第12回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会、終わりました
子どもの非認知能力を育てる~どもる子どもが幸せに生きるために、ことばの教室でできること~をテーマに、7月26・27日、千葉県柏市の「さわやかちば県民プラザ」で、第12回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会を開催しました。
1日目の終了時刻が、午後8時という、僕たちにとってはいつものことなのですが、おそらく普通では、とんでもなく長い時間の研修会でした。それでも時間が足りないくらい盛りだくさんの、中身の濃い、充実した2日間でした。
参加者の中には、非認知能力って何だろうという人もいれば、非認知能力について学びたくてこの研修会に参加したという明確な参加動機をもつ人もいました。今、幼児教育で注目を集めている非認知能力が、少しずつ、幼児教育から学童期の教育にと裾野を広げてきているということなのでしょうか。
オープニングは、非認知能力を意識した取り組みの実践発表でした。具体的な子どもの声、作文などが紹介され、担当者と子どものいきいきとした姿が目に浮かぶようでした。
非認知能力とは何か。まず自分自身の非認知能力のセルフチェックをするところから始まりました。たくさんの非認知能力の項目それぞれに、3つの設問があります。○、△、×でチェックをしていき、その中から、一番自分の特徴的な項目を選びます。そして、そのセルフチェックをもとに、質問をし、対話をします。たとえば、こんな質問です。
①なぜ、その項目を選んだのか、
②それにまつわるエピソード
③そのことを知っている人がいるか
④そのことを誰かに話したことはあるか
⑤そのことについて、誰かから指摘されたことはあるか
そして、質問され対話をしたことで、広がり深まったエピソードを、物語としてまとめ、紙に書きます。この一連のエクササイズを、僕がみんなの前でデモンストレーションで行いました。出てきてもらった3人の方のエピソードはそれぞれにユニークでおもしろいものでした。人生の転換期が次々に現れ、そのときどきにチャレンジを続けてきた人が選んだのは、「好奇心」や「冒険心」。何年もずっと続けて日記を書き記している人は、「持続性」を選んでいます。その後、4人グループに分かれ、同じように、エピソードをまとめてもらいました。
午後は、僕の基調提案から始まりました。非認知能力とは何か、おおよそ理解いただけだろうとの前提のもと、ここでは、僕自身の体験を語り、僕の非認知能力について、みんなで考えました。小学2年生秋の担任教師からの配慮で吃音に悩むようになり、吃音を否定したつらい、苦しい学童期・思春期を送ったこと、21歳で東京生正学院に行ったこと、そこで初恋の人や仲間に出会い、どもる人のセルフヘルプグループを作ったこと、吃音とともに生きることを軸にした活動を展開し、「吃音者宣言」を提起し、全国巡回吃音相談会や世界大会を初めて開いたこと、吃音親子サマーキャンプを続けて今年34回目になることなど。小学2年生秋から21歳までの僕からは到底信じられないような活動をしていますが、それは、小さい頃の僕の持っていた非認知能力が発揮されたからだと思います。そんな力が、ことばの教室に来ている子どもたちに育つよう、大人として何ができるか、考え続けていきたいと思います。
その後は、吃音カルタ、言語関係図、吃音氷山から吃音チェックリストなどの教材を使った実践を、僕たちの仲間が発表しました。その都度、質問を受け、答え、参加している全員の温かい応答性が広がったように思いました。そこで出てきたキーワードが「いきあたりばったり」。子どもとの対話の時間は、計画どおりに進むことはありません。そのときそのときに、担当者と子どもの間に流れるものを大切にして、感じたまま、動くしかありません。臨機応変、柔軟な対応といえますが、「いきあたりばったり」のフレーズが、みんな気に入ったようでした。根幹にある土台に揺るぎないものがあれば、いきあたりばったりのように見えて、収まるところに収まるのです。ちなみに、夜の打ち合わせで、「いきあたりばったり」という歌があることがわかり、調べてみると、「人生いきあたりばったり」というタイトルの歌が存在することが判明しました。何度も、「いきあたりばったり」の歌詞が繰り返される歌を聴きながら、盛り上がりました。
その後は、グループに分かれて、一日のふりかえりをし、全体でもふりかえりをして、終了。時計は、ほぼ予定どおりの、午後8時を指していました。翌日の予告をして解散です。
翌27日は、9時20分から始まりました。オープニングに、夜みつけた「人生いきあたりばったり」の曲を流しました。講習会のテーマソングになるかも、なんて話していました。
プログラムは、この、親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会の顧問をしてくれている国立特別支援教育総合研究所の牧野泰美さんの基調提案から始まりました。文科省がいう「非認知能力」についてわかりやすく解説をし、牧野さん自身の体験から非認知能力について触れたお話の内容は、僕たちへの力強い応援歌でした。
この吃音講習会の目玉ともいえるプログラムが、次の、成人吃音の人へのインタビューです。打ち合わせは全くせず、何のすり合わせもせず、当日のインタビューが始まりました。就活のこと、最初の仕事のこと、今の仕事を通じて感じていること、いわゆる合理的配慮について自分の体験を通して思うことなど、時にことばを探してぽつぽつと、時に熱を帯びて勢いのある声で、対話は続き、あっという間に予定の時間を過ぎていきました。
最後は、2日間のまとめです。どうしたら、子どもたちの非認知能力が育つのか、大人として何ができるのか、そんなことを参加者に問いかけていきました。そのまま、最終のセッションである、みんなで語ろうティーチインに入っていきました。2日間、何を経験し、何を感じたのか、それぞれ自分のことばで語っていくのが印象的でした。とくに印象に残った感想を紹介します。
・実践を発表する人がどの人も楽しそうに笑顔で話すのに驚いた。それだけでなく、聞いている人たちもニコニコして楽しそうに聞いている。こんな講習会は初めてだ。
・初めてことばの教室の担当になった。いろいろ本を呼んだり、先輩の先生から話を聞くが、こうしたら改善するとか治るとかの話が多く、それはおこがましいというか、違和感を感じていた。そんなときに、この講習会の案内を見て、そこに書いてある内容を読み、ここだと瞬間的に思って参加した。この直感は当たっていた。
僕たちにとっては、いつもの空間、いつもの場なのですが、どうもそれは特別な場のようです。僕たちにとって、この2日間は、とても居心地のいい、時間であり、空間でした。参加していた方も、同じように感じていただけたこと、何よりもうれしいことでした。
来年もぜひ、またお会いしたいです。まだ日にちは決定していませんが、決まり次第、ホームページなどでお知らせします。
第12回親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会の詳細報告は、「スタタリング・ナウ」紙上で、後日、行います。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/07/28





