継続は力~25回目を迎えた島根スタタリングフォーラム~
明日からの週末、島根県立少年自然の家で、島根スタタリングフォーラムが開催されます。僕は、第1回からずっと参加しています。前日の今日、島根入りをしました。今年で25回目となる島根スタタリングフォーラム、滋賀県での吃音親子サマーキャンプに次いで長寿となりました。
事務局を引き受けることばの教室担当者は変わりますが、大切にしてきたことは変わらず、引き継がれています。文化を繋いできた歴代の担当者に敬意を表します。
「スタタリング・ナウ」NO.96 2002.8.23 の巻頭言は、島根スタタリングフォーラムのことを書いています。明日から始まる第25回のフォーラムの前夜、この巻頭言を紹介します。吃音親子サマーキャンプがまだ13回目の時の文章です。今年は32回目のキャンプだったので、とても懐かしく、自分が書いた文章を読み返していました。
継続は力
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
まさか、ここまで続くとは思わなかった。島根スタタリングフォーラムのことだ。第1回が、予想外の多くの参加者と熱気に包まれて終わった。その終わりの会の余韻にひたりながらスタッフ数人で会場近くのログハウスでコーヒーを飲んでいた時、「やったね!よかった、よかった。じゃこれでおしまい、とするのはもったいないね」という話が、誰からということなく出されていた。その輪の中に、ここまで継続をさせた仕掛け人、宇野正一さんがいた。
ことばの教室関係では、言語障害児の療育キャンプの歴史は古い。全国各地で、毎年キャンプが行われている。しかし、どもる子どもだけを対象にしたキャンプは、私の知る限りでは、これまでは私たちの吃音親子サマーキャンプ以外にはなかった。だから、島根でスタタリングフォーラムが企画され、私も関わることができたとき、本当にうれしかった。吃音親子サマーキャンプの実践が、島根の地に小さな種を落としたような感じがした。だから、続いて欲しいとは願ったが、実際に続いていくとは思えなかった。続けるには、初めて行うのとは質の違ったエネルギーがいるからだ。そのエネルギーが、島根のことばの教室の担当者にはあったことになる。それを宇野さんは、「手弁当、自腹を切ってでも参加したい、いい意味での〈アホ〉なスタッフがたくさんいるからだ」と言う。
さて、4回目のフォーラムのスタート。親のグループは、吃音への思いや、吃音について知りたいことをもり込んだ自己紹介から始まった。ひとり、ふたりと自分を語っていく中で、「うーん。これは何だ?」という不思議な思いにかられた。これまでの3回とは明らかに違う風が吹いていた。余裕というか、温かいというか、安定感といっていいのか。複数回参加している人の顔が、初めての時とは明らかに違っている。その親の雰囲気が全体に影響するのか、初めて参加する人も安らいでいる。つい涙ぐみながら、緊張ぎみに話し、相談会のようだった1回目とは大きく違っている。
このフォーラムが3年の歴史を積み重ねたこともあるだろうが、これは日頃の島根県下のことばの教室のどもる子どもへの思いと指導方針にあると思った。それは、島根と他の地方の実践の違いが親の口から実際に明らかにされたからだ。この春に島根から転居した2組の親子が遠く離れた転居先から参加した。島根にいた時通級していた教室と、引っ越した先の現在通級していることばの教室の方針が大きく違うのだという。平たく言ってしまえば、島根が吃音の症状にとらわれないで、子どもの暮らしを大事にしようという立場なのに、転居先のことばの教室では、吃音の症状の改善、および消失を目指しているように思えるというのだ。島根の方が自分としては方針は合っているので、またそれを確認したくて参加したのだという。
私は、このふたりの親の話を聞いて、新しい風が吹いていたのはこのことだったのかと思った。ひとつの基本理念が、しっかりと親に根差し、違う理念と出会っても、揺るがない。私はうれしかった。
昨年の夏、島根県松江市で、全国のことばの教室の担当者の集まり、第30回全難言協全国大会島根大会が開かれた。その大会テーマが、「子どもたちが自分らしく暮らしていくための支援のあり方」だった。基調提案から、シンポジウム、記念講演と、その基本理念は一貫していた。私がコーディネーターを務めた吃音分科会もその流れに添っていた。「吃音との上手なつき合い方を模索して」と、山口県で始まった「吃音キャンプの報告から」のことばの教室の実践をもとに、大会テーマに添って話し合ったのだった。
その島根の掲げたテーマは、その後、どうなっているのだろう。必ずしも全国的なものにはなっていないのではないか。分科会でも私が主張した、「どもっていても大丈夫。どもっていてもその人なりの充実した楽しい人生は送ることはできる。吃音の症状への取り組みよりも、子どもが自分なりの充実した日常生活を送れるように、子どもをどう支援するかが大切なのだ」も、説明不足もあるだろうが、まだまだ誤解や曲解が多く、理解されにくい。フォーラムに参加した親に出会い、あきらめず、粘り強く、あせらず、丁寧に、そして、繰り返し、主張していく必要があるのだと思った。
私たちの吃音親子サマーキャンプも13年の歴史を積み重ね、島根スタタリングフォーラムも今後、継続していくことだろう。『スタタリング・ナウ』も100号に近づいている。昨年から始めた「臨床家のための吃音講習会」は今年は全国28都府県から参加して下さる。静岡でもこの10月、私を呼んで下さり、どもる子どもたちのためのキャンプがスタートする。
一粒の種は、継続の力で確実に育っている。(「スタタリング・ナウ」NO.96 2002.8.23)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2023/10/20