第33回吃音親子サマーキャンプ 事前レッスン 2 クマが出た!の人との再会

 事前レッスンのスタートにふさわしい、結婚届証人としての署名をしたという、うれしい話を紹介しました。もうひとつ、事前レッスンに入る前に、うれしい話を。

 このキャンプは、どもる大人とことばの教室担当者や言語聴覚士などの臨床家とが協同で行っているものです。どもる大人は、サマーキャンプの卒業生や、大阪吃音教室のリーダーに限定しています。ただどもる人というだけでは参加できません。よく大学生や大学院生が、卒論のために参加したいと連絡をしてきたり、子どもの役に立ちたいと成人の吃音の人からよく連絡がありますが、全てお断りしています。きちっと自分の吃音に向き合い、常に吃音について僕たちの考えを学び続けているに限っています。吃音ワークショップなどへの参加経験があり、毎月のニュースレター「スタタリング・ナウ」を読んでいる人。また、吃音親子サマーキャンプの基本図書である「親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック」の本や「吃音とともに豊かに生きる」のパンフレットを読んでいることが最低の条件です。
 今回も、事前レッスンの少し前に、ひとりのどもる人からメールがありました。その人は、11年前の1月、東京ワークショップに参加した人でした。僕は、その人のことを鮮明に覚えていました。ワークショップでは、いろんな話が出たのですが、「どもってはいけない場」というのがひとつのテーマになりました。近くでクマが出たので、気をつけるように住民に知らせるために、広報車に乗ってマイクでその呼びかけをしないといけないことになったその人は、その場面は、「どもってはいけない場」だと言いました。僕は、「じゃ、あなたがどもって、ククククククマが出たので、注意してくださいと言ったら、住民は本気にしないで、逃げないのですか」と尋ねると「いや、そんなことはないです」と答え、みんなで大笑いしたことを覚えています。「それは、どもってはいけない場ではなく、どもりたくない場でしょう」と、僕は言いました。その彼からのメールでした。あれからずっと、ホームページやブログなどを見て、サマーキャンプにぜひ参加したいと思っていたというメールでした。どもる大人というだけでは参加できないのだと説明しました。なんとか参加したいということなので、最低の条件を話しました。すると、「スタタリング・ナウ」を購読するなどを約束してくれたので、特別に参加をOKしました。
 土曜日の夜遅くまで仕事だった彼は、夜行バスで大阪に来ました。そして、日曜日のレッスンが始まる前に会場に到着しました。あの東京でのワークショップの後、組合の執行副委員長を10年つとめ、今回執行委員長になったとのことでした。あのときのワークショップでの出会いが大きな転機になったと話してくれました。
 演劇の練習にすっと入り、その中で、声を出し、歌い、踊る彼の姿がありました。「一日だけど、参加してよかったです。楽しかった」と彼は、帰り、話してくれました。
 こうして、吃音親子サマーキャンプは、長い歴史を重ねてきました。事前レッスンからして、ドラマの連続です。こんなつながりがあること、本当に幸せなことです。

 昨日、紹介した葵ちゃんのお父さんから、先ほどお礼の電話がありました。「いろいろ心配なこともあったんですが、サマーキャンプでの出会いは大きかったです」と話されました。何か特別なことをしたという自覚はないのですが、僕や僕の仲間の存在が、誰かの支えになったとしたら、こんなにうれしいことはありません。そして、僕は、同じくらいたくさんの人に支えられてきました。その支えで、今の僕があるのだと、心から思います。ありがたい出会いに感謝です。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/07/16

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