“I Stutter.So,What?!”「どもるけど、それがどうしたの?」~第7回国際吃音連盟総会ならびに第10回世界大会参加報告~2

 「スタタリング・ナウ」2013.8.20 NO.228 で報告しているオランダでの第10回世界大会の続きです。オランダ大会は、とても印象深い大会でした。”I Stutter.So,What?!”「どもるけど、それがどうしたの?」に象徴されるように、どもりながら、自分の言いたいことを言う姿勢に現れていました。「吃音と共に生きる」覚悟のように思えます。
 芹沢俊介さんが書いてくださった、
 
 「治らないから受け入れるという消極的なものではなく、いつまでも治ることにこだわると損だという戦略的なものでもない。どもらない人に一歩でも近づこうとするのではなく、私たちはどもる言語を話す少数者として、どもりそのものを磨き、どもりの文化を作ってもいいのではないか。どもるという自覚を持ち、自らの文化を持てたとき、どもらない人と対等に向き合い、つながっていけるのではないか」

 『新・吃音者宣言』P.176 に書いた文章が、今、改めて、大切なメッセージとして、行く道を照らしてくれているように思います。

  ”I Stutter.So,What?!”「どもるけど、それがどうしたの?」
       ~第7回国際吃音連盟総会ならびに第10回世界大会参加報告~2
            川崎益彦(大阪スタタリングプロジェクト・日本吃音臨床研究会)

●6月12日
 9:00 基調講演 マイケル・オシェア
 10:00 シャピロにインタビュー。
 13:45 基調講演 アニタ・ブロム
 14:45 僕のワークショップが始まった。先ほどアニタが基調講演した部屋で引き続きマーク・アーウィンが講演をしているので、僕のワークへの参加者は少なかった。内容は、日本吃音臨床研究会の吃音評価法。普段の大阪吃音教室のように、とらわれ度、非開放度、回避度を順に言って、チェックしてもらった。途中で予想外の質問があったが、なんとか答えることができた。
 16:40 スペシャルゲストとして、オランダの有名なシンガーソングライターでミスモントリオールのザンネ・ハンスが来た。DJのインタビューに答えて話すのだが、そのよくどもること。ラジオの仕事もよくしているが、あまりにもどもるので編集でカットされ、オンエアーではあまりどもっていないと笑いをとっていた。彼女にとって、どもりは仕事のキャリアにはなんの問題もないと言い切っている。
 18:30 バス3台に分乗してガラディナー&パーティーに行った。今年はロックなので正装でなくていいかと思いネクタイを持ってこなかったが、プログラムを見たらドレスコードが書いてあった。
 外国人は、普段Tシャツに短パンだが、パーティーとなるとみんなドレスアップしていた。いつもスリッパのキースでさえ、きちっとスーツを着ているので、立派な英国紳士に見える。会場は小さな城。食事前にショートフィルムを見せられたが、資金集めのため。僕が着いた席は、アニタ(スウェーデン)、ジーナ(イギリス)、ステファン(ドイツ)、ピーター(オーストラリア)、名前は分からないがイスラエル人男性と僕の6人で、世界大会にふさわしく国際的なメンバーだった。
 食事が終わってパーティー開始。ロックバンドが演奏する曲は昔懐かしく知っている曲ばかり。カラオケと違い、マイケル・シュガーマンもマーク・アーウィンも足の悪いキース・ボスでさえもステップを踏んでいる。
 11時半の最初のバスが出る直前、キースからマイケルに長年ISA会長を務めてくれた感謝の記念品が贈呈された。また、大会主催者のマーシャとリチャードにも記念品が渡された。

●6月13日
 大会最終日。9時から伊藤さんの基調講演があった。パワーポイントは2日前にセットできている。伊藤さんと一緒に5人で何度も考えたスピーチの出だし。結局伊藤さんが自分の体験、教師の精神的いじめ、セルフヘルプグループを作った時のこと、第1回京都での世界大会や、昨晩のパーティーで27年ぶりに再開した京都大会の出席者7人と同窓会ができたことを話し、その7人が起立して拍手を受けた。
 その後、伊藤さんはステージに向かって左の椅子に着席し、進士さんが演台で原稿を読み、僕が内容に合わせてパワーポイントを操作した。今回のパワーポイントは、伊藤さんの基調講演の中心テーマであるナラティヴ・アプローチがよく分かるよう、以前の物語、新しい物語、変わるきっかけ、のように組み立てた。無事終了後、伊藤さんと進士さんは主催者のマーシャから記念品であるデモステネスの置物を授与された。

 その後、僕は農業経営のティムの講演を聞いた。ティムは前日のパーティーで、伊藤さんたちと席が隣だったらしい。講演はゆっくりで分かりやすく、本人は引き伸ばしのテクニックを使っているが、不自然さはない。ティムは最後に次のように言った。「今、どもりで後悔しているかと聞かれたら、とんでもない、と答える。どもりのおかげで結婚し、3人の子どもにも恵まれ、素晴らしい人に出会い、今、皆さんの前で講演している。どもりは仕事の上では有利、なぜならすぐに相手に覚えてもらえる」。講演後ティムと話したが、意識してコントロールしているかどうかの違いはあるにせよ、どもりに感謝しているのは僕と全く同じ感覚だった。
 ランチの席でアニタにインタビューした。アニタは常に誰かと話したり、特に若いどもる人から相談を受けているので、なかなかゆっくり話すことができない。アニタの胸には「I Stutter.So What?!」のバッジが光っている。アニタはヨーロッパ吃音連盟(ELSA)でどもる子ども相手のキャンプをしている。キャンプではセラピーもするが、治療目的ではなく、楽にどもれるようにするため。アニタは個人的にはリッカムは嫌いらしい。自分たちは消費者ではない、どもるそのままの自分でいいと、とても明快に語る。伊藤さんの考え方と100%一致するかどうかは分からないが、ほとんど同じ考え方・態度であることは間違いないことに感動した。
午後、最後の基調講演は、キャサリン・プレストン。アメリカ人作家でとても小柄でかわいい人だった。講演はとにかくよくどもるので、内容がよくわからない。ブロックしてそれをキャンセルする時のしぐさが最高にかわいらしい。mが発音できない時、ムムムムとどもるのではなく、エムエムエムとどもるのが可笑しい。そして本人も「mがなかなか出ない」と笑いながら言う。後で講演中の写真を見ると、さすがに何とか言おうとしている時の顔は一所懸命だが、言えた後はいつもスマイルを浮かべていた。あまりにもどもり方が印象に残ったので、講演が終わってから本も買わないのに一緒に写真を撮ってもらった。

 後から気づいたことだが、最後のオランダ人のワークショップのタイトルは「どもりはトレードマークだ!」だった。都合で聴けなかったのが残念だった。オランダ版伊藤さんといったところだ。
 16:30から、次回開催国アメリカのプレゼンテーション。シュガーマン夫妻がオバマ大統領と撮った写真が映し出された。あまりにもきれいだったので、マダム・タッソーの蝋人形館ではないかと疑惑が起こった。後日、帰国してすぐにマイケル本人から、メーリングリストでみんなに、オバマと握手している写真が送られてきた。
 閉会式。マーシャがこの大会で世話になった多くの人に順に感謝を述べた。どもる父親もスピーチをした。終わってからフリードリンクでお別れ会。ドイツチームはその後車で帰った。考えたらドイツ国境までそれほど遠くない。自転車で来たドイツ人もいた。みんなと別れを惜しんで写真を撮りあった。
 ルンテレン最後の食事は、街へ出て中華料理店へ。インド料理と中華料理の店。そこで、ハーマンたちヨーロッパの人たちと一緒になった。

●6月14日
 タクシーを呼んで駅まで。駅の自動販売機はコインしか受けつけない。クレジットは使えるが、VISAもダメ。結局チケットを買わずに乗り込み、途中の乗り換え駅でチケットを購入した。その車中でまたもやハーマンに出会った。

おわりに
 今回の第10回世界大会で最も感じたことは、どもったまま自分の言いたいことを言うという姿勢だった。そこには隠そうとか恥ずかしいといった態度は全く感じられず、実に堂々とした態度だった。事実、今回理事に選ばれたキースもマーシャもバートもアーニャもよくどもっている。そのままでいいと言い切っていたのはアニタ。マーシャも堂々とよくどもるが、彼女はどもりながら本業である歯科医をしているのだろう。大会副会長のリチャードもよくどもった。彼はことばがブロックしてなかなか出てこないタイプだが、ブロックの最中やブロック後も顔を伏せることなく、笑顔で話しているのに好印象を持った。
 今回のオランダ大会のテーマは「吃音のタブーを破る」。それを分かりやすく表現したのがバッジの「どもるけど、それがどうしたの?!」。
 国際吃音連盟(ISA)の目標は「吃音を理解する世界」だが、それは「世界中の人が吃音治療を受けられるように」というのでは絶対にない。「吃音を理解する世界」というのは、自然にどもれること、どもっても普通に聞いてもらえること。そのために僕たちができることは、どもることだと思う。でもできれば一つだけ条件をつけたい。
 「どもる時は笑顔でどもろう!」

 7つの基調講演の他に、たくさんのワークショップや講演があった。そのワークショップのひとつ、松本進さんが翻訳したものを紹介する。
 日本と違って、吃音のセラピーを受ける人も機会も多い、ヨーロッパならではの提言だ。

『吃音セラピーと誤った治療法の危険性』
             Bert Bast(ドイツ吃音協会)
             Norbert Lieckfeldt(イギリス吃音協会)
             Edwin Farr(ヨーロッパ吃音協会連盟議長)
         オランダ吃音連盟
             翻訳・松本進(大阪スタタリングプロジェクト)

目的
 セラピーに何を期待するかに関しての理解を深める提言は、誤った主張を過信することから生じる危険を減らすだろう。どもる人自身、広い意味での関係者、どもる子どもの親、そして広く社会全体に伝えたい。

手順
 この提言は、ドイツの宣言(the Geman declaration)からスタートした。
 我々はドイツ吃音協会、オランダ吃音者協会、ヨーロッパ吃音連盟、イギリス吃音協会と共に討論を重ね、何度も書き換え、表現に磨きをかけてこの文にいきついた。現在、国際吃音連盟(ISA)内でも討議しており、ここに発表する。この宣言文が、控えめなことば使いであると共に明瞭であることを我々は望んでいる。

1 近年の吃音研究は、吃音の原因として神経学上の問題があると説明しているが、罪の感情は軽くできるかもしれないが、流暢なスピーチを回復する効果を保障する治療法は存在しない。
2 吃音の理解が深まっているにもかかわらず、多くのどもる人や子どもとその親は依然として吃音の原因と治療法の一部しか知らない。
3 多くの吃音治療者が積極的に宣伝していることは、短期間で完壁な「治癒」を約束するというあり得ない希望をどもる人に持たせ、一般社会に「吃音は治る」との誤解を浸透させる。ことばの医学的な吃音の「治癒」は存在しない。
4 あるセラピーが完全に効果があることを裏づける証拠(エビデンス)はほとんどない。しかし、どもる人の流暢性と共にライフスキルとレジリエンスを増すのに役立つセラピーもある。
5 完全な回復のチャンスは、理想的には発吃から15ケ月以内なら充分あり得る。
6 どもる人、どもる子どもの親のために、ドイツとオランダの吃音協会はヨーロッパ吃音協会連盟の助力を得て、良いセラピーとは何かをはっきりさせるのに役立つこの宣言を作成した。

(1)吃音治療を提供する人が全て適格な言語療法士とは限らない。提供されるセラピーは主に個人的経験に基づいている。私的で個別な経験は一部の人にしか適用できないであろう。
 アドバイス:セラピストの学歴と臨床経験を聞き、過去の彼のクライアントから話を聞く。
(2)職業的セラピストが働いている間は学び続け、クライアントが受けたサービスが不首尾に終わったときには、賠償の求めに応じる。
 アドバイス:関連する学会や団体の会員資格について尋ねる。
(3)ゆっくりとした話し方で、非常に短時間で吃音が減少することがあり得る。このことは短期間で「治癒」する印象を与えるが、普段の日常生活に戻ると、長期間持続することはない。
 アドバイス:実社会での訓練をしないで、短時間で流暢性を獲得する方法に傾倒するセラピストには懐疑的であれ。
(4)成功する吃音のセラピーは、かなりの額の投資を要し、何週間、何か月、或いは何年もかかることは、一般に受け入れられている。
 アドバイス:短期間での成功を約束し、アフターケアのない「奇跡の」治療には注意せよ。
(5)多くの吃音セラピーは、テクニックを身につけるのに長期間かかり、毎日の練習を要するのが普通である。過去の言語パターンや行動パターンに逆もどりすることは普通にある。それゆえ、セラピーの品質と、セラピー過程に続くアフターケアの継続は重大である。
 アドバイス:アフターケアが、いかになされどんなセルフヘルプが利用できるのか、こと細かく尋ねること。
(6)以上の「良いセラピー」でさえ、どもる人が前進する唯一の方法は、あなたの吃音の責任を自分でとり、外に出て行って、充実した生活を送ることである。
 アドバイス:そうすると決心せよ。   (了)

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/11/05

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