英国王のスピーチ~新聞記事より~キーワードは「対等」「誠実」

 アカデミー賞を授賞した映画「英国王のスピーチ」に関して、多くの新聞が取り上げていました。その中から2紙、紹介します。1紙の産経新聞では、僕が試写会後にインタビューを受けたものを参考に書かれています。もう1紙は、朝日新聞です。(「スタタリング・ナウ」2011.3.20 NO.199)

産経新聞 平成23年(2011年)2月21日月曜日 
  キーワードは「対等」「誠実」

 今年のアカデミー賞で最多12部門にノミネートされた映画「英国王のスピーチ」(トム・フーパー監督)が公開される。吃音に悩む英国王ジョージ6世(コリン・ファース)がスピーチ矯正の専門家、ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)の助けで、真の王になるまでを綴る実話に基づいたドラマ。日本吃音臨床研究会会長で、大阪教育大学非常勤講師の伊藤伸二さんは「この映画は多くの人たちに勇気を与えると思います」と話した。(橋本奈実)

映画「英国王のスピーチ」
「吃音」自分に置き換え考えよう

 伊藤さん自身も幼いころから吃音に悩み、東京の矯正学校に通った。主人公がライオネルと出会うまでに行っていた治療法も経験。度胸をつけるため、授業で山の手線の車内で演説練習をしたことも。が、懸命な努力の末、「吃音を”克服”するのではなく、うまく”付き合う”」という考え方にシフトチェンジして光明が見えたという。
 そんな自身の経験から得たキーワードが、この映画には多く含まれているとも話す。
 まず「対等」。英国王に対して、矯正の専門家は対等な立場を望む。王と一般人というだけではなく、教師と生徒が同じ目線に立つことを意味する。
 「上の立場からのアドバイスではなく、一緒に悩み、苦しみ、歩んでくれることが大事なんです」
 それは家族も同様。映画でも夫のために必死で専門家を探すなど献身的に尽くす妻や、父を愛する娘たちが描かれている。
 そして「誠実」であること。ジョージ6世はスピーチが苦手でも、自分の立場から決して逃げない。「たとえ言葉に詰まっても、誠実な思いは必ず伝わる。相手の反応を恐れて言いたいことを言わずにいる方が、他人にも自分にも不誠実と気付いてほしい」と話す。
 伊藤さんによると、世界の人口の約1%が、吃音だという。公言している著名人も多く、作中、その中の1人は印象的に登場する。
 「英国王のことは知りませんでしたが、その登場人物が吃音であることは知っていたので、どんな風に出てくるのか、楽しみにしていました。とても好きな場面です」
 作品のテーマは吃音ではあるが、誰もが自分に置き換えられるとも。「だって弱点や劣等感を持たない人はいないでしょう? 自身はそれを個性のひとつととらえて付き合っていく勇気を、周囲はそのままでいいんだよ、と受け入れる愛情を持ってほしい」
 26日から、TOHOシネマズ梅田ほかで公開。

☆映画「英国王のスピーチ」について語る伊藤伸二さん
伊藤伸二(いとう・しんじ)昭和19年奈良県生まれ。明治大学文学部、政治経済学部卒業。在学中に成人吃音者のセルフヘルプ・グループを設立。第1回吃音問題研究国際大会を大会会長として運営し、現40力国以上が加盟する国際吃音連盟の礎を作る。大阪教育大学特殊教育特別専攻科(言語障害児教育)を修了し、同大学専任講師を経て非常勤講師に。平成6年、日本吃音臨床研究会を設立。吃音親子サマーキャンプや相談会、専門雑誌発行などを行っている。

朝日新聞 2011年3月9日
  吃音 正面から真剣に
米アカデミー賞 4部門獲得「英国王のスピーチ」

 先月発表された米アカデミー賞で、作品賞など主要4部門を獲得した「英国王のスピーチ」が公開中だ。吃音を克服していく英国王ジョージ6世の実話を、ケレンを排して丁寧に追った作品。主演男優賞のコリン・ファースと監督賞のトム・フーパーに、受賞前に開かれたベルリン映画祭で話を聞いた。(石飛徳樹)

主演ファース、監督フーパーに聞く
 ファース演じるジョージ6世は英国王の次男だが、吃音のために人前で話すことを苦手としていた。ある時、兄エドワード8世が恋のために王室を去り、ジョージに王位が回ってくる。彼は風変わりなセラピスト(ジェフリー・ラッシュ)に付いて吃音を治そうとするが、一朝一夕には行かない。その頃英国はナチスとの対立が決定的になりつつあった……。
 ファースは吃音の練習に約3週間かけたという。「これがなかなか本当らしく出来ない。誰かにレッスンを受けたりはしなかったが、吃音を理解するにあたって、脚本を書いたデビッド・サイドラーのアドバイスは参考になった。彼は自分自身が吃音で悩んだ経験があったんです」
 名優の中には、人前で話すことへの苦手意識を克服するため、演技の学校に通い始めた経験を持つ人が少なくない。「実は、私もかなり苦手です。インタビューに答える形ならいいけれど、一人でスピーチをするとなると、なかなか勇気が要る。しかし、これは誰もが感じることでしょう。お葬式に参列してスピーチをしなくてはいけないのなら、ひつぎに入っていた方がましだと考える人もいるらしいですからね」
 吃音というのはしばしば滑稽に描かれる。しかし、ファースの演技からは、それはかけらも感じられない。
 「滑稽に映るのは、ものごとを誤ってとらえているからです。つまり演技が下手だということ。私は吃音をやりすぎていないか、重苦しくなりすぎていないか、ということに気を使いました。かといって彼のつらさが十分伝わらないと意味がありませんし」
 フーパー監督もこう話す。
 「不思議なことに、吃音は笑われがちです。そのため、喜劇によく登場するけれど、正面から真剣に吃音を取り上げた作品はなかった。他人とのコミュニケーションについては誰もがある種の恐れを抱いている。だからこそ、コミュニケーションをうまく出来ない男の話が観客の心を打つのだと思います」

日本吃音臨床研究会 会長 伊藤伸二 2025/04/29

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