元気が出るサマーキャンプ~第14回吃音親子サマーキャンプに参加して~

 第14回吃音親子サマーキャンプでのできごとを、巻頭言で紹介しました。毎回、参加者ひとりひとりにとってのドラマが展開されています。参加しているみんなが主役になるサマーキャンプです。その第14回のキャンプに参加した、千葉のことばの教室担当者の渡邉さんの感想を紹介します。現在も、ずうっと続けて参加してくれている常連のひとりです。渡邉さんが書いている「劇の取り組み」の中で紹介している劇をしたくないと泣いて叫んでいた小学1年生の男の子のことは僕もよく覚えています。「したくないことはしなくてもいい」を基本にしているために、「劇をしたくない」という子どもに強制することはありません。しかし、不思議なことに、最後にはどの子も参加しています。今まで劇の上演に参加しなかった子どもはいません。「子どもが劇をしたくないと言っています」と心配顔の保護者によく話すのが、第14回のキャンプの時のこのエピソードです。たくさんの子どものことが、僕の頭のデーターベースに入っていることが僕の強みで、講演会や研修会などでもよく話しています。吃音親子サマーキャンプが好きで好きでたまらない、渡邉美穂さんの報告です。

元気が出るサマーキャンプ
              千葉市立誉田東小学校ことばの教室 渡邉美穂

はじめに
 私が、初めてどもる子どもを担当した時、ことばの教室の教師として何をすればよいか、子どもとどう、かかわればよいか分からなかった。吃音親子サマーキャンプで、是非、教えてもらおうと、研修を受けるような感覚で、筆記用具片手に参加したのが最初だった。今思い出すとちょっと笑いそうになるが、その時は、真面目にそう思っていた。
 このように参加し始めたキャンプだが、今はキャンプに参加すると私自身がとても元気になる。それは、なぜだろう。キャンプの空間が妙に居心地よく、集う人々との出会いは、いつもドラマがあって感動的だ。また行きたいと思うサマーキャンプの元気の源を改めて考えてみた。

話し合い
 キャンプのメインである話し合いは、学年ごとにグループを作る。私はまた、高校生グループ(中学3年1人含む)の担当になった。普段、高校生と話す機会がないので、今時の話題に刺激される。吃音に対する思いや考えを小学生や中学生よりストレートに話してくれるので話が具体的だ。回を重ねて参加している子どもたちが多いので、男女問わずにとても仲良しなのが見ていて気持ちがいい。始まると、一人一人がこの話し合いの時間をとても大切にしているので、表情が真剣である。
 「自分の学校にどもる先生をみつけたので、その先生と吃音について話をしようかと思ったけれど、その先生が自分自身の吃音を受け入れていなかったら悪いから、やめたんだ」
 この発言には驚いた。吃音に対する思いをしっかりもっている。千葉に帰ってから、以前一緒にサマーキャンプに参加した小学6年生にも、偶然同じようなことを言われた。ここに集まってくる子どもたちはすごいと思う。ふと自分を振り返ってみる。私は、子どもの時に、他人のことを思ったり、自分でこのようなしっかりとした考えをもっていただろうか。
 「吃音についてどう思う?」「吃音症状の波をどうしてる?」など、この話し合いはいつもストレートなことばがどんどん飛び交う。時間が足りなくて、休憩時間や深夜まで話し続けている。「吃音についてオープンに話し合う」ことが大切だとは思っていても、ことばの教室で同じようにはできないだろう。2泊3日の共同生活で生まれてくる話しやすさであろうか。それではことばの教室でもお泊まり会などをすれば、うまくできるのか。やっぱり、まだ何か足りない気がする。もう少しキャンプの魅力を探ってみよう。

劇の取り組み
 もう一つのメインの活動は劇の練習と上演だ。劇は、このキャンプをとても大切に考えておられる竹内敏晴さんの脚本をもとに、合宿で演技指導を受けたスタッフが中心になって進められている。幼児から高校生まで、どもる子とその兄弟を年代ごとにほぼ均等に分け、スタッフもそれぞれ入って、4つのグループに分けられ、話の場面ごとに練習をする。学校現場のことばで言うと、縦割りグループだ。文字が読めない子には、台本にフリガナを書いてあげたり、読んであげたりする姿が自然にできている。リーダーはいないけれど、温かくまとまっている。今回の劇は、竹内さんのオリジナル作品でとても長い話だったが、最終日の上演では、みんなが飽きることなく見入っていた。
 私は、この上演の場でいつも練習中のエピソードを思い出して泣いてしまう。例えば、学校では劇のセリフのある役をしない子が、ここでは率先してセリフを練習している。そして、「本当は学校でやりたかったんだ」というつぶやきを聞いてしまうと、キャンプで演じることができて良かったと、涙が出てくる。
 劇をしたくない子もいるが、無理に押しつけたりはしない。けれども、いつのまにか劇に参加している場合が多い。今回、私のグループにいた小学1年生が、最初は「やりたくない」と言っていたが、次第に参加するようになった。セリフはないが、役が決まり、本人も結構楽しんで練習に参加するようにもなっていた。しかし、劇の上演の部屋の入口まではみんなと一緒に来たが、上演前の雰囲気に緊張したのか、今までの「やりたくない」とすねたように言っていたことばではなく、「入りたくない!」と泣き叫んで、部屋から出て行った。泣いて叫ぶことで、自分の気持ちを表現できたと私は少しうれしかった。「したくないことはしなくていいよ」と、スタッフは無理に入れようとはしない。彼は祖母と共に出て行った。残念ながら彼は上演には参加できなかったのかと思っていたが、たくさん泣いて落ち着いたのか、彼の出番のところで、祖母と一緒に彼が戻ってきた。すっきりした顔で舞台の位置につき、役割である幕間の拍子木を「カン」と打った。彼のグループの上演に間に合ったのだ。自分の役を果たしてニコリとした彼の顔がとても素敵だった。私は、やはり今年も感動して泣いてしまった。

食堂の席
 キャンプが始まる前はわくわくするが、2泊3日はあっという間に終わってしまう。「あ~、もっと一緒にいたい」子どもたちの声が聞こえてくる。親やスタッフも同じような思いなのだろう。劇の上演の後の最後の食事のときは、みんなはとにかく時間を惜しむように話している。
 食堂は、いつも席を固定せず毎回いろいろな人と座って食べる。どこに座っても、みんなが楽しく食事をしている。当たり前のように思っていたこの雰囲気は、ちょっと不思議なのかもしれないと思い始めた。この参加者の一体感、温かい雰囲気はどうやって生まれているのであろう。スタッフに関西弁の人が多いことも関係があるように思った。私も徳島の生まれなので、関西弁が体になじんでいるせいか心地良い。優しくて、温かいことばが親しみやすい。この雰囲気は本当にすばらしい。千葉県から毎年参加するのは、関西はちょっと遠いので、たまには関東でも開催してほしいとお願いしたことがあるが、参加者が関東中心になると、これと同じ雰囲気にならないかもしれないとも思った。関東中心だとどんなふうになるか、も興味がもてることなのだが。

オープンマイク
 今年のキャンプの締めくくりは、話したい人ひとりひとりが、みんなの前に出て順番に話す「オープンマイク」だった。劇が楽しかった人、出会いがうれしかった人、今回の参加者のドラマに感動した人など、どもる子どもも親もスタッフもいろいろな思いを語る。最後の長尾君、安野君の卒業式は感動的だった。キャンプの参加は高校生までとなっているので、高校3年生の彼らは、どもる子どもとしての参加は今年で最後になる。手作りの卒業証書を伊藤伸二さんが読み上げた。彼らは、涙を拭きながら思い出やお礼のことばを話した。特に、長尾君は小学生4年生から1回も欠かさずに参加しているので、長いキャンプの歴史をもっている。私は、前日に長尾君が持ってきた今まで参加したキャンプの思い出の写真集を見せてもらった。そして、たくさんの人との出会いを話してくれた。その写真の中に、私もいた。人の歴史の一部になっているかと思うとすごくうれしかった。
 これから彼らがスタッフとして参加した時に、吃音に対する思いを子どもたちにどんなふうに伝えてくれるか、とても楽しみに思う。来年も楽しみだ。

おわりに
 私の参加のきっかけは、ことばの教室の教師としての研修の意味合いが強かった。しかし今では、私の元気の源になっている。教師としてではなく、人と人との心の通い会う場としてこれからも参加したい。以前、私の教室に通級していた子と一緒にキャンプに参加したことがあるが、教室とは違う表情や行動に出会うことができた。その後、キャンプをきっかけに、もっと子どもたちと仲良くなることができたので、ことばの教室のように個別の場だけではなく、このようなグループ活動の良さを年々感じている。
 「どもってもいい」と実際にことばとして言っている訳でも、大上段に構えている訳でもないが、スタッフがごく自然にどもりながら、子どもに関わっている。このキャンプは、子ども自身が自然に、「どもっていい」と感じられる空間なのだ。この体で感じることの喜びをもっと、多くの子どもたちに体験させてあげたいと思う。また、縦割り活動によって、自分の将来を想像しながら楽しい毎日が続くようになってほしいと思う。
 このキャンプには、ことばの教師でも親でもなく、どもる人でもない人がスタッフとしてかなり参加している。吃音があってもなくても関係なく、人が集まってくる。このキャンプは、温かく人を受け入れてくれる伊藤伸二さん始め、大阪スタタリングプロジェクトのみなさんの人柄と、そこに集まる人たちが「どもってもいい」という雰囲気をつくり出しているのだと改めて感じた。そして、その空間は、スタッフだけでなく、子どもや親など、参加者全員によって作られていることにも気がついた。参加者がスタッフになったり、親になったりしながらキャンプが続いている。そうやって、人と人がつながっている。これからも、このつながりに私も入っていたいので、参加し、一緒に素敵なキャンプにしたい。(「スタタリング・ナウ」2003.10.18 NO.110)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/03/16

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