来たるべき対話に向けての二日間の対話 3「~第6回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会~  子どものレジリエンスを育てる―ともに育む哲学的対話―」報告

 昨日のつづきです。
 昨日は、ことばの教室の〈対話をキーワードにした実践〉をいくつか紹介しましたが、今日は、ことばの教室担当者ではない人の実践を紹介します。国語科教育を研究している関西学院大学准教授の原田大介さんです。原田さんは、吃音ショートコースにも、吃音親子サマーキャンプにも参加したことがあります。大野裕さんとの公開面接は、『ストレスや苦手とつきあうための 認知療法・認知行動療法 吃音とのつきあいを通して』(金子書房)に載っています。
 また、吃音講習会の顧問である、国立特別支援教育総合研究所の牧野泰美さんの基調講演の報告も紹介します。
 では、「スタタリング・ナウ」2018.5.21 NO.285 より紹介します。

来たるべき対話に向けての二日間の対話 3
「~第6回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会~
  子どものレジリエンスを育てる―ともに育む哲学的対話―」報告
2017年7月29、30日  於 大阪市・ホテルアウィーナ大阪
      坂本英樹(どもる子どもの親、教員、NPO法人大阪スタタリングプロジェクト)

⑥「国語科教育の限界と可能性」
                         原田大介さん(閨西学院大学准教授)
自己紹介から
 原田大介さんはどもる成人として吃音親子サマーキャンプに2度、認知行動療法の大野裕さんを迎えた吃音ショートコースに参加している。ショートコースでの大野さんによる原田さんとの公開面接は「ストレスや苦手とつきあうための認知療法・認知行動療法―吃音とのつきあいを通して」(金子書房)で読むことができる。
 発達障害もある原田さんは授業という空間、構造になじみにくかった自らの学校生活を振り返り、いま大学で自身の著書名でもあるが「インクルーシブな国語科授業づくり」(明治図書)を研究している。

サマキャンはことばの教育だ!
 この講習会のテーマである対話は国語教育的には「伝え合う力」と理解することができる。それを身につけるための話し言葉や書き言葉のバーバルな教育の重要性が強調されるが、保育や幼児教育の世界に触れることから教職に就いた原田さんは身振りや表情、声などの身体的なノンバーバルな表現もことば、言語なのであり、両者は連続しており、相互媒介的に補完しあうと指摘する。
 原田さんは国語科教育における文学作品の読解を通して、その子どもの抱える生きづらさを表現し、他者と共有する授業空間を創造することをイメージしている。この論理をかりれば、どもりキャラクターやどもりカルタというノンバーバルな要素のある表現が、作品を作った子どもにそれを通した豊かな語りというバーバルな力を呼び起こす一方で、通級に来る他の子どもがその作品について自分の意見を述べることでそこにその本人自身の課題が反映されていく構造がことばの教室にはあるだろう。外在化されたものを通して自己を語ることは課題に向き合いやすい、語りを引き出しやすい方法である。
 この仕掛けを最大限に活かしているのが吃音親子サマーキャンプだ。参加者同士の関係づくりから始まり、話し合いと作文というバーバルと芝居と登山というノンバーバルな表現が交換するキャンプはことばの教育のヒントに満ちていると原田さんは語った。

基調提案②「ことばの教室の実践を基にした〈対話〉を巡る考察」
           牧野泰美さん(国立特別支援教育総合研究所上席総括研究員)
吃音臨床の前提
 ネガティヴ・ケイパビリティという不確実であいまいな状況に耐える力の重要性が伊藤さんの基調講演で提起されたが、現在も吃音はその原因、治療法とも明らかになっていない。
 吃音は本人、親、関わる人たちにとっては、この能力がレジリエンスとして求められる現象として理解できるだろう。ところが、ことばの教室の担当となったからには、ことばやスピーチについて何かしなければならないという考えにとらわれてしまう人がいるのも確かなだ。そこに既に担当者の吃音への一定の意味づけ、価値観が入っていると牧野泰美さんは指摘する。

学習指導要領から
 今回は学習指導要領を振り返ることから、牧野さんはことばの教室のあり方を整理した。「通級による指導は、…障害に基づく種々の困難の改善・克服を目的とする指導」であると規定されている。指導要領には吃音自体を改善すべきとは書かれてはいない。吃音の影響から学校生活に生じた何らかの苦労や苦手に取り組み、子どもの「自立活動」を促すのが通級なのである。担当者はそれぞれの子どもの工夫や吃音についての考え方を深めるための対話相手という同行者、同伴者という役割である。横浜の土井さんが立ち上げた自分研究所というスタンス、当事者研究の場がことばの教室である。

日々の研究所活動について
 子どもが否定的な吃音観を持っているとすれば、それは子どもと親や友だち、教員、その他諸々の人たちやテレビなどの影響、関係の中で形成されたものである。その関係を作り直していく地道な研究活動がことばの教室である。学校教育はともすれば将来に必要な力を身につけることばかりに専心するが、将来身に付く力でいまを生きることができるはずがない。
 いまはいまの手持ちの力で生きるしかないのである。どもりが軽くなれば何々ができるを夢想するのではなく、どもりながら何々ができるを研究、実践していくこと。その関係性の中で子どもの力がついていくのである。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/09/23

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