吃音ショートコースの21年 

2015年の最後の吃音ショートコースの報告を紹介します。「スタタリング・ナウ」2016年9月20日 NO.265に掲載された報告は、大阪の西田逸夫さんによります。これまでの吃音ショートコースを紹介しながら、最後のショートコースの報告をしてくれました。吃音ショートコースの歴史がまとめられています。

2015の吃音ショートコースの21年
            西田逸夫(大阪スタタリングプロジェクト、64歳、団体職員)

◇最後の吃音ショートコース

 2015年11月、第21回で最後となった吃音ショートコースは、過去20回の吃音ショートコースでの学びと体験が、どもる私たちの生活、人生にどのように役立ったかを振り返り、整理する目的で開かれた。そこで、テーマを、「エンパワーメント」とし、講師に、長年、大阪セルフヘルプ支援センターで共に活動し、私たちの活動を第三者の立場から見守って下さっていた、障害者福祉が専門の、元東洋大学教授の北野誠一さんにお願いした。
 3日間のプログラムは「出会いの広場」での「自己開示フルーツバスケット」から始まった。これは、”鬼”が何らかの自己開示をして、それに当てはまる人が立ち上がって移動する椅子取りゲームだ。最初の鬼がたまたま北野さんだった。自分のちょっとした癖や兄弟関係など浅い自己開示から始まり、だんだん深い自己開示に進むのが通例だが、北野さんはいきなり深い自己開示をされた。勢い、後に続く鬼役も深めの自己開示になり、吃音と自分の人生を振り返る、最後の吃音ショートコースに相応しいスタートとなった。
 前半は、「吃音とうまくつきあうための実践地図」と題して、伊藤伸二さんを進行役に、参加者一人ひとりが思い出す過去20回のテーマや、キーワードをもとに、「吃音とともに豊かに生きる」ことに自分が実際にどう活かしてきたか、また今後活かすことができるかを話し合った。この振り返りに、”同行”した北野さんは、ご自分の活動経験から感じたことや考えたことを、要所々々でレスポンスをして深めて下さった。発言者の丁寧な報告に加えて、複数の人の感想や、解説なども加わったために、参加回数のそれほど多くない私にとっても、参加できなかった時の吃音ショートコースのことを知ることができた。その回に参加できなかった人がくやしがり、私も持っていない、日本吃音臨床研究会の年報を買って読んでみたいという気持ちになった。吃音ショートコースがすべて記録され、4冊の書籍と20冊の吃音専門雑誌として年報が残っているのはありがたいことだと思う。
 後半は、「エンパワーメント」をテーマに、北野さんが、ご自身の生い立ちから現在までの人生経験を含めて、深い話をして下さった。夕方と夜の「エンパワーメント」の講義では、北野さんの障害者福祉での実践を紹介して、人が生きることを支援することについて、人を支えるとは何かについての意味を再考された。「(支援者によるエンパワーメントに支えられて)当事者本人が本人らしく生きることが、周囲の人たちへのエンパワーメントになる」という「相互エンパワーメント」論、当事者同士が互いの存在を認め、「ありのままに生きることを受け止め合う」ことが大事だというセルフヘルプグループ論は、私たちの活動に新しい光を当てるものだった。

◇「実践地図」のたくさんのキーワード

 1996年の竹内敏晴さんの、「情報伝達のことばと自分を語ることば」や、「からだのこわばりに気づくことが大事」。1997年の平木典子さんの、「基本的アサーション権」や「I(アイ)メッセージ」など、参加者が次々と発言した。各講師の人柄や、その回のエピソードも語られ、大きな笑い声が飛び出したりもした。吃音ショートコースでの学びをその後の日常生活にどう活かして来たかなどの体験談も交え、楽しさの中に参加者が今後の人生に活かすことのできる充実した振り返りとなった。
 私と同じく「一番影響を受けたのは1999年の論理療法のショートコースだ」という人も、「選択肢を増やすという考え方に惹かれた」など、私とは異なる影響を受けた人がいて、21年間を通して学んで来たことの幅広さを物語っていた。
 振り返られたキーワードのうち、複数の人が体験を通して取り上げたものを列挙してみよう。
 「選択肢をたくさん持つ」(石隈利紀さん、1999年、論理療法)、「過去と他人は変えられない」(杉田峰康さん、2001年、交流分析)、「マイノリティ感覚を大事に」(鴻上尚史さん、2002年、演出家)、「スキーマと自動思考」(大野裕さん、2006年、認知行動療法)、「共同体感覚」(岸見一郎さん、2009年、アドラー心理学)などが話題となった。
 「吃音実践地図」の話し合いで、私が気づいたことや実際に体験してきたこと、日頃考えていたことを、4つのキーワードにしぼってまとめる。

①外在化
 2004年の諸富祥彦さん(トランスパーソナル心理学)では「心の虫の声を聴く」というセッションで、自分が欠点と思うことに名前をつけ、別の視点で見直した。こうした「外在化」の技法は、2011年向谷地生良さんの自分の悩みや課題に名前をつける(当事者研究)ほか、何人もの講師によって、形を変えつつ取りあげられた。何かの問題に取り組むのに、吃音ショートコースの各回のどのアプローチを採用するにせよ、問題の客観視を容易にする外在化の技法が、極めて有効なのだろう。

②マイナス感情への対処
 「吃音とともに豊かに生きる」ことを目指すとき、自分の抱えるさまざまな問題に向き合う中で、時として湧き起こるマイナス感情に直面することは避けられない。マイナスの感情が湧き起こったときの対処法は、どの吃音ショートコースでも幾分かは示されていたのだが、明確な形では2003年のディビッド・レイノルズさん(建設的生き方)や、2006年の大野裕さん(認知行動療法)の講義の中で取りあげられた。そこで出て来た対処法の一つ、「身の回りの物を一つひとつ観察する」は、2012年の倉戸ヨシヤさん(ゲシュタルトセラピー)の教えの“想像と観察”にもつながっている。

③日常とのつながりを保つこと
 吃音ショートコースでのセッションがその場だけの熱狂に陥らないよう、各回の講師は、日常とのつながりを保つことに留意していた。村山正治さん(2007年、パーソンセンタード・アプローチ)はそれを、エンカウンターグループ運営の基本として強調されていた。増野肇さん(2010年、サイコドラマ)と倉戸ヨシヤさん(2012年、ゲシュタルトセラピー)は、セッションで少しでも参加者の心を開いた場合、どんなふうに「閉じて」終わりにするのか、身をもって見せて下さった。日常生活からかけ離れた「自己啓発セミナー」のような急激な変化を目指すものではないからだ。

④“いま、ここ”を生きること
 「“いま、ここ”を生きる」は、ゲシュタルトセラピーはもちろん、交流分析でもアサーションでも中心的概念であり、アドラー心理学でも核になっている。竹内敏晴さん(1996年、2008年)が重視しておられたことでもある。技法としては過去を振り返る内観療法(2003年、2013年)でさえ、母親なら母親との間で過去にあったことを振り返り、今から先自分に何ができるかを考える。20回の吃音ショートコースから学んだ最大のものは、「“いま、ここ”を生きること」かも知れない。(つづく)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/05/16

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