第6回 伊藤伸二・東京ワークショップ 2018年2月12日 ~考えること、語ること、選ぶこと~

 毎年、1月に、東京で開催している、伊藤伸二・東京ワークショップ。僕は大阪に住んでいるので、関東地方の方と直接お会いできる貴重な機会になっています。朝10時から夕方5時までの一日ワークショップなのですが、毎年、中身の濃い時間になっています。
 今日は、「スタタリング・ナウ」2018.6.21 NO.286 より、第6回の東京ワークショップでの様子を紹介します。中学生との対話でした。

  第6回 伊藤伸二・東京ワークショップ  2018年2月12日
     ~考えること、語ること、選ぶこと~

 参加者ひとりひとりの自己紹介の後、今回、親子で参加した女子中学生との面接が始まった。昨年秋、吃音ホットラインに電話をかけてきた中学生との話は、2時間も続いた。紙面の都合で、この4倍以上あった話を縮めたが、周りの参加者がしっかりとその場を支えてくれたことで、ときに大笑いしながらも、真剣に自分をみつめていく時間に同行できたことは幸せなことだった。
 冒頭、伊藤は、このように面接の口火を切った。

伊藤 大勢いる場で自分を語るのは勇気がいることです。周りの皆さんはしっかり聞いて、場を支えて、しスポンスをして下さい。人が変わっていく要素には応答性があり、応答してくれる人と、安心して話せる場が必要です。共感だけでなく、聞いて自分がどう感じたかを伝えて下さい。
 さて、今から質問します。答えにくいことは答えなくていいですが、せっかくの機会なので、できるだけ挑戦してみて下さい。
 小学2年と6年の、どもってくやしかったできごとを話してくれましたが、中学2年生になっている今から出発しましょう。

由佳 中2になって、音読や号令でどもりがひどくなりました。「どもる」ということばは知らなかったんですが、母に教えてもらいました。両親が、今まで「どもり」について話さなかったのは、小さい頃に言うと、よけいにひどくなるとネットに書いてあったのと、(母親に)保健所だっけ、

母 小さいときに、そこそこどもるので、保育園に相談したら、福祉課のことばの先生が面談に来て、「どもっていると言わない方がいい」とアドバイスを受け、そのとおりにしました。小学校のときの辛い思いも知らなかったし、中学2年生になって、ほんとに辛いのだと本人から聞いてびっくりしました。大きくなったら治ると思っていました。

由佳 9月に、親に辛いと話したら、伊藤さんの『どもる君へ いま伝えたいこと』(解放出版社)の本を買ってくれ、「吃音」のことばを初めて知りました。それで私は、「吃音があるから、上手にしゃべれないと、クラスの子に伝えたい」と、先生に言ったら、「どもるんなら、黙ってろ」と言われて、そのときは、辛くて辛くて。

伊藤 教師のそのことばを、あなたはどう翻訳したの? どういうふうに受け取ったの?

由佳 「みんなの前で、どもることを言うな」、「どもりそうだと思ったらしゃべるな」と言われたと思ったので、先生に、「なんで、そういうことを言うんですか」と聞いたら、言うと、いじめられるかもしれない、絶対言うなと言われた。

伊藤 絶対と言ったの? 隠せということだね。

由佳 そう。「国語も英語も音読した時どもったら、その時にとばすから」と言われた。

伊藤 どもったら、ぱっと他の子に移るの?

由佳 それじゃ、不自然じゃないですか。泣きじゃくりながら、先生と4時間くらい話していた。はじめ、保健室で保健の先生に、吃音があるんですと言ったら、担任の先生が呼ばれて、その先生に話して、先生は授業があるから、今度は、他の先生が来て、「吃音あるなら、黙ってろ」と言われた。悔しすぎて、学校で泣き叫んで、「なんでなんですか」と言ったら、他の先生に回された。私は、ずっと泣きながら、「なんで、黙ってろと言うんですか」と聞いても、答えてくれない。いじめられるかもしれないからと言われても納得いかないから、「なんでですか」と言い続けた。担任も他の先生も学年の先生もみんな、「そうだなあ、黙ってた方がいいなあ」と言いました。

伊藤 ははは。最高やね。すごい学校だね。

由佳 しかも、その黙ってろと言った先生は、国語の担任で、私のどもりに気づいているはずなのに、気づいていないと言って、悔しくて。

伊藤 入れ替わり立ち替わり来た先生たちの対応で、大人はまともに対応してくれないと思ったんだね。海しいよね。

由佳 はい。めちゃくちゃ悔しかったです。

伊藤 こんなに悔しかったのに、その日一日、終われたのはどうしてですか。

由佳 先生に言ったのは午後で、それから帰るまで泣いていた。授業に戻ると言っても、「待ってろ。お前は絶対クラスの前で言うだろ」って。

伊藤 スイッチを切り替えて授業に出ようとしたのに、授業に出たら、自分のどもりのことを言うだろうから、それをさせないように、ですか。

由佳 そう、そんな感じです。

母 後で、担任の先生から電話で、「泣いていたので、何を言い出すか分からないから、保健室にいてもらった」と言われた。逮捕、監禁みたい。中1のときまでは、すごくはつらつとしていたのですが、先生不信になり、本人の努力不足が一番ですが、坂を下るように、何もしない、課題も出さない、みたいになってしまって。それが中学2年生の9月で、その時、本の中に書いてあった電話番号をみて、伊藤さんに電話をしました。

伊藤 しんどい最中だったんだね。学校には?

由佳 今は行ってます。でも、ちょっと前までは、なかなか行けなかった。

母 9、10、11月あたりは、お腹が痛いとか、頭が痛いと言って、ちょいちょい休んでました。

由佳 親に学校まで送ってもらっても、やっぱり無理だと、泣きながら帰っていました。でも、最近は、出席日数が足りないと進級できないので、

伊藤 しんどいけど、行ってるのね。そういう状態をクラスの子たちは、受け入れてくれてるの?

由佳 はい。仲のいい子には、真剣に話したら、どもるのはうすうす気づいていたけど、全然大丈夫だよと言ってくれて、そこそこ仲いい普通の友だちは、「OK、OK」と適当に流してくれてます。私がどもったら、何言いたいのと聞いてくれるし。

伊藤 友だちに恵まれていると思うんだね。学校には、嫌な先生がいるけれど、友だちはいるので、今、行けてるという感じなのね。9月の電話で、近くの県のことばの教室の先生を紹介して、相談にのってくれていたんだよね。その人から12月に「今、大変な状態で、学校にも行けていない日があるので、私だけでは対応ができないから、伊藤さん、電話をかけてやってほしい」と電話があったんだよ。話は聞いてもらったの。

由佳 3時間くらい聞いてもらいました。

伊藤 僕の方からは電話はしないが、彼女から電話があれば、対応すると話をした。12月の新・吃音ショートコースに来てもらえれば、対応できると思ったけど、ちょっと遠いし、今日、東京に来ることになったんだね。強いね。

由佳 はははは、強いんですかね。

伊藤 僕なら持ちこたえられない気がするな。

由佳 伊藤さんに紹介してもらったことばの教室の先生が、中2の男の子を紹介してくれて、その子にメールを送ったら、返信が来て、私もがんばろうと思えて、そこそこがんばっている。

伊藤 ひとりで、お母さんと問題を抱えていたら、しんどかったねえ。でも、自分のことは自分でなんとかしようと、お母さんにも相談をしないで、自分から僕に電話をかけてきたことは、すごいと思ったね。

由佳 はあ、そうですか。

伊藤 11月がどん底で、3時間話をして、それで、だいぶん楽になったの?

由佳 はい、楽になりました。

伊藤 そのときに、もう、どもりのことは考えるのはやめて勉強しようと思ったの?

由佳 いいえ、最近です。1月ぐらいに。

伊藤 1月、何かきっかけがあったの?

由佳 私が、ラインで、学生の吃音グループを作ったんですよ。りょう君とかも。(東京ワークショップに参加している若い男性の方を見て)

伊藤 えっ、知り合いなの? 今日初めて会ったみたいだけれど、ラインでは知り合いだったの?

由佳 そう。吃音親子サマーキャンプに行っている女の子とかも入ってる。最初はあまりやりとりしなかったんですけど、ほかの子がグループ内で相談したりするのを聞いていると、私もがんばらないと、と思うんです。みんな、勉強をものすごいがんばっていたり、野球や音楽をがんばっている子がいて、吃音ばっかり考えてはいられないと思った。

伊藤 そのグループって、何人くらいいるの。

由佳 27人くらい。全国的です。

一同 ほう、すごいな。へえ。

伊藤 すごいね。そういう時代になったんだねえ。

由佳 学生同士だし、同じ吃音を持っているから、勉強で分からないところとかも教えられるし、学校でいじめられてるとか、吃音、どうしようとか、そういう相談もたまにあって、なんかいいグループを作ったなあと思う。

伊藤 グループの創立者なんだね。僕と一緒だね。創立者はがんばらないとな。新しい世界を知ることができて、よかったです。
ところで、将来、何、したいの?

由佳 結構迷っていて、医療系なら、一応言語聴覚士。他のなら、メイクアップアーティスト、スタイリストとか。

伊藤 全然ジャンルが違うね。

由佳 自分が好きで、楽しんでできると思うのは、メイクアップアーティスト系。自分は吃音を持っているし、ちょっと違うかもしれないけれど、同じような人をサポートできるかなあと思えたのが言語聴覚士。今、迷っています。言語聴覚士の仕事は、中2の英語のスピーチで話しました。吃音のことを言ういい機会だと思ったから。

伊藤 私はどもりますと言うよりも、言語聴覚士という仕事があります。これを選んだのは…という言い方は言いやすいね。言語聴覚士も、自分の選択肢としてはありかなと思ってるの?

由佳 そうですね。木曜日に、将来の夢をみんなの前で発表するので、一応言語聴覚士について書いて、ちょっとだけ、なりたい理由のところに、自分は吃音をもっていて、うまくしゃべれないからというのを書いたんです。

伊藤 現実的にも言語聴覚士になりたいと思うのね。すごくどもることがあっても、言語聴覚士として、やっていけそうな予感がするの。

由佳 勉強をがんばって言語聴覚士になれたら、同じ吃音をもっている人が来たら、自分の過去というか、自分の経験を話したり、ちょっとサポートできるかなと思って。

伊藤 営業職、教師、言語聴覚士も作業療法士も、話すことの多い仕事だよね。そういう話すことの多い仕事に抵抗はないの?

由佳 特にないです。どもったらどうしようとは思うけれど、でも、どもることは非日常的なことではないじゃないですか。

伊藤 うん、日常的にどもっているわけだね。

由佳 だから、いちいちどもってることを気にしてしまうと、どんどん疲れてしまう。それではだめだから、どもることは自分には当たり前のこととして、やっていけばいいかなと思ってる。

伊藤 そう考えたら、言語聴覚士の仕事もできそうだね。僕は言語聴覚士養成の専門学校や大学で、多いときには、8校、掛け持ちで教えてきたことがあるけれど、学生の中に必ずどもる人がいた。昨日、専門学校で教えている教員の言語聴覚士と会ったけど、どもる人が、一学年に3人いて、困ったもんだなあと話していたんです。なぜ僕たちが困ったもんだなあと言っていたか、想像してみて下さい。

由佳 えーっ、なんで? まだ自分が吃音を持っているということを、100%受け入れられていない人が言語聴覚士になって人を助けたりするのは早いんじゃないか、みたいなことですかね。

伊藤 ほう。なるほど。よく気づきましたね。100%受け入れている必要はないけれど、吃音の悩みをそれなりに消化していないと、自分の「悩みのレンズ」でどもる子どもやどもる人をみてしまう。また、自分が経験しているので分かったような気になってしまう。これはとても大きな問題です。吃音はひとりひとり違うので、本人にちゃんと話を聞いて理解しなければいけないのに、どもる人はそのプロセスを自分の経験でスルーしてしまう。また、自分の吃音を治してほしいからと来る人も中にはいたので、しっかりと考えてからにしてほしいと話していたんです。

由佳 その話、とても分かる気がしました。

伊藤 職業の選択を含めて、僕たちは、正解は一つではなく、常に複数の選択肢があると考えている。これからの人生でも常に頭に入れておいてほしい。たとえば、いじめられて、どうしようもなくなって死を選ぶ人もいるかもしれないけれど、それ以外に、たくさんの選択肢がある。どんな選択肢が考えられますか。

由佳 死ぬのは、絶対だめですよ。自傷もだめ。暗くなったり、落ち込むのは別にいいと思う。

伊藤 暗くなったり、落ち込むのはいいの。

由佳 ずっとポジティヴに考えることもできないじゃないですか。だから、同じ思いをしている人に相談したり、親とか大人の人に恥ずかしがらないですぐに相談した方がいいと思う。

伊藤 なるほどね。僕たちは、窮地に陥ったり困ったり悩んだりすると、自分をどう助けるか、どう抜け出すか、生き抜くために考える。そのときに、たくさんの選択肢を出す訓練を、日頃から結果として、していることになるという点で、どもる人は有利だと思うね。ほかには?

由佳 いじめられていることを、なぜそうなったか考えて、自分は100%悪くないと思ったら、反抗すればいいと思う。

伊藤 いじめられている現状を研究するわけだ。

由佳 たぶん、いじめている人の中には、いじめられて泣いたり悲しがったりするのを見るのが楽しいという人もいると思うから、自分が悪くないと思ったら、いじめる側に聞いた方がいい。そうすれば、そんな質問が返ってくるとは思っていないから、相手もびっくりするし。いつもと違う自分を出せば、相手にもちゃんと伝わると思う。私、小学校のころ、すごく静かな子だったんですよ。だけど、応援団に立候補したんです。みんなびっくりするじゃないですか。しかも、誰よりもでっかい声で「よろしくお願いします」と言ったんです。みんなびっくりして、私を選んでくれて、応援団になれたんです。いつもと違うところを出せば、いいのかなと思う。人に伝わると思う。

伊藤 不意打ちを食らわされるね。いつもいじめられていて、しゅんとなっている人間が、急に、そうじゃない形で来たらね。ほかには。

由佳 あきらめるというか、そのまま病み続けるというのもありだと思う。

伊藤 病み続けるね。いじめられて、落ちこんでいる自分のまま、落ち込み続ける。

由佳 たぶん、そのうち、相手もだめなんだなと思えると思うから。

伊藤 なるほど。向こうの目的は、相手を落ち込ませることにあるから、長く落ち込んでいたら、それでもう満足して、やりがいがないと思って、やめるかもしれないということですか。かしこい方法だね。他には?

由佳 あとは、逃げる。

伊藤 いいね。合格! 選択の中に、逃げるが出てきて、僕は良かったと思う。この選択肢を持っていることがすごくいい。死ぬよりは逃げたらいい。変な学校だったらやめればいいし、転校すればいい。極端に言えば、学校に行かなくても、大学も受験できるから、しんどい所に居続けることはない。今の中学校は、あなたにとっては、居続けてもいい所なんだね、あと1年間だけど。

由佳 よくない。居続けてもいいけど。自分の学力とかクラスとか先生とかのことを考えて、学校を変えたいなという気持ちがある。

伊藤 学校を変えるのは、すごくいい選択肢だね。

由佳 でも、そうするなら、塾の先生には3月までには決めないといけないと言われているし、受験勉強もがんばらないといけない。3月から、模試も始まるし、勉強しないといけない。

伊藤 今の中高一貫校の高校は、いい高校なの?

由佳 たぶん。勉強がどんどん難しくなってくるし、中3の最後の時点で、そのまま中高一貫校の高校に行くのが難しいと思われたら、先生からやめて下さいと言われてしまう。先生にそう言われないようにがんばっている。

伊藤 その高校は、大学へ進学するのに有利な高校なの?

由佳 中高一貫校で、中3年で、中3と高校の勉強をして、どんどん進む。中学校と高校が同じ校舎で、中学校の卒業式も高校の入学式もない。

伊藤 選択肢として、今の一貫校の高校へ行く他に、別のどんな高校の選択があるの? 大学受験という目的で考えるとどうですか。

由佳 一応、偏差値が、45から50くらいまでの学校には行きたいんです。

伊藤 具体的に、通える範囲であるの?

由佳 いろいろ調べているんですけど、遠かったりして。地元の高校にはできれば行きたくないんです。今はバス通学で30分、バス停から学校までは10分です。

伊藤 それじゃ、それほど大きい負担ではないね。今の気持ちとして、割合でいくと、未知な世界なんだけど別の高校に行くのと、将来の就職や大学のことを考えて今の一貫校のまま行くのと、どんな割合なの。

由佳 別の高校受験をして学校を変えたいという気持ちは6くらい。続けたいは4くらい。だけど、このままの学力じゃ、受験は失敗しそう。

伊藤 他の高校へ行こうとすると難しいけれども、一応、中高一貫の高校には行けるわけね。

由佳 はい。でも、学校を変えたいという気持ちがある。でも、あまり偏差傾が低すぎる高校だと、私は、遊んでいる子たちと一緒になって遊んでしまって、勉強しなくなりそうだと思っている。

伊藤 今の高校よりも偏差値の高い高校は?

由佳 ありますけど、それは、厳しいです。

伊藤 じゃ、それは無理と考えよう。偏差値の低い高校に行ってしまうと、なまける生活習慣が続いて、どんどん落ちていく可能性がある。

由佳 はい。そう思います。

伊藤 じゃ、今、6:4と言ったけれども、6:4が逆転して、このまま行くのが6、別の高校に行くのが4になるには、何が変われば、6:4になりそうですか。周りの環境が変わるもあるし、自分自身が変わるのもある。どういう条件があったら、6:4で、このまま行ってもいいかな、になるだろうか。

由佳 このまま、受験しないで高校に上がるとしたら、まずは勉強をがんばる。あと、担任の先生を変えてほしい。

伊藤 それは無理でしょう。変わらないでしょ。

由佳 そうですね、変わらないですね。変わりませんね。

伊藤 どうしようもない先生がいる高校だけど、今の話では、受験を選択すると、今よりも偏差値の高い所へは行けない。低い所へ行くとなまけてしまいそうだという不安もある。となると、今のままでいった方がよさそうな気がするけど。今のままで行くとしたら、どういう対策を立てるかだね。いつもがんばることなんて人間はできないので、がんばるところはがんばるし、がんばらないところはがんばらないという、めりはりをつけないといけない。
 さて、今までのところで言い残したことは。

由佳 めっちゃ言いました。言い過ぎたかも。

伊藤 では、10分間休憩して、彼女がこれからどうするかを考えましょう。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/09/27

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