味あったらやってみて下さい。自分や友だちの、そういう行動を見たら気をつけて下さい。
 私は入院し、いろんな心理テストを受けて、専門家からこの人はうつ的な人だと診断されて2週間入院しました。専門家はテストを見て、この人は嘘はついていない。本当にうつ的で、自殺的で本当の問題ですよと言っていましたよ。
 1日目は、抗うつ剤を飲んだのですが、頭痛がして変な気持ちになったので、2日目からは、舌の下に置いて、水をいっぱい飲んでトイレに行って、ピルをはき出していました。とにかく、研究は2週間の予定なので、治らないといけない。ずっと精神病院でうつ的な生活をしたくないですから退院をしなくてはなりません。どういうふうに自分まで戻ったかを教えましょう。あなたがうつ的になったら、こういう行動で、ある程度は、直るかもしれない。
 まず、運動することが必要でした。うつ的な人は大体、暗い部屋で横になるとか、長い間座るとか、運動したくない、運動する気にならない。だけど、運動したくなくても、運動する気がなくても運動すればいい。私はよく散歩しました。散歩したくないけど、あるときは、散歩しながらやっと散歩したい気持ちが湧いてきました。散歩やジョギングやテニスなど何でもいいからまずからだを動かすことです。
 2番目ですが、うつ的な人にすごく悲しいのは、刺激がないことです。暗い部屋で長い間じっと座ったり横になっていると、うつ的な感情は続きます。だから、刺激のあるところに出かけるんです。繁華街や商店街、私はよく商店街を散歩しました。そのような賑やかなところは、目の刺激、耳の刺激などいろいろと刺激がある。そういう所へは本当は行きたくないが、行くといい影響が出ます。
 3番目のヒントは環境の変化です。今でも、私、あの精神病院で、前と同じ椅子に座ると、憂鬱的な部分は少し湧いてくる。そういう経験、あると思うんです。あなた方は、故郷に帰りますと、子ども時代の自分が少し湧いてくるんじゃないですか。環境によって、私たちは変わるんです。
 悩んでいる人が変わりたいと思ったら、自分の環境をチェンジして下さい。引っ越ししなくてもいいですから、自分の部屋の色を変えるとか、家具をアレンジするとか。また、いつもは毎日お昼に、「おもいっきりテレビ」を見る習慣だったら、その代わりに「笑ってもいいとも」を見た方がいい。環墳が変わると、自分が変わる。内弁慶ということばがあるでしょ、日本語には。外と内とで、人が全然違う。これは環境による変化ですね。(「スタタリング・ナウ」2003.12.20 NO.112 つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/03/20

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