子どもとの哲学的対話

 いろいろな分野で、対話、哲学的対話が言われるようになりました。
 僕は、吃音も、対話、哲学的対話が大切だと考えています。1965年、セルフヘルプグループを創立して以来、僕は、セルフヘルプグループの中で、対話、哲学的対話を続けてきたと考えています。だから、当初の「吃音を治す」から「吃音を克服する」になり、「吃音と上手につきあう」に変わってきたのです。大阪吃音教室も対話の場であり、吃音親子サマーキャンプをはじめ各地での吃音キャンプで出会う子どもたちとも、対話を続けています。
 子どもたちとの対話は新鮮です。今年度も、子どもたちと対話を続け、考え続けていきたいと思います。
 今日は、「スタタリング・ナウ」2016.11.22 NO.267 より、まず巻頭言を紹介します。

  子どもとの哲学的対話
                       日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 静岡、岡山、島根、群馬、沖縄と5週連続した吃音親子キャンプが終わった。どもる子どもと保護者、それを支えることばの教室の教師や言語聴覚士との対話の旅だった。
 「吃音は治せない、治らない」からこそ、考え、取り組まなければならないことが多い。今年の秋の吃音親子キャンプロードで、たくさんの魅力的な子どもたちと出会った。子どもたちとの、「哲学的対話」の中の、ごく一部分を紹介する。

 「吃音はほかの病気になりやすいですか」
 3年生の、こんな質問を受けたのは初めてだ。なぜ、そのようなことに興味をもったのかなど、いくつかの対話の後、私は子どもにこう話した。
 「どもりは、ほかのからだの病気になることはないけれど、どもることは悪いこと、恥ずかしいことだと考えていたら、だんだん消極的になっていく。消極的って分かるかな。本当はこんなことをしたいのに、どうせ僕はどもるからできないと、すぐにあきらめてく〈しないしない病〉になってしまう。僕はこの〈しないしない病〉にかかって、小学校、中学校、高校と、勉強もスポーツも友達との遊びもしなくなった。今でも悔しいし、損をしたと思う。君たちにこんな病気にはかかってもらいたくない」

 翌週のキャンプでは、その質問を、グループの話し合いの時、子どもたちに投げかけた。
 「吃音をいけないことだ、恥ずかしいことだとあまりにも強く考えすぎると、かかってしまう病気があります。どんな病気でしょうか」
 小学5年、6年生の子どもたちは、「そんなのないよ」と言いながらも、考えていた。
 「ストレスで心の病気になる」
 「心の病気って、どんな病気?」
 「ウーン、分からないけれど、すごく悩むこと」
 「そうだね。すごく悩んで、苦しくて、心の病気になった人がいます。みんなは知らないだろうけど、スキャットマン・ジョンという有名なミュージシャンはふたつも病気になったんだよ」
 「お酒を飲みすぎるとか?」
 「そう。ジョンは、お酒と麻薬をやめられなかったんだ。麻薬って知ってる?」
 「知ってるよ。野球の清原選手」
 「ジョンは、どもるかもしれないという不安が大きくて、お酒と麻薬をやめられなかった。でも、やめることができた。どうしてだと思う」
 「仲間と出会ったから、やめられたと思う」
 「そうだね。お酒と麻薬はやめることができたけれど、どもることは自分の力ではやめられなかった。そこで、ジョンはどうしたと思う?」
 「どもってもいいやと思った」

「伊藤さんは、どもることで困ったことはありますか」(4年生)
 「君は、どんなときに困るの」
 「学校の授業での音読のとき」
 「そうか。僕は困らなかったよ。なぜだと思う」
 「あまりどもらなかったから?」
 「ちがうんだな。僕は小学2年生の秋、どもりに悩み始めてからは、発表も音読もせず、話すことから逃げてばかりいたから、困ることはなかった。でも君は、逃げずにがんばって音読しているから、どもるし、困るんだ。僕はみんながしていることができなくて悔しかった。だから、治したいと、すごく悩んでいた。困っても、逃げないでいたら、だんだんとできるようになる。困ることは、がんばろうとしていることで素敵なことなんだ」

「どうしたら、勇気が出ますか」(3年生)
 「君が、勇気がほしいのは、どんなときですか」
 「みんなの前で発表したいとき」
 「そんなとき、もっと勇気があったら発表したのにと思うんだね。勇気が出ないとできないと思っているのかな。でも、勇気が出るまで待っていたら、いつできるか分からないよ。勇気がないまま、嫌だなあと思っても、したいことやしなければいけないことは、『えい、やあ』と、していくんだ。勇気があればいいなあと思っていることが、もう勇気に近づいている。していくことで、失敗したと思っても、がんばったことはすごいことだ。勇気は練習して身につくものではなくて、行動することで、後からついてくるものなんだよ」

 子どもからの質問に、私は考え、応え続ける。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/05/23

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