はじめに

 私は、吃音に深く悩み、生活が吃音に支配されていた時、「どもりさえ治れば」と常に吃音が治ることだけを夢見て生きてきました。1965年夏、「どもりは必ず治る」と宣伝する、東京正生学院の30日間の寮生活で、吃音を隠し、話すことから逃げていた生活から、どもりながらも自分の人生を大切に生きる生活に変わりました。その後、どもる人のセルフヘルプグループを創立し、たくさんの仲間と対話をし、活動をする中で、「吃音はどう治すかではなく、どう生きるかの問題だ」と確信するようになりました。吃音に悩んだ多くの人の体験と、吃音の悩みから解放されていった私たちの体験を文章にして残したいと、言友会創立10年の節目に「吃音者宣言」文を起草しました。

 その10年の活動の記録として、「吃音者宣言」の解説の意味で『吃音者宣言-言友会運動十年』(たいまつ社)を出版しました。40年以上も前に出版された本ですが、今も、この本の精神は色あせていません。むしろ、今の時代に多くの人に読んでいただきたいとの思いが膨らんできました。「どう治すかではなく、どうよりよく生きるか」が問題だとする私の考えに近い、考え方や実践が、2000年になって急速に広がっているからです。

 医療社会学者、アーロン・アントノフスキーによる、究極の恐怖を経験したアウシュビッツの強制収容所から生還した女性の3割が、良好な健康状態を保ち続けられたのはなぜかの調査研究から生まれた「健康生成論」。心理学者ウェルナーによる、ハワイ諸島のカウアイ島の貧困、暴力、犯罪など多発する劣悪な環境に生まれ育った子どもの約3割が能力のある信頼できる社会人として育っていたとの調査研究から生まれた「レジリエンス」。これらの研究が、今、世界で関心をもたれるようになりました。

 「べてるの家」の当事者研究、ナラティヴ・アプローチ、レジリエンス、ボジティブ心理学、オープンダイアローグなども、この流れに共通するものです。これらの流れを参考にしながら「吃音者宣言」をもう一度再考し、私は、「吃音を生き抜く吃音哲学」を作ろうとしています。『吃音者宣言-言友会運動十年』(たいまつ社)を出版した、出版社そのものがなくなりましたので、1976年発行のこの本を紹介します。
 また、吃音者宣言に対しての感想も紹介します。