第34回吃音親子サマーキャンプ 演劇のための事前レッスン ~吃音親子サマーキャンプは、演劇の事前レッスンから始まる~
演劇のための事前レッスンの報告の前に、うれしい話を紹介します。
吃音親子サマーキャンプは、今年、34回を迎えますが、本当にいろいろなドラマを生み出してきました。小学生として参加していた子が高校3年生で卒業して、またキャンプのスタッフとして戻ってきてくれる、こんなことは、なかなかないことだろうと思います。僕たちがキャンプで伝えたかったことをしっかりとつかんでくれた子が、今度はスタッフとして、どもる子どもたちに伝えてくれている、そんないい文化、いい伝統が受け継がれているのです。
そんなサマキャン卒業生で、常連スタッフのひとり、大輝君から、事前レッスンの初日に、メールがありました。
「事前合宿お疲れ様です。サマーキャンプの参加についてですが、仕事で1・2日目の休みが取れず、キャンプ自体への参加が難しくなりました。猶予をギリギリまで与えていただいていたのにすみません。父親になりたての自分がこんなことを偉そうに言うことではないですが、大変な思いをして僕を育ててくれたこと、サマーキャンプに連れてきてくれたことから人生が好転したこと。娘の顔を見ながら、そんな親の苦労や親への感謝を感じる日々です。尚更、参加したかった。
そんなことを言いながら、来年度にはふるさとの愛知へ移って、子育てをしていく予定です。
両親が近くにいる分、子育てのことを頼ってしまうかもしれませんが、その分、サマキャンには参加しやすいかもしれません。
来年度以降は全力でサマキャンに関われるようにしたいと思ってますので、どうかお二人ともお元気でいてください。
事前合宿のみなさんも、暑い中大変だと思いますが、頑張ってください」
そして、赤ちゃんを抱っこしている大輝君の写真も添付されていました。事前レッスンに参加しているスタッフの全員が大輝君を知っています。大輝君が小学生だった頃を知っているスタッフも少なくありません。みんな、写真を見ながら、「おーーーーっ。父ちゃんになったんやー」と感慨深いものがいっぱいでした。自分が親になって、サマーキャンプに連れてきてくれた、その頃の親の思いを知る、ということなのでしょう。長いスパンでつきあっていると、こんなうれしいことに遭遇します。こうなると、来年までがんばらないといけないな、元気でいないといけないな、と思います。
さて、今年の事前レッスン、23人の参加でした。東京、埼玉、千葉、静岡、三重、愛知、兵庫、新潟、京都、大阪など、かなり遠くからの参加もありました。この事前レッスンを担当してくれているのが、東京学芸大学教職大学院准教授の渡辺貴裕さんです。渡辺さんは、吃音とは全く関係ありませんが、大学生の頃から今まで欠かさず、26年間、このキャンプに参加し、竹内敏晴さんが亡くなった後は、竹内さんのシナリオをもとにした演劇をスタッフが子どもに指導するための事前レッスンの担当をしてくれています。竹内さんが事前レッスンをしていた期間と、渡辺さんに代わって渡辺さんが担当してくれている期間とがほぼ同じになったということでした。これまた長いおつきあいに感謝しています。
演劇の事前レッスンの会場は、僕の両親が眠っている浄土宗・銀山寺というお寺の一角にある研修室です。1998年頃から、リーダー研修会やサマーキャンプの事前レッスンなどの会場として、使わせてもらっていたことが記録に残っています。
今年の演劇の演目は、宮沢賢治の作品の「雪わたり」。10年ぶりの上演です。登場するのは、人間の子どもの四郎とかん子、そして別の世界に住んでいるきつねたちです。この子どもときつねのやりとりが、リズミカルなことばの繰り返しで展開していきます。
初めはからだを動かし、声を出し、歌を歌い、演劇に入る準備をしました。芝居の中でのある場面につながるモチーフを、いつもいろんな形で提示してくれる渡辺さん。みんな渡辺さんのリードで、宮沢賢治の世界に入り込んでいきました。
みんながいろんな役を交代でしていきます。途中でストップしては、小さなグループを作り、似た場面を演じたり、せりふの言い回しを考えたりします。すると、舞台の上で繰り広げられる世界が変わります。このエクササイズが、サマーキャンプ当日、子どもたちと劇を作っていく上でとても役に立つのです。
全員がそろった頃に自己紹介。このスタッフで、サマーキャンプがいよいよ始まるぞという気分になります。
立候補したり、推薦したりして、役が決まっていきました。積極的に出ていく人、遠慮がちな人、それぞれの性格が表れます。衣装や小道具のことも相談しました。衣装や小道具を担当してくれる人には、台本を見ながら、いろいろとアイデアが浮かぶようです。「何かほしい物があったら、発注してください」という声もありました。自他共に認める衣装・小道具係がいてくれること、本当にありがたいことです。
一日目は夜9時過ぎまで練習をし、その後、実行委員会をしました。二日目は朝9時から練習を始めました。土曜日、どうしても抜けられない用事があって参加できなかった人が、夜行バスでかけつけてくれました。午後、通し稽古をして終了。いつものように井上さんがその様子を録画してくれました。それをみんなで共有し、復習をします。当日までの自主練です。
「サマーキャンプは、事前レッスンから始まる」、僕たちはよくそう言ってきました。
そう、吃音親子サマーキャンプは、ここ、演劇の事前レッスンから始まります。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/07/14










