子どもの夢を壊さない
吃音と発達障害に関する「スタタリング・ナウ」が続いています。今日、紹介するのは、「吃音と発達障害」について、いろいろな立場の人の思いや気持ちを特集した、「スタタリング・ナウ」2016.4.20 NO.260 です。まず、巻頭言を紹介します。
巻頭言では、DVD教材として「The Way We Talk」(送料込みで、1,500円)を紹介しています。少し在庫がありますので、必要な方は、事務局までご連絡ください。
子どもの夢を壊さない
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二
2016年度の大阪吃音教室は、アメリカの青年、マイケル・ターナーが監督した吃音のドキュメンタリー映画「The Way We Talk」の日本初の上映会で幕をあけた。映画は「吃音について話したのは25歳の時が初めてだ」で始まった。吃音に悩みながらも、家族にも話さず、ひとりで悩んできたマイケルが親友に初めて吃音について語ったことをきっかけに映画作りを決意する。撮影を開始してから、国際吃音連盟を通して、日本の伊藤伸二の名前を知った彼は、新婚旅行先に日本を選んで、私に会いに来てくれた。私へのインタビューでの彼の真剣なまなざしが忘れられなかった。インタビュー後、大阪吃音教室にも参加した体験が、映画にどのように影響したかはわからないが、彼のナレーションのことば、上映後の参加者の「私たちの考えに似ている」の感想で、少なからず影響を受けたことは確かなようだ。
マイケルのナレーションの、気持ちよく軽やかにどもる語りは、バックグラウンド・ミュージックのようだ。どもる声が実に心地よく響く。
・映画を見てこんなに涙が出たのは初めてだ。
・心に留めたいことばが次々に出てきた。
・母の「自分の子どもが吃音だったら?」に「なんとかやっていける」と言ったのはうれしかった。
・アメリカは治療が主流だと思っていたが、私たちと同じような考え方をしている人がたくさんいることに意外な思いがした。そう考える人の根底に流れているのは、国が違っても同じなんだ。
・治療に力点が置かれていると思われていたアメリカでも、治せない現実の中では、結局は私たちと同じような結論に達せざるを得ないと思った。
・「吃音を嫌うのは自分を嫌うこと」「僕はこのままでいい」「吃音を認めて、自分を肯定していきたい」のメッセージは、私たちと同じだ。
・同じようにどもる仲間に出会い、吃音を通して、自分と人のつながり、成長していく映画。
・車や列車が出てくるシーンを通じて、考え方が熟成していく過程がすごく伝わってくる。どもりとしての誇りを得ていく姿が感じられた。
・「吃音を通して世界を見ていたが、自分にとって大切な他のことの順位が上がり、結果的に吃音(の順位)が下がってきた」話が印象的。
映像に出てくる多くの人の発言、体験に、参加者はまず驚きの声を一様に上げた。アメリカの人たちと、自分たちとは大きく違うのではないかとの先入観があったからだ。以前大阪吃音教室で、カナダの大学院で言語病理学を学び、言語聴覚士として働いていた池上久美子さんが、「治療・改善」を目指す人たちの、北米の吃音事情を話してくれていたからだ。
映画の中で、吃音キャンプに参加した子どもたちがこんなことを言っている。
「立派な大人になれると思っていなかった。だって、どもっている大人に出会ったことがなかったもの。だから、大人になって就職したり、ファストフード店とかで働いて、早口で話したりなんて考えられなかった。でも、ここには結婚している人、子どものいる人、働いている人、それにお医者さんだっている。皆、かっこいい。勇気が出る。何にでもなれるよね」
「医者や弁護士にもなれるって勇気が出た。僕の夢は弁護士だけど、どもっていたら無理だと思ってた。裁判にも勝てないだろうし。でもここには、ハーバード大学卒もいてすごい」
私たちの吃音親子サマーキャンプでも、子どもたちは同じような感想を言ったり、作文に書いたりしている。どもる大人が吃音についてどう考え、どう生きているかを、子どもたちは注目している。私たちは、吃音と共に豊かに生き、どもる子どもの生きた見本でありたいと思う。
今月号は「吃音と発達障害」について大阪吃音教室の人たちやことばの教室の教師の思いを特集した。それには、子どもたちへの思いも書かれていた。そのタイミングだけに、今回の映画は私たちを大いに勇気づけた。映画に日本語字幕を入れる大変な労力を厭わず取り組んで下さった、進士和恵さんに感謝したい。全国各地で、この映画をもって講演会をしたいとの夢が新たに出てきた。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2026/04/17


