どもる子どもの交流活動 2

 吃音親子サマーキャンプに参加した先輩の担当者が、通級してきているどもる子どもたちの交流を考え始めました。ビデオと手紙を使ったこのときの取り組みが続いているのです。
 どもる友だちは他にもいるんだよと伝えた1996年の取り組みにつづき、1997年、1998年の取り組みの紹介です。吃音について話し合う吃音の会議も開かれました。子どもたちと相談しながら、柔軟に取り組んでいる様子が分かります。昨日のつづきです。

子どもが自分の吃音と向き合うことができるような活動の工夫~どもる子どもの交流活動を通して~
                  渡邉美穂(千葉市立誉田東小学校ことばの教室)

1997年
ビデオを作成し、どもる友だちに見せ、感想を書いてもらう

 先輩のことばの教室の担当者が、日本吃音臨床研究会の吃音親子サマーキャンプに参加し、担当しているA君と同じ学年の4年生の話し合いのグループに入る。4年生が、話し合いや作文を通して、こんなに真剣にこんなにいっぱいどもりについて語るものなのかと驚いた。キャンプのもうひとつの目玉、劇に取り組む時も、どの子もみんな自分の声、からだ、そして心に必死で語りかけていた。
 「どもってもいいんだよ」とは誰も口に出しては言わないけれど、子どもたちはみんな、そのメッセージを受け取って、力強くなっていく。キャンプに初めて参加した子どもたちは、「どもるのは私だけじないと知ってほっとした」と口を揃えていっている。1対1の指導では、気づけないことはある。どもる子ども同士の交流はできないだろうか。
 「子どもは、自分で答えを持っている。ただ、それを確認する場所がないだけなんだ。この吃音親子サマーキャンプのような大掛かりなことは、到底できないけれど、ことばの教室でもできることがあるはずだ。今通級しているどもる子ども4人はそれぞれ、学校が違うので同じ時間に集まることは、なかなかできないが、ビデオと手紙を使って、まず交流を図ることから始めよう」
 この先輩の思いが、院内小学校の交流活動の最初の一歩となった。
 3年生のYさんは、「大人になってもこのままなのかなと考えると怖い」と言いながら、「将来はアナウンサーになりたい」とも言う。どもることを友だちにからかわれ、とてもつらい思いをしてきているのになぜ、アナウンサーなのか。「番組の途中で、どもってしまってもいいの?」と尋ねると、しばらく考えて、声を張り上げて、「私の声をみんなに聞いてほしい!」と言ったという。どもるから、なるべく人前でどもらないようにしたいとYさんは思っているのではないかとの担当者の思いこみが、Yさんの本当の声を聞いていなかったことになる。「私の声をみんなに聞いてほしい!」という言葉は、吃音親子サマーキャンプで、劇に取り組む子どもたちの姿につながった。みんな自分の声を聞いてほしいから、あんなに夢中になっていたんだ。そんな表現の場をことばの教室でも作りたい。Yさんの夢を実現したのが、『Y家の動物パラダイス』というクイズ番組の制作だった。
 この取り組みから、交流活動が始まり、その取り組みは、院内小学校の担当者が変わっても、引き継がれていくことになる。

ビデオでクイズ番組、お店屋さんで交流
 通級してくるどもる子どもは、Aさん、Cさん、Dさん、Eさんの4人になっていた。4人はそれぞれのペースで自分の吃音に向き合い、担当者に不安な気持ちも伝えられるようになっていた。CさんとAさんは、自分の得意な分野でクイズ番組を作成した。それをビデオに撮り、他のどもる友だちに見てもらい、感想を書いてもらった。間接的な交流だったが、自分の得意なことをどもりながら楽しそうに話す友だちの姿を見た子ども達は、その後、吃音について自然に語るようになった。この交流で、「どもってもいいんだ」という安心感を感じることができたからではないかと思う。

・なんで、ぼく(わたし)だけうまく話せないんだろう。
・友達みたいに、つっかえないでうまく話したい。
・ことばがつまっちゃう。なおしたい。いやだ。
・みんなに、変な話し方だと言われるんだ。

 直接的なかかわりは、なかよし交流会での「お店屋さん」で実現した。クイズ屋をAさん、Cさん、Eさんが、ケーキ屋をDさんが出した。昔から知り合いであるかのように意気投合し、それぞれの店を切り盛りして楽しんでいた。子どもたちの様子を見て、「どもっていい」の安心感のもつ力に改めてハッとさせられた。

1998年
先輩の先生に会いに行こう

 CさんとDさんの通級時間を同じにした。また、AさんとEさんも同じ時間になることがあり、直接会い、遊んだり話し合ったりする機会が増えた。
 「育児休暇に入った先輩の先生に会いたいね」という会話から、みんなで訪問する計画が立てられた。企画をまとめ、しおりを作ったCさん、最寄り駅から先生宅への道順を電話で問い合わせたDさん、電車の時刻を調べて参加者の家に電話で知らせたAさん。それぞれ役割分担をして準備した。子どもたちから、「とても楽しかった」という感想が出された。保護者を含めて、大人と一緒に行動することの喜びを感じたようだった。
 2学期には、Aさんと同学年のBさんが通い始めた。一人で吃音に悩んでいたBさんにとって、Aさんとの出会いは衝撃的であったようだ。すぐに仲良くなり、ことばの教室で毎週会うことを楽しみにするようになった。

吃音の会議
 子どもたちや保護者と相談し、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんの4人を同じ通級時間にした。
 5、6年という高学年になった子どもたちは、どもることに対する思いをことばで表現できるようになってきていた。そこで、Eさんがことばの教室を卒業したいと言っていることについてどう思うか。吃音をどう思うか。このように吃音について話し合う活動をどう思うかなどを議題に、「吃音の会議」を3回行った。友だちの考えを聞いたり自分の思いを伝えたりすることができ、皆「堅苦しいのは嫌だけど、時々話し合うことは自分にとって大切だと思う」という感想であった。その中でいろんな思いが出された。Eさんに対しては、ひとりひとりが手紙を書いた。次のような話が印象的だった。
・自分の学校には、どもる人がいない。
・ことばの教室で、初めてどもる友だちに会った。
・どもる友だちに出会えて、うれしい。
・一生、Aさんについていきます!     (つづく)
(「スタタリング・ナウ」2003.6.21 NO.106)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/02/23

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