『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』(ナカニシヤ出版)をめぐって

 不思議なご縁を感じる岩手県盛岡市での講演会、研修会のことを書いた巻頭言を紹介しました。そのときの「スタタリング・ナウ」2005.5.21 NO.129 では、水町俊郎・愛媛大学教授との共著『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』の本をめぐって受けた、教育医事新聞のインタビューや、本を読んだ感想を掲載しています。今日はインタビュー、明日は感想と、2回に分けて紹介します。

『治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方』
            編著:水町俊郎(愛媛大学教授) 伊藤伸二(日本吃音臨床研究会)
            出版社:ナカニシヤ出版
            定価:2100円(本体2000円+税)

 愛媛大学・水町俊郎教授は当初、吃音の問題を、非流暢性を改善することとして捉え、吃音を行動療法で治療する研究グループに加わりました。しかし、その後、吃音研究を続ける中で、どもる人自身の吃音についての捉え方や生き方をも含んだより包括的な問題として捉えるべきと考え方が変わってきました。この変化は、どもる人との深いつきあいや、どもる人本人を対象にした研究を続けてきたことによって得られたものです。その研究を紹介しながら、吃音とのつき合い方を提案されています。
 伊藤伸二は、吃音に深く悩んだ当事者であり、吃音が治らなければ自分の人生はないと思い詰め、治ることを夢見て、実際に治療に明け暮れた経験があります。吃音が治らずに、どもる人のセルフヘルプグループを設立し、多くのどもる人と出会ってきました。その中で、自らの吃音を含めてほとんどの人の吃音が治らなかったこと、また吃音に影響される人とそうでない人、つまり「生き方」によって吃音の悩みや、吃音からの影響に大きな個人差があることなどに注目し、「吃音はどう治すかではなく、どう生きるかの問題だ」と提起してきました。
 
 これまで、吃音研究者とどもる当事者の共同の取り組みが必要だと言われながら、一冊の本を作り上げるというようなことはありませんでした。この本は、吃音研究者として、当事者として、吃音の取り組みをそれぞれ40年近く続けてきた、水町俊郎教授と伊藤伸二が何度も話し合い、内容や章立てなど全体の構想を考え、ひとつひとつの章に枠組みをつくり、その章を執筆するにふさわしい、吃音研究者・臨床家とどもる子どもの親にお願いしました。この本では、吃音研究者、吃音臨床家、吃音に悩んだ当事者、どもる子どもの親がそれぞれの立場から自らの体験や研究や実践を出し合っています。
 どもる人本人、どもる子どもの親、どもる子どもやどもる人を指導している教師や臨床家、言語聴覚士を目指している学生など、吃音にかかわる全ての人々に読んでもらいたいとつくられた吃音の教科書になっています。
 
  編著者インタビュー   日本吃音臨床研究会 伊藤伸二会長

「吃音とのつきあい方」
「治す」ことから「つき合う」へ  注目される“吃音力”の提唱

 吃音で悩む人は決して少なくない。これに対してこれまではどもらないで流暢にしゃべれるようになることを目標に治療が行われたが、吃音は治すことにこだわらず、どうつき合うかだという独自な考え方のもと、その具体的な方法を展開するのが「治すことにこだわらない、吃音とのつき合い方」(ナカニシヤ出版・2100円)だ。
 編著者の日本吃音臨床研究会会長・伊藤伸二氏は「この本の特徴は、吃音研究者・臨床家、当事者や親がそれぞれの立場から研究や実践、体験をまとめたこと。このように研究者・臨床家と吃音当事者ががっぷり組んできちんと話し合い、まとめ上げた本は世界にも例がないのではないか」と話す。
 伊藤氏は吃音との取り組みを40年近く続けてきた。その中で、治すことにこだわり続ける限り、吃音者の悩みは解決されないことに気づいた。その結果、吃音の問題を「治す」から「どもる事実を認める」へ、さらに吃音とうまくつき合いながらどう生きていくかという「生き方」の問題として大きく意識転換していく必要があると考えたという。
 内容は、吃音を生き方を含む包括的な問題と捉える意義、吃音者の具体的な悩み、吃音者の生活史から考える吃音とのつき合い方、どもる子どものための吃音親子サマーキャンプ、さらに吃音者の就労の問題やことばの教室での実践にもふれている。
 なかでも注目されるのは第6章で提唱されている”吃音力”だろう。
 「これは共著者である故水町俊郎先生の命名で、どもることは確かに不便だったり、不都合な面もあるけれど、吃音に悩むことで見えてくるものもある。吃音は決してマイナスばかりではないというものです。私自身、21歳まで吃音で悩んだ経験があり、このことは身をもってわかります」
 吃音は2~3歳で始まるが、最近は、中学、高校、あるいは社会人になってから始まることも少なくない。ストレスの多い現代社会の影響も考えられるという。
 「本書がそういう人たちを励まし、勇気づけるものになることを願っています。また、ことばの教室の担当教師や言語聴覚士、特に言語聴覚士をめざす学生にはぜひ読んでほしいと思います」と伊藤氏は話している。
                     教育医事新聞 2005年4月25日 第248号

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2024/05/28

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