岡山での吃音相談会
昨日は、岡山言友会が主催する吃音相談会がありました。
岡山言友会の植山さんや藤岡さんが中心になって、毎年、僕を講師に呼んでくれているのです。僕が全国言友会連絡協議会を離れてからもずっと続いています。
岡山駅に迎えに来てくれた植山さんの車で、会場の生涯学習センターに着きました。着くと、田辺さんや宇治橋さんが迎えてくれました。ちょっと休憩していると、広島から車を飛ばしてきたという、旧知のことばの教室担当者3名とばったり出会いました。
吃音相談会は、机や椅子を動かして、みんなで会場設営するところからスタートしました。
そして、いつものように、簡単に僕の歴史を話しました。小2の秋から吃音に悩み始めたこと、みじめな小・中・高時代を送ったこと、21歳のとき転機があり人生が変わったこと、どもる人のセルフヘルプグループを作ったこと、世界で初めて世界大会を開いたこと、どもる子どもたちのために吃音親子サマーキャンプをしたり、担当者向けには吃音講習会など研修会をしていること、などを話しました。60年間、たくさんのどもる人、どもる子どもたちに出会ってきた僕、吃音について考え続けてきた僕に、何か聞きたいことはないだろうかと尋ねました。
ひとりの青年が手を挙げてくれました。せっかくなので、前に出てきてもらって、僕との対話が始まりました。
会社の上司や同僚は彼のことをよく理解してくれています。どもって声が出ないときも待ってくれます。でも、彼は、うまく言えなかったり、質問したくてもことばが出てこなかったりすると、落ち込むのだそうです。それはなぜなのだろうか、彼と対話を続けました。すると、彼がどもり始めたのは、つい最近、5年くらい前のことだと分かってきました。昔はちゃんとしゃべれていたのに…、その思いはなかなか消えないようです。治したい、吃音さえなければ…と思ってしまうのだそうです。そして、仕事を度々休み、今は休職中で、休職中に吃音を治すところを探していたといいます。
僕は、この話を聞いて、60年前に出会っているひとりの禅僧の話をしました。
その人は、小澤道雄さんです。シベリアで抑留され、凍傷で両足を切断します。敗戦後の混乱の中、健康なからだでも生きていくのが大変な状況の日本です。ましてや、両足切断の自分がどう生きていったらいいのか、将来に対する大きな不安の中で、どうしても両足があり、健康だった頃の自分と比べて、荒れて、病院のスタッフに八つ当たりします。その絶望のなかで、ある日、ぱっと閃きます。「そうだ、足があった頃と比較するから苦しいんだ。足がないまま、今、生まれてきたのだ、と思うことにしよう。本日ただいま誕生だ」と悟りにも似た思いが浮かんできます。小澤さんは、足なし禅師として、あちこちで講演活動をされていました。僕は、小澤さんの話を聞きながら、なみだが止まりませんでした。吃音さえなかったらと、我が身を恨んでいた自分と重ね合わせていました。
もうひとり、スキャットマン・ジョンの話をしました。ただ黙って、ホテルでピアノを弾いていたジョンにCD発売の話がきて、ジョンは、うれしさよりも、不安の方が大きくなります。もし、売れたらインタビューされて、自分の吃音がばれてしまうかもしれない、そんな不安に耐えきれず、妻に相談したら、そんなに不安なら、いっそのこと、公表したらとすすめられ、CDのジャケットに吃音のことを書きました。そのことだけで、ジョンは吃音をみとめ、楽になり、新しい人生を歩むことができるようになったのです。でも、ジョンはがんで、55歳で亡くなってしまいます。吃音とともに生きたのは、亡くなる前のたった5年間でした。
彼の心にどう届いたかどうかは、分かりません。でも、何かが確実に伝わったと実感できました。一日も早く、仕事に復帰することを勧めました。彼は、吃音を治そうとは思わずに、吃音と共に生きる道を選択し、きっと動き出してくれることでしょう。
僕にできる最大のことは、僕自身が歩んできた道を語ること、そして、僕が出会った大勢の人たちの中から、その人が今後生きていくために、少しでも考えるにふさわしい体験を伝えることだと思っています。おそらく世界で一番、どもる人やどもる子どもたちに出会っているのは、僕です。そんな僕にしかできないこと、そんな僕だからこそできることだと思っています。これからも、体験の処方箋、ことばの処方箋を手渡していきたいです。
そのほか、就活の面接で吃音のことを伝えるべきかどうか、電話でどもると、相手が「電波の調子が悪いですね」と言うが、その対処法としてどうすればいいか、など、質問が続きました。ひととおり、質問に答え終わった後、健康生成論や非認知能力について話しましたが、時間があまりなく、中途半端になってしまいました。この続きは来年に、なんて言われましたが、来年の約束など到底できません。一日一日、大切に愛おしみながら、過ごしていきたいです。
懐かしい顔や初めての顔がそろった岡山での吃音相談会。20名の参加で、いい時間を過ごしました。
日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/06/23


