第7回ちば吃音親子キャンプ 1日目
10月4・5日は、第7回ちば吃音親子キャンプでした。
僕たちの仲間である千葉市のことばの教室担当者の渡邉美穂さんが、滋賀県の吃音親子サマーキャンプに何度も参加して、千葉県でも、どもる子どもたちの出会いの場、学習の場になるキャンプがしたいなと準備を重ねてきて、7年前にスタートしたキャンプです。 僕は、第1回からずうっと参加しています。口コミで広がってきて、日帰りも含めてですが、今年の申し込みは81名、直前のキャンセルがあって、計67名の参加でした。おじいちゃんやおばあちゃんが孫を連れてきてくれたり、ドイツ人のお父さんが息子と参加したり、なんだかおもしろそうな、楽しそうな、そんな予感のするキャンプでした。
前日に千葉入りし、当日は、渡邉さんの車で、会場である千葉市少年自然の家へ。11時頃に着きましたが、すでにスタッフの何人かが集まっていました。13時からの開始の前に、スタッフの打ち合わせです。「今年初めてことばの教室の担当になりました」という新しい人、「2年目です」、「3年目です」、という比較的新しい人が参加しています。もちろん、顔なじみの、もう何年もことばの教室を担当しているベテランもたくさんいます。キャンプでの仕事分担は、その場で決めていきました。「参加者の誘導に回ってくれる人?」と尋ねると、「はい」「はい」と次々に手が挙がります。それぞれが、積極的にキャンプに関わろうとしているのが伝わってきました。
車が混んでいてスタート時間が少し遅れましたが、無事スタートして、はじめの会です。参加者の紹介は、吃音親子サマーキャンプと同じ。渡邉さんが名前を呼んでその場で立ってもらいました。初参加の子どもたちは、ちょっと緊張しています。
出会いの広場は、例年、僕たちの仲間であることばの教室担当者の出口さんと竹尾さん。二人は、出会いの広場は自分たちの担当だと思って、ずいぶん前から準備してくれているようです。この二人は、滋賀県での吃音親子サマーキャンプにも何度も参加しています。動いて、話をして、歌って、すっかりリラックスした参加者でした。
次のプログラムは、最初、みんなが集まって、僕たちの紹介を兼ねて、渡邉さんからインタビューを受けました。なぜ、どもる人のグループを作ったのか、なぜ吃音者宣言を出したのか、なぜ吃音親子サマーキャンプを始めようと思ったのか、吃音親子サマーキャンプで大事にしていることは何か、書くことを取り入れているがその目指すものは何か、など、コンパクトに紹介した後、子どもたちは学習と工作、保護者は学習会と、分かれてのプログラムでした。僕は、保護者担当です。いつものように、一番聞きたかったことを聞いてもらいました。
・いじめに合ったことはあるか。
・小6の子どもが学期のはじめに自分がどもることをみんなに話したのに、しばらくすると、何人かが「なんでそんなしゃべり方なの?」と聞いてきた。それに対して何も言えなかったらしい。私は「吃音があるって言ったよね」と言ってやったらいいと思うが、どうすればよかったのか。
・子どもは自分がどもっていることをみんなに知られたくないと、必死で隠している。いつまでそんなことができるかと思う。どうしたらいいか。
・活発で、好奇心旺盛なんだけど、テレビに出ている人を見て、「僕は、こんな人前でしゃべる仕事はできないよね」と言う。どう声をかけたらいいか。
・「どうしてそんな話し方なの?」と聞かれたとき、どう応えたらいいのか。
場所が変わっても、人が変わっても、それぞれの事情は多少は違うのでしょうが、質問の内容はよく似ています。僕の答えも基本的には同じですが、例に挙げる人は変わります。毎回、新鮮な気持ちで、その人の質問を聞き、そのときに浮かんだ人の体験を話すようにしています。生の体験です。僕の中には、これまでに出会った、大勢の体験がつまっているのです。それを話し、伝えていくのが、僕の仕事なのだと思っています。今回は、スキャットマン・ジョン、村田喜代子さん、佐々木和子さん、大谷志門君、僕の両親などが浮かんできました。シーアンの氷山説、伊藤伸二の氷山説、吃音・流暢性学会の話もしました。あっという間に時間が過ぎます。
バイキングの夕食の後は、全員が視聴覚室に集まりました。前方の一段低い所に話したい人が座り、残りの人は、階段状の椅子に座って聞きます。話したいことがあれば、前に出ていって話します。ちょっと形の違うオープンダイアローグです。このオープンダイアローグ、渡邉さんのリクエストで取り入れたのですが、ちばキャンプでは、定番のプログラムになっています。子どもたちが出てきて、僕に質問してくれました。一問一答にならず、そこで僕とその子のやりとりが始まります。後で聞くと、ものすごくドキドキしたそうです。心臓がバクバクしたと言っていました。
どもりはどれくらいで治るかと聞いた子がいました。僕は今、81歳で、今もどもっている。だから、80歳までは治らない。あきらめるしかないんだけど、あきらめられる?と聞くと、「はい」と納得していました。
人前でどもるのは嫌ですか?と聞いた子がいました。僕も、嫌だなと思います。でも、どうしても言いたいこと、言わなければならないことはどもってでも言います。重松清さんも、どうでもいい、世間話でどもるのは嫌だと言っていたことを伝えました。
僕の非認知能力について質問してくれた子も複数いました。子どもたちは、夕食前のプログラムで、非認知能力の学習をしていたのです。
ことばの教室担当者が、今回参加できない子の質問を代わりにしてくれました。質問だけでなく、僕に伝えたいことがあるという子もいました。その子は、全校の前で、がんばりたいことを発表することになったそうです。家族や担当の先生は少し心配していますが、本人は大丈夫だと言います。それは、非認知能力の「あきらめずにがんばる力」が自分にはあるからだそうです。このことを僕に伝えたかったと聞き、うれしくなりました。子どもたちには、自分でサバイバルしていく力が備わっているのです。決して、いつでも助けてあげなければならない、弱い存在ではないということを証明してくれています。
オープンダイアローグが終わった後、女の子4人が、僕に話があると言って、残りました。みんなの前では恥ずかしかったけれど、聞いてほしいとのことです。どもる女の子は、男の子より少ないです。こうして、4人もいると心強くなるのでしょう。とっても仲良しでした。僕は、吃音親子サマーキャンプで出会った女の子を思い出しました。その子は、「私には、友だちがいっぱいいる。でも、○○ちゃんは特別。今まで生きてきて初めて出会ったどもる女の子だ。1年に一度しか会えないけれど、大事な友だちだ」と作文に書いていました。キャンプは、かけがえのない友だちと出会える場でもあるのです。
こうして、一日目が過ぎていきました。
千葉市少年自然の家は、自然がいっぱいの所にあります。秋の虫がにぎやかでした。子どもたちも、秋の虫に負けないくらいにぎやかでした。なかなか寝付けそうにありません。その気持ちは、分かるなあと思いながら、僕は、眠りにつきました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/10/08









