吃音と向き合い、つき合うことを目指して~子どもとともに吃音について学び、考えることを通して~
今年も7月末に、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会全国大会 東京大会が開催され、全国各地からことばの教室の担当者らが集まって研修会が行われました。僕も、仲間のひとりが発表するので、応援の意味で参加しました。
これまで、僕たちの仲間のことばの教室担当者の実践発表が途切れることなく続いています。ひとつのブレないものを持っている強みが発揮されています。
今回は、「吃音と向き合い、つき合うことを目指して~子どもとともに吃音について学び、考えることを通して~」とのタイトルで発表した愛知県の奥村さんの実践です。「スタタリング・ナウ」2012.9.20 NO.217 より紹介します。
吃音と向き合い、つき合うことを目指して
~子どもとともに吃音について学び、考えることを通して~
愛知県岩倉市立岩倉南小学校 ことばの教室 奥村寿英
神奈川大会で発表するまで
山口大会で佐々木和子さん、長野大会で高木浩明さん、北海道大会で渡邉美穂さんが連続して全国大会で発表している。一緒に『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック~どもる子どもの生き抜く力が育つ~』(解放出版社)を作った仲間たちだ。次は私の番だと仲間から進められた。
東海四県大会や、全国教育研究集会で発表の経験があるが、全国公立学校難聴・言語障害教育研究協議会(全難言協)での発表は、初めてだった。
神奈川大会の事務局に吃音分科会での発表の希望を伝えた。この時、すでに発表者は内定していたようだったが、数日後に行われる事務局会議に提案して、そこで承認されればよいだろうという返事だった。数日後、事務局から連絡があり、OKの返事をもらった。
さて、それからが大変だった。これまでそれなりに実践してきたことはあったものの、発表を意識していなかったので、実践としてはバラバラで、まとまっていなかったからだ。
大会要項に載せる原稿の締め切りは5月上旬。新たな実践を行うことができるのは、3か月ほどしかなかった。そこで、吃音のある子どもの中で一番つき合いの長いAさんとの実践をまとめて発表することにした。
発表のテーマは「吃音と向き合い、つき合うことを目指して―子どもとともに吃音について学び、考えることを通して―」とした。吃音についてAさんと考え、語り合ってきたことや、表現活動に取り組んできたこと、吃音について周囲に伝えてきたことなどを中心に、発表内容の構成を考えた。
要項の原稿が完成した後は、当日の発表のためのプレゼンテーション作りに取りかかった。主張したいことを抜き出し、パワーポイントで30枚のスライドにした。大会の十日ほど前になって、事務局から当日の討論の柱立てが送られてきた。それを、吃音を生きる子どもに同行する教師の会の仲間に見てもらって、助言を受け大会を迎えた。
1 はじめに
岩倉市ことばの教室は2003年に開設され、以来小学校を中心に自校通級と巡回指導を行ってきた。
20012年3月現在、通級する子ども19名のうち、どもる子どもは4名。この割合は、開設以来多少の増減はあったものの、ほとんど変わっていない。
本市には、保健センターや母子通園施設はあるものの、学齢期の子どもが利用できる通所施設や療育施設はない。来室する子どもは、それまでにどこにも相談に訪れることなく、ことばの教室に来室するケースがほとんどである。吃音で来室する子どもとその保護者も、吃音に関する予備知識がほとんどない状態でやってくる。
ことばの教室は、相談窓口としての役割と、言語指導の場としての役割を担っている。
この10年間、ことばの教室の担当者として、子どもとともに吃音について対等な立場で考え、課題に取り組んできた。吃音についてどう考え、どもる子どもとどうつき合ってきたのか、その経緯を報告する。
2 「吃音」をどうとらえるか
吃音は100年近い研究の歴史があるにもかかわらず、未だに原因が解明されておらず、有効な治療法も見つかっていない。
吃音をあってはいけないもの、治すべきものと捉えれば、吃音の状態に注目することになり、これをなくそう、治そうとすることになる。しかし、吃音は一日の中でも状態は異なり、季節や場面、相手によっても変化する。子どもの頃ひどくどもっていた人が、大人になってほとんど目立たなくなることもある。吃音は変化するものであり、訓練をしたからといって消失するものではない。吃音を隠し、人との交流を避けているうちに、話すことから逃げ、なすべきことからも逃げてしまうことが心配される。
吃音はその人の話し方の特徴で、その人の一部と捉え、話す内容やその人全体に注目すれば、吃音とどう向き合い、つき合っていくか、どう生きるかが課題となる。そのためにまず、吃音を正しく知ること、自分の吃音について知ることから始めたい。そして、どもることで実際に起こる問題について、一緒に考え行動を支援する。さらに、将来の不安を少なくできるように仲間づくり、自己肯定感情の育成、他者貢献へつながるようにしていきたい。
3 ことばの教室での指導
(1)基本方針
どもる子どもが、どもることで自己否定に陥らないようにするために、どもるのは自分一人ではないことを知り、自分の吃音に向き合うことで、どもりながらでも話したいことは話そうとする態度を身につけられるようにする。
また、どんな状況や場面に出会っても自分の役割や責任が果たすことができるように、自分の吃音について説明できることを目指す。
(2)実践の様子
①吃音の相談
本市の場合、保健センターと母子通園施設はあるものの、大きな市とは違い、子ども発達支援センターや相談センターはない。地域で吃音の相談ができるところは、ほとんどない。そのような状況の中で、ことばの教室が吃音の子どもの一次相談を担ってきた。入級に至らないまでも、保護者の相談にのったり、情報を提供したりすることもある。
今回のケースも、1年生時に一度相談を受け経過観察をしていたところ、2年生の2学期になって、子どもが「ことばの教室に通いたい」と希望して母親と一緒に来室した。
【母親との話】(T:担当者、M:母親)
T:今回はどうされましたか?
M:家に遊びに来る友達との会話を聞いていたら、このごろ会話のペースにだんだんついていけなくなり心配になってきました。何かのときに、本人がぼそっと「小さいときにことばを直しておけばよかった」と言ったんです。ことばの教室へ行きたいかを聞いたところ、「行きたい」と答えたので、今だと思って来ました。
T:お姉さんもどもるそうですね。
M:姉にも吃音があったんですが、今ではほとんどみられなくなっています。
T:教室での様子はどうですか?
M:仲のよい子はそういう話し方だと思っているので、変わりないと聞いています。
(以下略)
②どもる子どもとの出会い
【子どもとの話】(T:担当者、C:子ども)
T:この前来た時のことを覚えている?
C:うん。でもどんな話をしたかは忘れた。
T:どうしてここへ来たかわかる?お母さんに何か言われてきたの?
C:言いたいことがあっても、途中で止まっちゃうことがある。
T:そのとき、のどはどんな感じになっているの?
C:息が止まっちゃている感じ。
T:それを「どもる」と言うんだけど、どもることで友達から何か言われたことある?
C:ある。悪口を言われる。2、3人だけど。
T:そういう時はどうするの?
C:「これは3歳ごろからのぼくの癖だからしょうがないでしょ」って言っている。
T:それでわかってくれるの?
C:ほとんどの人はわかってくれるけど、わかってくれない人もいる。
T:そっかー、わかってくれない人もいるんだね。話は変わるんだけど、自分のほかにどもる子に会ったことはある?
C:ない。お姉ちゃんは前、どもっていたけど。
T:この写真(「吃音ワークブック」の表紙)を見て。ここに写っている子のほとんどはどもる子だよ。大人の半分ぐらいもどもる人。
C:ヘー、大人でもどもる人がいるんだ。
T:どもる子どもと大人、ことばの教室の先生が全国から集まってキャンプをするんだ。だから、どもるのは君だけじゃないし、市内やこの学校にもいるよ。ことばの教室で勉強している子もいる。君もことばの教室で勉強してみるかい。
C:うん。してみたい。
このようなやり取りを経て、通級が始まった。
③吃音について学ぶ
ア 吃音とは何か
『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック』(解放出版社)を使って吃音について学習した。自分の吃音のタイプが、繰り返し、引き伸ばし、ブロックのうち、どれかを考えた。Aは自分は繰り返しが多いが、たまにブロックになることもあると答えた。
次に、誰でもどもるような話し方をする場合として、「火事や急病であわてて救急車を呼ぶとき」や「自信がないことを急に質問されたとき」、「早口言葉などを早口で言うとき」を選んだ。また、歌を歌う時は、ほとんどの人がどもらないこと、どもりやすい音は人によって違うこと、吃音は常に変化していくことなどを知った。
イ どんな時にどもるか
どんな時にどもりやすいかと、苦手な場面を、ワークシートでチェックした。よくどもる時は、「友達と楽しく話をしているとき」「友達とけんかをするとき」「学年が代わって自己紹介するとき」「日直の号令をかけるとき」「友達と朝や帰りに挨拶するとき」と答えた。苦手な場面は、「大勢の前で話をするとき」「自己紹介をするとき」「授業で当てられたとき」であった。「大勢の前で話をするとき」と「授業で当てられたとき」は、どもりたくない度合いも高かった。
ウ 吃音は治るか
吃音が治るとはどういうことかを三つの考え方を示して自分がどれに近いか考えた。
(1)いつでもどこでも、まったくどもらない。
(2)意識的に吃音をコントロールすることができ、音読や発表がどもらずにできる。
(3)どもるけれど、言いたいことを言い、したいことをする。吃音に悩まない状態。
Aは迷ったあげく、(1)と(2)に丸をつけた。「(1)はそうなればよいが、実際には難しいと思う。だから、(2)を目指したい」と言った。これは吃音に悩む子どもにしてみたら、正直な気持ちだと思う。しかし、現実的には(2)もなかなか難しい。Aは音読ではほとんどどもらないが、自分の考えを発表したり、友達と会話したりする時にどもる。今のところは、どもりながらでも言いたいことは伝えられているようだ。今後、学年が進むにつれて悩みが深くなることが予想される。その時に話すことから逃げることがないように、吃音について考えることにした。
④吃音について考える
ア 吃音について分かっていること
吃音についてこれまで学習してきたことも含めて知っていることを紙に書き出した。「吃音(きつおん)」と紙の中央に書き、そこから線を引いて「くりかえす」―「か・か・か…」―「同じことを言う」―「言いたくない」のように続けていった。他にも、「人がみんなどもるわけではない」とか「1年生のころしゃっくりが止まらなかったから?」とか「緊張しすぎると声が出ない」―「おなかをたたくといい」とか「休みの日はどもらない」と書いた。
イ 吃音について分からないこと
一方、吃音について分からないことを書き出した。「なぜ自分だけどもるのか」、「音読の時はどうしてどもらないのか」、「どもる時とどもらない時があるのはなぜか」、「どうしてちゃんとしゃべれと言われるのか」、「なぜどもるのは治らないのか」などと書いていた。
そこで、『どもる君へいま伝えたいこと』(解放出版社」の目次を見て、自分の疑問と似ている質問を選んで、その回答を読んだ。
Q3「どうして自分はどもるようになったのか」
Q4「自分のようなしゃべり方をするのはクラスで自分しかいない。自分だけか」について読み、分かったところに下線を引いた。さらに、それを要約して自分のことばで書き直した。
分かったことについて、「吃音の原因はまだ分かっていないこと」、「お母さんの育て方が悪かったわけでもないし、引越しをしたせいでもないし、妹が生まれて手がかかりすぎたわけでもないこと」、「大人になってどもる人もいること」などをまとめた。「どもるのは自分だけか」の問いに対しては、「どもる人の世界大会が開かれたこと」や「100人に1人はいること」を答えにあげていた。どもる人は500人に1人ぐらいだと思っていたそうだ。
ウ 学習・どもりカルタ
『学習・どもりカルタ』(日本吃音臨床研究会)で遊んだ後、自分が気に入ったカルタを五っ選んだ。
・ユーモアはどもるぼくらの強い武器まねやからかい切り返す
・「やもり」と「いもり」とそれから「どもり」みんなちがってみんないい
・手を挙げる当たらぬようにと祈りつつ
・ママは平気と言うけれどやっぱり私は恥ずかしい
・ほっとした当てられる前にチャイム鳴る
これらの句一つ一つについて、なぜそれを選んだのか理由を話し合った。その後、自分でもカルタを作ってみた。
・がんばるぞ学芸会はどもらない(学芸会を前に)
・動物は知らないうちにどもるかも(動物もひょっとしたらどもっている?)
・ボーリングどもるとまさかストライク(どもってボーリングの玉を投げたらストライクだった)
少しずつではあるが、自分と吃音の関係を分析的にみて表現することができるようになってきた。
⑤日本語の音とリズム
吃音に対して、ことばの教室でできることの一つに、日本語のリズムに親しむことがある。日本語の音は、基本的に「あ・い・う・え・お」の5つの母音と[k]、[s]、[t]などの子音の組み合わせで構成されている。母音の流れを一音一音意識して発音することにより、日本語の一音一拍のリズムが生まれる。
日本語のリズムを練習する教材として、詩は適している。長い文章を読むのが苦手な子どもでも、短い詩なら取り組みやすく、暗唱することができる。ことばの教室でよく取り上げる詩には、以下のようなものがある。
○谷川俊太郎「かっぱ」「いるかJ「ののはな」「日本語のおけいこ」「きりなしうた」など
○まどみちお「しょうじきショベル」「はひふへほは」「あいうえお」など
○工藤直子『のはらうた』より「おれはかまきり」「おがわのマーチ」「なつがくる」など
○阪田寛夫「年めぐり―しりとりうた―」「おとなマーチ」「ちこく王」など
○金子みすず「大漁」「こだまでしょうか」など
Aとは「年めぐり―しりとりうた―」や「こだまでしょうか」などを一緒に読んだ。一行交代で読んだり、一人で読んだりした後、暗唱した。リズムよく朗唱することができた。
⑥吃音について伝える
これまでことばの教室で学習してきたことを、在籍学級で発表することをAに提案してみた。初めは迷っていたが、クラスのみんなに自分のことを理解してもらうよい機会と考え実施することにした。発表内容はこれまで読んできた詩の中から、金子みすずの「こだまでしょうか」の音読、ことばの教室で勉強したことについて書いた作文の発表、特技としてヨーヨーの技を披露することにした。担任に今年度最後の通級指導の時間に発表させてほしい旨を伝えると、快諾してくれた。また、保護者にも発表内容を伝え、賛同を得た。
発表の当日は、授業の前半にことばの教室でリハーサルを行ってから在籍学級へ赴いた。担当者から発表する目的と内容を簡潔に紹介してから、発表を始めた。「こだまでしょうか」を一人で音読した後、クラス全員に詩を書いた紙を配り、一緒に読んだ。次に、ことばの教室で勉強したことについて書いた作文を読んだ。
「ぼくはことばがどもります。どもるというのは、同じことばをれんぞくで話すことです。他にも音がつまる人とのばす人がいます。どうしてどもるようになったのかは、わかっていません。ぼくは1年生の初めぐらいに気づきました。お母さんの育て方が悪かったわけでもないし、ひっこしたせいでもないし、妹が生まれて手がかかりすぎたわけでもありません。げんいんはまだわかっていません。3才ぐらいからどもり始める人が多いけど、高校生や大人になってからどもる人もいます。どもる人は100人のうち、1人はいます。この小学校には、約6人はいることになります。ぼくがどもった時は今までどおりにしてください。授業の時はふつうに聞いてください。これで終わります」
どもることについて、みんなに知っておいてほしいことや、特別扱いをしないでこれまで通り接してほしいことを伝えることができた。
最後に、自分の特技としてハイパーヨーヨーの技を五つほど披露した。終わった後に、子どもたちに感想を書いてもらった。
・Aが何をことばの教室でやっているか、何が特技かがよく分かりました。勉強したことの発表で、どうして同じことばをくり返してしまうかが分かっていないので、早く分かるといいと思います。
・Aはしゃべるのが苦手だけど「こだまでしょうか」の詩を上手に読めていました。別の詩も聞きたくなりました。Aが発言する時、まちがえてもいつも通りにしようと思いました。Aは100人の中の1人だと知りました。
・Aはくり返してことばをしゃべってしまうけど、そんなの気にしていません。Aはいつも明るくて元気ないい友だちです。Aはことばの教室で詩を読んだりしているんだなと思いました。最近、ぼくが習いごとに行き始めて遊ぶきかいがへっていたけど、もっと遊びたいです。
子どもたちの感想の中に、Aがことばの教室でどんなことをしているのか、Aの得意なことがよく分かった、これまで通り一緒に遊んだり接したりしていきたいというものが多くみられ、A自身のことと、Aがどもることについての理解を深めることができた。
(3)実践を振り返って
Aは吃音に関する事実について学び、どもるのは自分一人ではないこと、大人でもどもる人はいること、吃音には三つのタイプがあり、どもる場面は人によって違うことを知った。さらに、吃音が治るとはどういうことかについて考え、自分が吃音についてどう考えているか調べた。吃音について分かっていることと、分からないことを紙に書き出して眺め、吃音の原因はまだ分かっていないこと、世界中どこの国にも1%の割合で現れることを学んだ。そして、「学習・どもりカルタ」を通して自分と吃音の関係を表現することが少しできた。
また、短い詩を声に出して読むことで、日本語のもつ音の響きとリズムに親しみ、吐く息にのせて声を出すことができた。最後にこれまで学習した成果を在籍学級で発表し、自分の吃音について考えたことを作文に書いて読むことができた。
これらの取り組みを通して、Aは今後クラスが替わったり、環境が変わったりしても、自分の吃音について話し、周囲に理解を求めることができるであろう。
(4)吃音と向き合い、つき合っていくために
これまで吃音について学習して、吃音に関する事実を知ることができた。しかし、その理解はまだ浅いものにとどまっている。大勢の前ではどもりたくない、授業で当てられて答える時はどもりたくないという子どもについては、「どもりたくないのはなぜか、吃音をどう捉えているのか」ということについて、もう少し掘り下げて考えていきたい。
私は最近「当事者研究」に注目している。「当事者研究」とは、北海道浦河町にあるべてるの家と浦河赤十字病院で始まった、主に精神障害当事者やその家族を対象とした、アセスメントとリハビリテーションのプログラムである。べてるの家のソーシャルワーカーの向谷地生良(むかいやちいくよし)氏によれば、生活の中で見出した生きづらさを研究テーマとして再構成して、その生きづらさの背景にある事柄や経験や意味などを見極めて、自分らしいユニークな発想で、その人に合った自分の助け方や理解を見出していこうという一連の研究活動の総称とまとめられている。これをことばの教室に通う子どもたちとともにできないか考えている。
今回の実践では、自分の吃音について考え、まとめたことを、在籍学級の子どもに対して発表することができた。これは担任の先生の協力と保護者の理解によるところが大きかった。仲のよい友達に支えられながら発表できたことは、本人にとって大きな自信につながったと思う。今後も、機会をとらえて在籍学級への働きかけを行っていきたい。
吃
音分科会の質疑応答や協議の話題
A 今まで私は吃音を腫れ物にさわるようにしてきたなと思う。それは、子どもが幼稚園でからかわれ、いじめられたという経験があるからだ。奥村さんが発表された事例の子はどうだったのだろうか。そんなとき、どう対応したらいいのか。
奥村 子ども本人に、いじめられたり、からかわれたとき、どう感じたか、どう思ったか、尋ねる。そして、対策を一緒に考えていこうと伝え、話し合っていくだろう。たとえば、みんながからかってくると言うけれど、どれくらいの人がからかうのか。ほんとは何人くらいか。じゃ、みんなではないんだね、というふうに。
B 初回の出会いのときから、自分のどもりについて「これは、僕が3歳くらいからの癖だから、しょうがないでしょ」と言っていて、すなおに育っているなあと思う。育ててこられた母親はどんな人だったのか。
奥村 母親は、きちんと子どものどもりを受け止めていた。吃音ワークブックやどもる君への本も紹介して読んでくれていた。
C 担当している小1の子どもは、話すとき、苦しそうだけど、ことばには気づいていないようだ。そういう子に対して、吃音だからということを言っていいのか、どうか迷っている。
奥村 小1なら、自分の話し方が他の人と違うことには気がついているはず。なぜ、ことばの教室に来たの?という問いかけから始めたら、語ってくれるのではないだろうか。僕なら、それが「吃音」であることを知らせ、原因がよく分かっていないこと、誰のせいでもないことを伝える。
D なぜ、この子に、吃音を学ぶという視点での取り組みをしようと思ったのか。どれくらいのスパンで考えていたのか。
奥村 長いスパンで、半年から1年くらい。なぜ、触れてほしくないのかという問いを返してもいいのではないか。治るかどうか、治るとはどういうことなのか、から始まり、じゃ、吃音について勉強していこうか、学んでいこうという流れになった。
E 「ゆっくり言えばどもらないよ」と言って、そうさせようと思うが、本人はゆっくり言うことに抵抗があって、しようとしない。無理強いするつもりはないが、どうしたらいいだろうか。
F 初回で、なぜことばの教室に来たのかという本人の通級意識を確認している。吃音を語る方が本人にとって楽じゃないかなと思うので、尋ねる。「そうだ」と言う子もいるし、「うん?」と言ってはぐらかす子もいる。そういうときは、話していて、「…」となったときに、「今、…となったけど、そのために来ているんじゃないのかな」と言う。担当者である私には正直に話してほしい。それによって、私は何も態度は変えないよというメッセージは伝えるようにしている。
奥村 ゆっくり言うのは嫌だと言う子は多い。どもりながら言う方がその子らしいしゃべり方だということだと思う。そのような子に、ゆっくり言う練習をするのは、私ならしない。どもるどもらないより、しゃべる内容が大事だと言いたい。
G 語頭音を出すのが辛そうなので、軟起声(そっと柔らかく言う)を取り入れている。そして、自分でもできるようにやってみている。
奥村 症状に注目しないことが大切だと思う。内容に注目したい。事例で話した子どもが、おなかをたたいたら声が出るといったのは、その子が考えた工夫なので、それはそれでいいと思う。どもってもどもらなくてもどっちでもいいと思う。
H どもる子どもの困り感には、①どもってしゃべれない。②みんなに言えない。話題にできない。という2種類があると思う。話題をはぐらかす子は要注意。その背景を考えることが必要。今、担当している子どもは母親には話すが、僕には言ってくれない。聞いても「別に」と言う。僕は話題にしたいと思っているが、難しい問題だと思う。
奥村 「困っていることない?」と聞くと「ない」と言う子は多い。気づいていない子もいる。いろいろ話しているうちに出てくる。
I 1対1だとはぐらかされることが多いので、私はグループ指導が好きだ。「つまっていて何を言おうとしているのか周りにそれが分かるとき、言う前に言われてしまうときってある?」という話題を出すと、絶対嫌だという子、ラッキーだと思う子、それって超能力だと返す子、外れていたらブーッと言う子など、グループ指導だと、子ども同士でいろいろ自由に話している。
奥村 私の場合は巡回指導なので、グループはできないが、吃音親子サマーキャンプなどに参加し、グループで話しているとき深い話ができることはよく知っている。
J 発表された事例の子どもは、音読は大丈夫という子なのに、音読を取り入れた理由は何か。
奥村 純粋に音読を楽しむため。どもりの子に限らず、いろんな子どもにも取り入れている。
K どもる子が3人が来ていて、不安が強く、集団が嫌で、給食や運動会も嫌で、グループに入れない。氷山の下の部分が大きいと思うが、どう取り組んでいるのか。
奥村 シーアンの吃音氷山説の水面下の部分、吃音から影響される行動、思考、感情に取り組むためにも、まずどもりの話や学習をしている。その結果として、行動や思考感情が変わってくる。
参考文献
・『親、教師、言語聴覚士が使える、吃音ワークブック~どもる子どもの生きぬく力が育つ』(解放出版社)
・『どもる君へいま伝えたいこと』(解放出版社)
・学習・どもりカルタ(日本吃音臨床研究会)
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/08/10

