レジリエンスを探る

 21年間続いた吃音ショートコースという2泊3日のワークショップ。ジャンルの幅広さと、毎年のテーマに沿った、その道の第一人者の講師陣に、今になって、我ながら感心しています。 その人たちと、僕は、ワークショップの最終日に対談をしてきました。吃音を通して、であったとはいえ、どんな展開になるか、何が飛び出してくるか、分からない対談でした。緊張したけれど、楽しかったなあという思いでいっぱいです。
 その中で、二度、対談をしたのは、石隈利紀さんだけです。石隈さんとは、波長が合い、対談は二回とも、時間を忘れるくらい、楽しい時間でした。その中で、石隈さんは、僕のレジリエンスを共に探ってくださいました。しっかりと聞いてくれる聞き手の存在が、新しいレジリエンスの発見につながりました。
 「スタタリング・ナウ」2016.7.20 NO.263 より、まず巻頭言を紹介します。

  レジリエンスを探る
                      日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 21年間続いた、吃音ショートコースと名づけたワークショップでは、精神医学、臨床心理学、教育学、演劇など様々な領域から学んできた。最終セッションは講師として来て下さった方と私との対談が組み込まれていた。講義や演習で学んだことを、吃音にどう生かすか、対談を通して整理するもので、責任は重く、私はいつも緊張してその時間を迎えていた。
 また、2000年7月の全国難聴・言語障害教育研究協議会全国大会・山形大会では、詩人の谷川俊太郎さんと記念対談をするなど、私はこれまで、その道の第一人者と吃音を切り口に対談をたくさんしてきた。そのひとつひとつがとてもありがたく、吃音を考える大切な宝になっている。それらの対談は、かなり鮮やかに思い出される。その中でも、3時間、休憩なしの石隈利紀さんとの対談は、周りの聴衆を意識しなくなるほど、二人の世界に入り込み、楽しく、あっという問に終わった。吃音と論理療法の相性の良さと、石隈さんと私の感覚がふれあったのだろう。もう一度対談したいと願っていた。
 第4回の吃音講習会で実現し、16年ぶりにもかかわらず、ずっと一緒だったような不思議な感覚で、今回も楽しく弾んだ対談となった。今回のテーマがレジリエンスだったために、石隈さんは、私の当事者研究でもするかのように、「伊藤伸二のレジリエンス」に焦点を合わせ、質問して下さった。あんなに悩んでいた吃音だったのに、なぜ21歳で「吃音を生きる」道筋に立てたのか、変わることができたのか、石隈さんも、対談の中で、たくさん質問して下さった。これが明らかになれば、どもる子どものレジリエンスを育てることのヒントになると考えられるからだろう。質問に答えても、まだ何かあるのではないか、何かないかと、突っ込んで質問をして下さった。発言し、また質問を受ける繰り返しの中で、私が常にもっていた、「なぜ、一度の治療体験で吃音を治すことをあきらめられたか、私のレジリエンスは何だったのか」、私自身今まで気がっかなかったことに気づくこともできた。新しい発見もあった。
 私が行った東京正生学院では、治すことを諦め切れずに、何度も訪れる人がいた。また、あちこちの吃音治療所を転々とする人も多かった。カナダの有名なアルバーター大学の吃音研究治療所であるアイスターでも、15年、500万円を懸けて治そうとしていた青年の話を、研究所で言語聴覚士として働いていた池上久美子さんが報告して下さった。どもる人の世界大会でも50歳、60歳になって「これで治療は最後にする」と言っていた人に出会った。治らないものとして、吃音を認めて生きることはこれほどに難しいのだろうか。
 今年の7月9日、近畿心療内科診療所研究会で「どもる子どものレジリエンスを育てる」の演題で精神科医の前で講演した。みなさん熱心に聞いて下さり、時間がオーバーしても何人もの精神科医が質問をして下さった中にこんな質問があった。
 「伊藤さんは、21歳でこれまでの吃音を否定しての生き方を転換し、その後は、吃音に全く悩まずに幸せに生きていると話した。21歳というのは、私のこれまでの臨床から考えても、かなり早いと思うが、どのようなレジリエンスがあったから、そんなに早く変われたのか」
 この問いは、石隈さんが講習会で聞いて下さり、私自身が常にずっと持ち続け、知りたいと思い、考え続けてきたことだが、初めて私の話を聞いた人からの質問は、私の今後の探求すべき道を確信できて、ありがたいものだった。
 吃音親子サマーキャンプや、時々訪問して出会うことばの教室に通う子どもたちは、私自身の子ども時代に比べて遙かにしなやかに生き抜いている。子どもの頃から吃音に向き合い、吃音を学んでいるのと、やっと21歳で吃音に向き合った私との違いだろう。この子どもたちのレジリエンスを整理し、それを育む力を発見し、そのために何をすべきかを探ることは、吃音治療法・訓練法の探求より楽しく、どもる子どもに役立つだろう。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/05/02

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