チーム・国際部

 それにしても、僕は、これまでいろいろなところで本当に大勢の人に助けられてきたなあと思います。言友会創立のときは東京にいましたが、創立に加わった人も含めたくさんの仲間がいました。大阪教育大学に行きたいという後輩につられて大阪に来たときも、大阪教育大学の研究室には、大勢のどもる人が集まりました。英語ができない僕の周りには、翻訳・通訳をしてくれる人が現れました。そのきっかけが、言友会が全国に広がっていく時期に一緒に活動した親友のお葬式だったというのも、感慨深いものがあります。
 今日は、「英国王のスピーチ」の特集の第2弾です。「スタタリング・ナウ」2011.5.23 NO.201 より、巻頭言を紹介します。

  チーム・国際部
                    日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二

 今、アルゼンチンのブエノスアイレスで、第9回国際吃音連盟の世界大会が開かれている。5月17日から始まり、21日までの日程だ。
 開会式では、私のメッセージが配布され、国際連盟の会長であるマイケル・シュガーマンによって読まれる手はずになっている。
 東日本大震災の直後、私たちの安否を尋ねるメールが世界各国から届いた。吃音親子サマーキャンプに参加していた女子中学生と母親が亡くなったこと、大きな悲しみを持ちつつ、日本人が力を合わせて復興の道を歩み始めていることを伝えたかった。また、第1回世界大会を開催した人間として、第9回世界大会に期待することを書いた。
 1986年、京都で第1回吃音問題研究国際大会を、私が大会会長として開催した時は、インターネットはなく、ファックスさえ一般的には普及していなかった時代だ。今から考えればよく世界大会ができたものだと思う。なぜできたのだろうか。
 どもることで恥ずかしさや数限りない失敗を重ねてきた私には、強い味方がある。それは、常に最悪の事態を考えるクセがついていることと、失敗を恐れないということだ。吃音でたくさん嫌な経験をし、様々な失敗を繰り返したことがからだに滲みている。どんな失敗をしたとしても、命をとられることはない。大失敗したとしても、たいしたことではない。むしろ困難なことに挑戦したという自負と自信が残るだろうと考えていた。
 失敗を恐れないことは、吃音の悩みの中から得た私の力だと思う。
 しかし、いかに蛮勇をもって挑戦したとしても、私たちの能力には限界がある。第1回だから、まず、海外のどの国にどのようなグループがあって活動しているかを調べ、連絡を取り合わなければならなかった。それが私たちの第一の関門だった。それなしには何もスタートできない。
 若くして亡くなった、京都の傑出したリーダーであり、親友だった故吉田昌平さんとの不思議な縁で、進士和恵さんと出会った。現在、日本吃音臨床研究会の国際部長として国際的な様々な活動の中心にいて下さっている。この進士さんとの出会いから世界大会が実質的にスタートしたといっていいだろう。私の書いた多くの手紙や文書が翻訳された。第1回世界大会は大勢の人々を巻き込み、2000万円もの資金を集め、11か国、400人が参加する、文字通り世界で初めての世界大会となり、大成功を収めた。その後も続いていく道筋をつけたことが何よりもうれしい。
 大会は、ドイツ、アメリカ、スウェーデン、南アフリカ、ベルギー、オーストラリア、クロアチア、そして今回がアルゼンチンと続いている。
 何度も参加した世界大会での基調講演やワークショップだけでなく、国際吃音連盟の機関誌「ワンボイス」の編集、「世界吃音デー」での発表など、様々な国際的な活動ができるのは、日本吃音臨床研究会が誇る国際部があるからだ。
 今回、「英国王のスピーチ」が世界的な話題になり、たくさんのメールや情報が世界中にあふれた。アカデミー賞の主要部門の受賞によって、吃音が初めて晴れやかな舞台で誇らしげに語られた。長い吃音の歴史の中で、考えられもしなかったことが実際に起こったのは、英国王の吃音を、奇をてらうことなく、正攻法で伝えようとした映画制作スタッフの熱意と誠実さがあったからだ。
 制作秘話が、脚本賞を受賞したサイドラーによって語られ、吃音の国王を演じることの難しさと喜びを主演男優賞のコリンファースが語っている。吃音について考える貴重な資料と言えるだろう。
 公開されている音声を宮地大始さんがテープ起こしをし、英文編集者のアメリカ人ゲーリ・ブルームさんが確認する。それが翻訳され読みやすい日本語になっていく。このような大変な英訳、和訳の作業が、進士さんを中心としたチームとして常に取り組まれている。チーム・国際部の努力によって今回の興味深い内容の特集が組めた。チームの努力に感謝したい。まだロングランが続いている劇場がある。是非、映画を観ていただきたい。

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/05/06

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