吃音と向き合う話し合い
吃音親子サマーキャンプでは、「劇」の稽古と上演と、吃音についての話し合いがあります。特に、吃音についての話し合いは大切にしています。学年別に分かれての話し合いは吃音とのつき合い方を自然と学び合えます。紹介するのは、話し合いの部屋にみんなが入ってきたところから、１時間の話し合いの全てです。編集をしないでそのままなので、意味が分かりにくいところは想像してみよう。話し合いの場にいるようなつもりで読んでみてほしい。この話し合いに加わった３人の大人はとても楽しかった。子どもたちも、楽しそうに自分のどもりについて語っていた。爆笑、爆笑が続く場面もあった。
２００３年吃音親子サマーキャンプ 小学校３・４年生のグループ
３年生男子 Ｃ、Ｂ、Ｄ
３年生女子 Ｇ
４年男子 Ａ、Ｅ、Ｆ
元ことばの教室の教員(現在支援学級)
溝口稚佳子（教員・通常の学級）
伊藤伸二
教員 ：何について話し合うのか、知っている人？
Ａ ：どもりのこと。
伊藤 ：どもりってなんでそんなことば知ってたん。
Ａ ：お母さんに教えてもらった。
Ｂ ：最初から知ってる。
溝口 ：最初って、いつや。
Ｂ ：３年生のころ。
Ｃ ：ソーセージ、食べてから。
伊藤 ：ソーセージ食べてからどもりになったんか。
Ｃ ：ソーセージ食べてるときに、お母さんに教えてもらった。焼き肉食べてるときも。
（Ｂがひとり大きな声をあげて笑っている）
Ｃ ：話し合いやで。
伊藤 ：ほんまや、よう笑うなあ。じゃ、今から思いっきり笑い合いするか、ハハハハハ。
伊藤 ：Ｂ君、終わったらなんぼ笑ってもええから、もう少し笑うの待ってな。
教員 ：どもりについての話し合いをするんだね。
みんな：そうや。そうや。
教員 ：じゃあ、はじめましょう。
≫ 吃ることでからかわれたら
Ａ ：本読みでどもって笑われた。２年のときに。
伊藤 ：どんなふうに笑うの？ くすくす、か。わっはっは、か。笑っていることはどうして分かったの？ 聞こえてきたの？ 自分が読んでるのに、人が笑っている声が聞こえてきたのか？
溝口 ：笑うのは、クラスのみんなじゃないやん？
Ａ ：みんなじゃない。
溝口 ：みんなじゃないけど、すごく笑う子がいるんやね。
Ａ ：おる。
溝口 ：誰、それ。分かってるの？
Ｃ ：そんなん、笑っても関係ないやん。
伊藤 ：おいおい、「笑っても、関係ないやん」と、Ｃ君がえらそうに言ってるで。
Ｃ ：だって、がんばって読んだら、なんでも、人間は人間やから、どもっても読んだらいいやん。
溝口 ：Ｃ君はどもって、笑われたこと、ないの？
Ｃ ：一回だけある。
子ども：あるとか、ないとか、の声。
Ａ ：待ってえや、続きを言わせてほしい。むかつくわ。
伊藤 ：そうやな。
Ａ ：母さんが、先生にどもりということを教えていたから、先生がクラスの子に笑うなといった。それで笑わないようになった。
Ｃ ：誰でも、くせ、あるんやからええやん。
教員 ：すごいなあ、C君。
伊藤 ：Ｃ君、すごいこと言うけど、今はＡ君が話しているから、ちょっと待ってな、後でC君の話を聞くわな。
溝口 ：Ａ君、それは、２年生のときだけ？ ３年生とか４年生は？
Ａ ：分かってくれたから。
溝口 ：クラスは、３年、４年と変わるやろ。変わったのに、なんで分かってくれたん？
Ａ ：僕が自分で言うた。
八重樫：勇気があるね。
溝口 ：いつ言ったの？３年のとき、４年のとき？
Ａ ：３年のとき。
溝口 ：どんなふうに言ったん？
Ａ ：僕は、どもるから笑うなって。
八重樫：いつ、言ったの？ 朝の会とか。それとも何人かの友だちに言ったの？
Ａ ：友だちに言った。
溝口 ：ああ、そうか。みんなの前で、学級会とかで言ったのではなくて、
Ａ ：お母さんが先生に毎年言ってくれてるから、どもりのことを。
Ｄ ：毎年ってすごいな。
Ｂ ：だって、毎年、言うのって普通やで。先生は、毎年変わるもん。
伊藤 ：お母さんが言ってくれるのは、Ａ君がお母さんに言ってくれと言ったの？
Ａ ：うん。
伊藤 ：こんなことがあって、いやだったということをお母さんに言ったわけだ。
Ａ ：うん。
伊藤 ：そしたら、お母さんが担任の先生に言ってくれたんだ。じゃ、それはすごくよかった？
Ｃ ：何してんねん、せっかくいい話してんのに。（遊んで、うるさい子に向かって）
伊藤 ：お母さんに言えてよかったね。
Ｃ ：僕は全校集会でお兄ちゃんが言ってくれた。
伊藤 ：えっ、お兄ちゃんって、君のお兄ちゃんが？
Ｃ ：うん。お兄ちゃんが６年のとき。
Ｄ ：いいなあ。
溝口 ：なんて、言ってくれたん？
Ｃ ：僕の弟はどもってるから、そういうことは言ってあげないで下さいって。
伊藤 ：そういうことって、何？ 笑ったりからかったりということ？
Ｃ ：うん。
八重樫：かっこいい。そのとき、Ｃ君は何年生。
Ｃ ：２年。
溝口 ：Ｃ君が頼んだの、兄ちゃんに言ってって。
Ｃ ：ちがう。お兄ちゃんが、僕のこと分かってるから、去年サマーキャンプに来てたやんか。だから、みんなのことを考えて作文書いてくれたんや。
溝口 ：サマーキャンプに来てからの後の話やな。
みんな：おーっ。
Ｂ ：僕は、１年のとき、前で本読みをひとりでしてたとき、誰かが知らんけど、笑ってて、先生にその子が怒られて、その子がもう笑いませんって言って、約束した。本読みをしていても、その子もみんなも笑わないようになった。１、２年も、そうやったけど、笑う子は友だちにならんとこかなと思って、２年のときは笑われて、ひとりだけ笑って、先生にまた怒られて、もう笑いません、ごめんなさいと言ったから、反省してるなと思ったから、また友だちになったった。
伊藤 ：すごいなあ。笑わなかったら友だちになったるけども、笑う奴は友だちと違うと思ったの？
Ｄ ：俺、まだ話してない
≫ 真似をした子がどもり始めた
教員 ：そうか、Ｄ君、待たせたんだね、ごめん。
Ｄ ：あのな、まず幼稚園からどもっとってな、
Ｂ ：ぼくもや。
Ｄ ：幼稚園で、普通の日は、めっちゃ、どもっとって、でも、劇とかでは全然どもらんかって、だから劇に自信を持ってた。で、１年になったら、学校の前に来たら足が震えて、もう１年になってから、めっちゃからかわれたんや。Ｓ君が、おれがどもったらそのことばを真似してきて、その子が２年くらいになったら、その子もどもりになった。
みんな：はははは、うそーっ。ほんま？
溝口 ：Ｄ君のどもる真似をしてたから、どもるようになったん？
Ｄ ：うん。その子はよく朝礼でも平気で前に出る子でな、２年になったら、どもりのこと、みんなに言うてくれてんや。
伊藤 ：えっー、どういうことや。
溝口 ：朝礼で前によく出る子で、何のことをどんなふうに言ってくれたん？
Ｄ ：２年生の僕とＤは、ことばがつまるので、そんな風にばかにしないで下さいって。
溝口 ：その子って、１年のときには、君のどもるのを真似したりからかったりしてた子やろ。自分がどもりになったら、そんなこと言ってくれたんか？ 君はそのこと、どう思ったん？
Ｄ ：すごいなと思った。
Ｃ ：そんなん、絶対信じられへんわ。
Ｄ ：だから、２年からもう誰からもいじめられへんようになった。
Ｃ ：だって、自分もどもってるんやもん。
伊藤 ：ふたり、仲間がおるねんもんな。そしたら、みんな、いじめられたら、みんなでどもりをうつしたったらいいんや。どもりうつしたら、クラスで５人くらいどもる子をつくったらいいね。仲間を増やすためには、どもりの真似してくれた方がええやん。
Ｃ ：真似する子もほっとけばいいや。
Ｅ ：（Ｂ君が）話をしようとしてるよ。
伊藤 ：めん、ごめん。
Ｂ ：僕、１年のとき、明日朝会で先生が呼んだら前に来て下さいねと言われて、前に行ったら、先生が「Ｂ君はどもる子やからみんな、話をしているときに長くなっても、何も言わずに聞いて下さいね」と言ってくれた。１年までは一人に真似されてたけど、それからみんなは分かってくれるようになった。廊下で話をするときもみんなずっと待ってくれた。先生も分かってくれたから、あいさつのときもみんな真似しなくなった。僕は先生が言ってくれてよかったなと思って、それでそれから友だちといっぱい話すようになった。
伊藤 ：待ってくれたらしゃべれるけどな、待ってくれなかったらしゃべれないよな、嫌やなあ。
Ｄ ：（僕の話）まだ終わってないで。
溝口 ：まだ終わってない、よな。
伊藤 ：Ｄ君待ってくれてたんか。ごめん、ごめん。
教員 ：しゃべることがあるんだ。ここでも、さっきから。
どもりは治らないのか
Ｄ ：１年くらい前に病院に行ったんや。でも病院に行ったけど、意味がなかった。
溝口 ：えっ、意味がなかった？ どういうこと？
Ｄ ：何も変わらんかった。
溝口 ：そこには何しに行ったの？ 治してもらおうと思って行ったの？
Ｄ ：うん。
Ｃ ：どもり治らんの、当たり前やで。
Ｂ ：なんで。
Ｃ ：だって、まだ誰も治る方法、知らんもん。
みんな：わー、すごい。（拍手）
溝口 ：なんで、そんなこと知ってるん？ 誰に聞いたん？
Ｃ ：お母さんに教えてもらった。お母さんが病院の先生に相談したら先生が、治らへんと教えてくれた。
溝口 ：吃音は治らん、てか。治る方法がないってか。
Ｂ ：僕もお母さんに幼稚園の年長のときに教えてもらった。
教員 ：みんなすごいなあ。英才教育ですね。なんて教えてもらったの？
Ｂ ：どもりを治す薬も手術もないから、病気でもないから、そのまま大きくなっていったら、治るからって。
伊藤 ：えっ、結局どもりは治るんか。
Ｂ ：治るから、どもりはどもりのままで話しておき、って言われた。
溝口 ：治らへんと言われてどうやったん？うそー。そんなの困るって思わへんかったん？どんな気がしたん？ ショックと思わなかったん？
Ｂ ：普通やと思った。
Ｃ ：ショックとは思わなかった。
溝口 ：なんでやねん。
Ｃ ：だって、人それぞれ癖あるもん。
伊藤 ：わおー。
溝口 ：それ、誰が言うせりふや。
Ｆ ：ぼくは、治ってきた、結構。
溝口 ：いつと比べたら？
Ｆ ：３年のときと。
溝口 ：３年のときと比べたらか。君、４年やな。ああ、そう。なんで、そんなふうに思うの？
Ｆ ：俺、今日、どもってない。前は答え合わせしてたら、もう一回言って下さいと言われた。４年生になってあんまり言われなくなった。
溝口 ：それで、どもり治ってきたんかなと自分で思うの？
Ｆ ：うん。あんまり、つまらんようになった。
溝口 ：ふーん。何かしたの？ 治すために何かしたんか？ 何か方法があるかもしれへんよ。
Ｆ ：別に。たくさんしゃべったから。
伊藤 ：そうか、Ｆ君は自分で変わってきたと思うんだね。ちょっと、待って。さっきからＧ君が待ってたから。
からかうのは好きやからか
Ｇ ：２年のとき、学校に行って、友だちになんでどもるんって聞かれたけど、２年になってからはあんまりどもらんようになった。けど、３年生になってから最初はどもっていて、友だちになんでどもるのって聞かれて、分からへんと言ったら、パンチとかしてきて、それで先生に言って怒ってもらった。それでなくなったけど、また今度はなんか友だちが悪口を言ってきて、嫌やったから、先生に言って怒ってもらった。で、３年の最後らへんになってからは、別に言われなくなった。
伊藤 ：みんな先生に言って怒ってもらってるんだ。
教員 ：先生に隠れてどもたちに言われたりしなかった？
Ｇ ：先生が職員室にいるときなんか、悪口言ってくる。
教員 ：先生が職員室に行ってるときに悪口を言ってくるんだ。そのとき、どうしたの？
Ｇ ：嫌やった。男の子に言い返したけど、パンチとかしてくる。
Ｆ ：パンチか、あかんな。
Ｂ ：僕はパンチされたら、絶対に先生に言って、怒ってもらう。それから、そんな子とはあんまり遊ばないようにする。でも、僕は全然パンチとかされてない。悪口とかも。でも、本読みとか、みんなで言うときは、なんかどもらない。
伊藤 ：「みなさん、こんにちは」とか、みんなで一緒に言ったらあんまりどもらないね。
Ｆ ：ひとりのとき、発表のときとかには、どもる。
Ｇ ：運動会のとき、最後に、友だちがパンチとか、してきて、悪口とかしてきた。
教員 ：パンチしてくるのは、同じ男の子？
Ｇ ：うん。二人。
溝口 ：先生が怒ってくれるんやろ。なのに、またやるの？
Ｇ ：うん
Ａ ：しつこいな。
Ｂ ：それじゃ、反省してないっていうわけ。
溝口 ：もうしませんって言うんじゃないの。
Ｇ ：言うけど、またやる。
Ｄ ：先生に言われるのがむかつくんと違う？
Ｂ ：でも、ずっとパンチされるのは、女の子自身がむかつくという意味と違うんか？
教員 ：どもるから、というんじゃなくて？
Ｂ ：女の子やからやで、きっと。
伊藤 ：女の子やからいじめるっていう感じ？ 男の子が女の子にパンチするのは。
Ｂ ：そうそう、そうそう。
伊藤 ：Ｇさん以外の、他の女の子はパンチされてる？
Ｇ ：されてない。
Ａ ：集中ねらいや。
溝口 ：それは、どもりと関係ある、か？
Ｇ ：ないと思う。
伊藤 ：どもりとは関係ないのか？ なんで分かるの？
Ｆ ：ただのいじめと違うの？
伊藤 ：どもるからということではなかったんやな。Ｇさんは、なんでパンチされると思うの？
Ｇ ：分からん。
伊藤 ：分からへんなあ。聞いてみたら。あんた、なんでパンチするのって。
Ｃ ：Ｇさんのことを好きなんちゃう。
みんな：わー。そうや。そうや。
伊藤 ：なるほど、ええ考えやな。
Ｅ ：好きやのになんでパンチするの。せえへんで。
伊藤 ：好きやったら、パンチしないか？
Ｃ ：いじわるするくらい、好きなんちゃう。
Ｅ ：普通、そんなん、せえへんで。
伊藤 ：いじわるするくらい、好きか。
Ｅ ：そんなん、せえへんで。
伊藤 ：Ｅ君はせえへんかっても、好きやったらする子もおるかもしれへんな。
Ｂ ：その子は、先生や、お父さんとかお母さんに言われることが頭にきてて、むかついてきてて、いつもパンチしてくるんとちがうの。
伊藤 ：そうか、その子は、家でいっぱいいろいろ言われていて、むかついてるわけだ。
Ｂ ：多分。そうや。
Ｃ ：その子もどもってるんちゃう？
Ａ ：ストレスがたまってたりして。
教員 ：新しい考え方ですね。
Ｇ ：運動会の大玉ころがしで、そのボールがくる前に砂とかかけてきた。
Ｃ ：好きなんちゃう。
Ｂ ：だから、だから、好きやからって、いじめをするわけ？ そんなんおかしい。
伊藤 ：Ｃ君は、この子好きやなあと思ったら、パンチするのか。
Ｃ ：僕はせえへんよ。
Ｂ ：そうやったら、なんで好きなんちゃうって言うの？
Ｃ ：だって、お母さん、よく言うもん。
教員 ：そういうとき、クラスの友だちとかは、なんか言ってくれたりする？
Ｇ ：女の子が言ってくれる。
Ｂ ：それは、いいことやんか。それなら味方やん。
教員 ：うん、味方いるね。
Ａ ：男が味方したら、好きってこと？
教員 ：そうか、ずっとそういうことが続いているわけだ。
伊藤 ：いやだね。
（みんな、ギャーギャーとうるさい）
Ｃ ：この部屋だけやで、うるさいの。
伊藤 ：なあ。他の部屋は静かにしゃべってるのに。
Ｄ ：ほんまや。
Ｃ ：うるさい者、３０分立ってなさい。
伊藤 ：話を聞いていたら、みんな、笑われたり何か言われたりすることは嫌なんだね？
みんな：嫌。嫌。
Ｆ ：別にいい。
Ｃ ：別にいいし。
伊藤 ：別にいいというのがいる。別にいいの？
Ｃ ：うん。
Ｅ ：いやや、そんなの。
みんな：むかつくやん。
Ｃ ：どもってたって関係ないやん、一緒やねんから。みんな人間やし。
Ｄ ：ぼくな、２年のとき、サッカー習っていて、サッカーしてたら、誰かにこかされて、頭にきたけど、言われへんかった。
伊藤 ：頭にきたけど、言われへんかったわけだ。
Ｂ ：それで、むかついても、僕は先生には言いたいけど、あんまり言えなくて、そのままにしてるところがある。
伊藤 ：そのときは、どんな気持ち？ 嫌？ くやしい？ 悲しい？
Ｂ ：くやしい。
Ａ ：サッカーのコーチにもお母さんは言ってくれてる。
伊藤 ：サッカーのコーチに？ どういうこと？
Ａ ：どもりのことを言ってくれてる。
溝口 ：サッカーって、しゃべらなあかんことってあるの？
Ａ ：えっ、でも、笑われたりする。
伊藤 ：サッカーのクラブで？
Ａ ：サッカー習ってるから。
溝口 ：サッカーってボールをけっとったらええだけとちがうんか？
伊藤 ：サッカーでは、本読みないやんか。
溝口 ：サッカーしてて、どういう時にどもるの？
Ｄ ：開会式とか、あるで。
Ａ ：休憩時間とか。
Ｂ ：あ、僕も休憩時間に、ともだちと話すときどもる。
溝口 ：休憩の時間におしゃべりするときか。
Ａ ：うん。
伊藤 ：ああ、そうか、そうか。サッカーしているときには、どもってもかまへんな。
溝口 ：でも、パスパスとか、言わないの。
Ａ ：ああ、言う。
溝口 ：そんな時、どもって出なかったら、
Ａ ：そういうのは、どもらん。
溝口 ：ああ、そういうのは、どもらんか。短いことばやったら、つまりにくい？みんな、どう？
伊藤 ：パス、なんかやったら言える？
みんな：言える。
Ｂ ：ヘイ、も言える。
伊藤 ：ヘイなんて言うこと、あるのか。
Ｂ ：仲間のチームからボールをくれって、パスして、それから、
伊藤 ：そうか、みんな、ヘイとかそういう短いことばなら、どもらない？
Ｃ ：どもらん。
伊藤 ：僕、小学校の時、出席とるのに、「伊藤伸二君」と呼ばれて、「・・・」「はい」と言えなかったもん。
Ｅ ：ええ？
教員 ：言えない人は？ いない？
Ｃ ：「はい」ぐらいは言える。
伊藤 ：僕は、その「はい」が言えなかった。
Ｃ ：ふーん。
伊藤 ：欠席になるもん。
溝口 ：Ｅ君は言える？
Ｅ ：言えるよ。
伊藤 ：小学校やったら、すぐいるかどうか分かるけど、大学やったら、分からへん。
Ｅ ：なんで。
伊藤 ：人が多いもん。先生は「伊藤さん」って言う。そしたら「・・・」となると次にいく。そしたら、欠席になる。
Ｃ ：そんなん、最悪やん。
伊藤 ：最悪やな。
Ｂ ：最低。
伊藤 ：最低って、
Ｃ ：そんなん、嫌や。欠席にされるなんて。
Ｅ ：欠席になって、先生にどう言うたん？
伊藤 ：言われなかったんやから、しゃあない。
Ｅ ：欠席にされて帰ったんか？ お母さんに、どう言われたん？
伊藤 ：お母さんと一緒に暮らしてない。大学生やから。
Ｅ ：ああ、そうかそうか。
Ｂ ：お母さんと暮らしてたら、変やんか。
Ｅ ：お母さんに電話した？
伊藤 ：お母ちゃん、返事ができなくて、欠席されたよってか。
Ｃ ：そんなん、僕やったら、ずっと学校におるで。
溝口 ：ああ、欠席にされたままで帰らんとか。
伊藤 ：帰らんと、どうするの。
Ｃ ：先生にみつけてもらうんや。
（みんな、爆笑）
伊藤 ：お前、なんで残ってるんやと聞かれて、あの、さっき「はい」が言えませんでしたって言うんか。
溝口 ：なるほどな、伊藤君、おったんかと言われるまでおるんやな。
Ｄ ：大学って受験の時？
伊藤 ：大学の受験じゃなくて、授業や。
Ｄ ：じゃ、教室って狭かったん？
伊藤 ：広い。小学校やったら、多くて４０人くらいやろ。
Ｄ ：ううん、３６人。
Ａ ：どうでもええんや、そういうことは。
伊藤 ：なあ、細かいこと言うなよな。
Ｂ ：何人とかは。
伊藤 ：大学は、１００人くらいいるからさ。
Ｅ ：大学は？ そんなに多いの？
伊藤 ：そうや。みんなは短いことばなら言えるんだ。ヘイとかパスとか、ホイとかハイとか。
Ｄ ：言うてなくても、声が小さかったってだます。はいって言いましたって言ったらええやん。
伊藤 ：そんなん、「はい」って言いましたっていうのが言えないやんから。
Ｂ ：バスケットのとき、ヘイヘイヘイヘイって、パスしてくれたけど、なんかにつまずいたか、こかされたか知らんけど、こけた。体育館の中やから、なんでかなあと思って周辺を見渡したら、自分のシューズにつまづいてた。
溝口 ：なんや、それ。それドジって言うんや。
Ｃ ：ドジリって言うんや。
伊藤 ：Ｄ君が、話していいかと言うてるで。
溝口 ：どうぞ。
Ｄ ：俺がどもり始めた子と一緒に遊んでたら、友だち４人くらいて来て、なんでお前ら二人だけ、どもってるんやって言われたんや。それがめっちゃむかついてな、キャンプでお母さんに撮ってもらった劇のビデオを、勝手に学校に持っていった。で、先生に一回見せて、教室でみんなに見せてもらってん。
伊藤 ：ええ、ちょっと分からんかったけど、キャンプで劇をしてるけど、自分のうつってるビデオか。お母さんがビデオ撮ってくれてたんか。それを学校に持っていったんか？
Ｄ ：うん。
Ｅ ：勝手に？
Ｄ ：うん。
Ｅ ：お母さんに言わな、あかんやんそんなん。
伊藤 ：こいつ、まじめな奴やな。そして、持っていって、それをどうしたって？
Ｄ ：先生に言って、教室でみんなに見せた。
伊藤 ：ええええー。
八重樫：なんて言って見せたの？
Ｂ ：僕のビデオ。
（みんな、笑う）
Ｂ ：全然おもしろくない。
教員：どうして、頼んだの？ 知りたい。
Ｄ ：先生は俺がどもるのは知ってるから、先生に、どもる子が行くキャンプで劇するんやと言って、その劇のビデオをみんなに見せた。
伊藤 ：それは、なんで。なんのために？
Ｄ ：みんなにいっぱいどもる人がいるというのを知ってもらうため。
伊藤 ：おー、すごい。そうか、どもるのは自分だけと違うと知ってほしかったんか。
Ｂ ：僕、全然そんなこと思ったことない。
教員 ：ひとつのアイデアですね。
伊藤 ：おもろいね。
教員 ：すごいテンポで、内容が濃すぎますね。
Ｄ ：テープ、ばれへんように、持って帰った。だから、まだお母さんには知られてない。
伊藤 ：おいおい、お母さんに内緒かよ。
Ｃ ：絶対言ったらあかんで。お母さんに。
Ｅ ：なんでビデオを持って行ったこと、知られなかったの？
Ｄ ：お母さんは普通にビデオを勝手に見てて、ランドセルに入れた。
伊藤 ：なんか、みんなそれぞれに工夫してるんだね。僕以外にもどもる子がいることを知ってもらいたかったんやな。そして、どもりながら、僕達はがんばってるんやと。
教員 ：ごめん。それを見たクラスの友だちは何か言った？それが聞きたい。
伊藤 ：感想というか、その後それを見た結果、クラスの子は、どどど・・・
Ｆ ：どうなったか。
伊藤 ：そう、どうなったか。よう分かるな君。
Ｄ ：先生が、おれをいじめていた子を５人くらい知っていて、その子に感想を聞いていた。
みんな：おー。
溝口 ：で、どう言うたん？
Ｄ ：もうこれからいじめませんって。
みんな：へえー、すごい。
伊藤 ：ほんと、すごいね。よかったね。
溝口 ：どこでそんな方法を思いついたん？
Ｄ ：キャンプに来る前に、お前らだけどもってるんやでと言われたから。他にもいると言っても信じてくれへんかったから。
Ｂ ：頭、いい。
溝口 ：頭、いいなあ。他にもおるって言っても聞いてくれへんから、実際に見せたわけや。
伊藤 ：それなりに、サバイバル、闘ってるなあ。
Ｃ ：スーパーテレビに出れるで。
みんな：拍手。出れる出れる。
伊藤 ：何、それ、スーパーテレビって何や。
Ｂ ：スーパーテレビはな、自閉症とか、病気とか、分からんことを・・
Ｃ ：みんなに知ってもらいたい。
Ｂ ：みんなに知ってもらいたいために放送してる。
教員 ：それのどもりバージョンで？ みんなに知ってもらうということ？
伊藤 ：ということは、みんなは、どもりのことをいっぱいみんなに知ってもらいたいわけだ。ねっ。
みんな：うん。
伊藤 ：だって、どもってもかまへんもんな。
Ｃ ：うん。
Ｄ ：ビデオのこと、お母さんに言わんとってな。
溝口 ：なんであかんの？お母さん、知らんの？
伊藤 ：言わない、内緒にしとくで。
Ｅ ：なんで？
溝口 ：一番危ないな、君が。
伊藤 ：言うなよ。
Ｃ ：言わん言わん。
Ｅ ：なんで、なんで言うたらあかんの。
伊藤 ：だって、内緒やもんな。
Ｅ ：言うたらあかん、言うたらあかん。
Ｄ ：キャンプの帰る日になって、みんな別れたら言ってもええで。
≫話したら分かってくれる
Ｃ ：話したら、みんな、何かしてくれるねん。
伊藤 ：そうか。話したらみんなそれなりのことをしてくれる、か。ということは、もし自分がどもりのことを誰にも言わんと、「やめてくれ」とかそんなこと言わんと、黙って一人でずっと悩んでいたら、何も起こらないな。
Ｃ ：うん。
Ａ ：何も始まらん。
Ｃ ：どもる人、学校の中に他にもおるかもしれんやんか。自分が知らない中で。その人も悩んでいると思うから、がんばって言うた方がええと思う。
（みんな、拍手））
伊藤 ：お前たちは、なんでここまで成長してきたんだ？
溝口 ：兄ちゃんもすごいけど、なあ。
Ｃ ：兄ちゃんは作文、嫌いやけど、がんばって書いたら、ああなったって言ってた。
溝口 ：確か、兄ちゃんの去年の作文、よかった。
Ｃ ：そうや。
Ｄ ：前で読んでいいか言われた。
溝口 ：そうそう、よかったから、私が読んでもいいかって聞いたら、嫌って言ったから読まなかった。すごくよかった。
Ｄ ：読んでほしかった。
溝口 ：読んでほしかったな。
Ｃ ：俺も読んでほしかった。
溝口 ：そうか、君も知らんのやなあ。知ってもええ権利はあるなあ。
Ｃ ：だって、兄弟やもん。
伊藤 ：うん、兄弟、か。
Ｃ ：今日も、送ってきてもらった、お兄ちゃんとおっちゃんに。そんでなあ、お兄ちゃんががんばれよと言ってくれた。
伊藤 ：ええお兄ちゃんやなあ。
みんな：ほんま、ええお兄ちゃんやなあ。
Ｂ ：そんなお兄ちゃん、おったらいいのになあ。
溝口 ：君が、兄ちゃんやろ。
Ｂ ：うん。
Ｄ ：お兄ちゃん、おったらええのに。
伊藤 ：お姉ちゃんは。
溝口 ：君には、お姉ちゃんがおるやんか。
Ｄ ：でも、おうちでは、きつい。
（騒がしくなる）
伊藤 ：ちょっと、ちょっと。ブー（おなら）。
みんな：くさい。どっか行けー。
溝口 ：せっかくみんなこうやって、小さい輪になって集中してるのに。離れてしまったやんか。
Ｃ ：トイレ、行ってきます。
教員 ：じゃあ少し休憩にしますか。
１時間ほど、途切れることなく、次から次へと話が飛び出した。思わぬハプニングで休憩に入る。